コラム/発信
東京・杉並区政と区議会のいま―2025年春夏
杉並区議会議員 奥山 たえこ
3月予算議会―可決するも反対多し
2025年の一般会計予算は、賛成27名、反対20名で可決された。反対したのは自民党会派8、無所属+都民ファーストの会4や無所属など。私奥山も反対した。昨年退席した自民党会派のうち4名は今回は反対に回った。
反対理由で多かった意見は、区内全世帯に防犯用品カタログを配布して3000円相当の購入ができるという新規施策に対するもの。なるほど防災意識の向上は必要だが、費用対効果に問題ありでばらまきだとの指摘があった(必要額13億円のうち経費が44%)。岸本聡子区長は防災意識は大地震があった直後は高まるものの、やがて忘れてしまう。今回のカタログは防災マニュアルとして保存版となるものであり、ばらまきには当たらないと自ら説明したが反対する議員の納得は得られなかった。
議会人事―議長の交代
5月の臨時会で、2年前に就任した議長(女性80歳)が辞任し、新議長(男性75歳)が選ばれた。定数48名に対して24票を獲得(自民党会派選出の候補は16票だった)し、今回も区長シンパの議長を得ることができた。他に重要な役職は議会運営委員会(議運)の委員長だが、引き続き自民党会派の方から選出された。
杉並区議会は4名以上だと交渉会派となり、議運メンバーになれる。今般これまで2名だった会派を他の3名と合流し5名で会派(「シスターフッド杉並」)を結成、奥山は幹事長に就任。これで議運の委員では区長シンパの人数が優勢となった。さらに我が会派から委員長、副委員長を出すことが出来た。議会は数が力だとは言いたくないが、集まったメンバーの多寡でポストが分配され、声が大きくなるのが現実である。なお杉並区議会は、他と比較して少数会派にも配慮する仕組みになっている。
議員への懲罰委員会
議員の中には、議会の質問などの際に誹謗中傷と思える発言をする人がいて、傍聴した区民から「どうして辞めさせられないのか」と問われることがあった。だが「はい、それが・・・」と言葉を濁すしかない。議会が同僚議員を辞めさせることは、制度としては存在する(地方自治法134、135条)ものの、そのハードルは非常に非常に高い。ところが、2月19日の一般質問において、教育委員会の在り方について言及して「ふざけるなと言っておきます」と言い、手を振りかざし演台を叩くという事案が発生した。議場は抗議の声で騒然となった。その行為に対して21名の議員が懲罰動議に連名し、2025年3月杉並区議会史上初めてとなる懲罰特別委員会が設置された。この事犯者はこれまでにも問題とされる発言を度々行なっていた。しかし、炎上商法(SNSが多くの人たちに注目を浴びて名が売れること)に燃料を投下する(手を貸す)ことは避けたいとの思いがあって、これまで懲罰動議に至ることはなかった。だが今回は流石に見過ごせないという思いがあった。
懲罰特別委員会はどのような審査をするという決まった様式があるわけではない。懲罰を科すか科さないか、科すとしたらどの種類にするかを決めることだけが法定されている。そこで23区における過去の事例を参考に委員長が方針を示し、委員の同意を取りながら進めていった(奥山は委員に加わった)。内容は地方自治の専門家や弁護士の知見を伺う、区民から公募して意見を伺う公聴会。「ふざけるな」と言われた職員の意見聴取、事犯者本人の弁明など、6月まで全8回に及んだ。
そうして、懲罰を科す、その種類は「戒告(議長が戒告文を朗読して聞かせる)」と多数決で決定した。懲罰は、軽い方から、戒告、陳謝(本人が指定された文章を読み上げる)、出席停止、除名の4段階となっている。ちなみに2023年除名となったNHK党ガーシー参議院議員は、当初陳謝とされた。ところが帰国すると言った本人が帰国しなかったので、再度懲罰にかけられて、72年ぶりに除名とされたものである。なお、地方議会で除名とされるケースは時々あるが、事犯者が裁判に訴えて、除名は無効とされる例はいくつかある。懲罰の対象とされるものは、議会の規律と品位を保持して運営を円滑にすることを目的とするもので、議会の自律権に基づいて制裁を科すものである。しかし、品位とは何かは抽象的であり、人によって判断が分かれる場合もある。今回公聴会で、懲罰に反対する立場の区民からは、机を叩くくらいのことで威嚇されたと感じるのはおかしい、議員として不足だとの意見もあった。杉並区議会は、女性が半数いることもあって、その意見そのものにびっくりする声もあった。
さて今回、戒告を聞かせる場面になっても事犯者は議場に戻ってこなかった。呼びに行ったが「戻らない」と議長に直接表明した。そこで議会の会期を延長し(これも非常に珍しい)、日を改めることにして呼び出しをした。しかし指定の日、事犯者は登庁して議員たちと区長などが控える議場に入ったものの、戒告を受けるつもりはないと発言しすぐに退場して、戒告の場面には現れなかった。仕方がないので、議長は本人不在のままで戒告文を朗読した。一連の手続きはこれにて終了した。
都議会議員選挙―自民の1名落選
杉並区の都議定数は6名なので、自民党、公明党など国政政党は共産党まで、"カンバン"のある人がほぼ常連となっている。加えて無所属や生活者ネットワークが議席を獲得していたこともある。ところが2017年に小池百合子都知事による都民ファーストが設立されると、上位2名を占め(なお1名は翌期落選)、無所属候補の当選は難しくなり次点などに回ることになった。
今回2025年の開票結果は、当落で言うと現職の1名が新人に入れ替わっただけとも言える。しかし候補者は17名と多く、しかも政党や推薦団体などがつくなどそれなりのバックボーンを持った人ばかりなので、当選ライン票数は下がり、議員の入れ替わりもあると予想した。
開票結果であるが、自民党現職2名はどちらも”裏金”議員である(金額も大差なし)。ところが小宮あんり氏(4期経験)の方は幹事長経験者だということで公認が得られずに、次点落選となった。早坂よしひろ氏は堅調に議席を守った(6期目)。今回6位で都議初当選となったのは、新人国民民主党の国崎たかし氏(43歳)である。彼は自民党石原伸晃氏の秘書を務め2019年区議に初当選。翌期2023年に落選した(この時自民党は現職7名が落選している)。他は、立憲、公明党、共産党、票の増減はあるものの議席を守った。
生活者ネットワークは次々点。れいわ新人は前回(別の候補者)同様議席には届かなかった(都議の当選はゼロ)。
同名だが別団体である「日本保守党」からはそれぞれ1名が出馬。政党要件のある日本保守党 https://hoshuto.jp/ (百田尚樹代表)は大谷しろう氏(「移民による福祉タダ乗り是正」)、政治団体日本保守党 https://nht.jp/ (表記は「諸派」。石濱哲信代表。設立はこちらの方が先)の方とである。こちらは元杉並区議佐々木千夏氏(「行き過ぎた外国人優遇政策」)。両者の政策は外国人ヘイトと似ている。佐々木氏の街宣の場にはプラカ(プラカード)を持ったプロテスターが大勢集まって、選挙中なので肉声で抗議してちょっとした騒ぎになり、SNSに写真や動画が投稿された。最近の選挙街宣ではヘイトスピーチをする候補にはそのような場面が見られる。さて驚いたのは、両者の得票がほぼ同じで、二人の票を合わせると(合流はあり得ないのだけれど)2万票を超える、つまり一人分当選に十分な得票だったことである。なお外国人特権があるなどのデマを訴えた参政党は、杉並では出馬していない(都内で4名出て3名が当選という結果であった)。ただ地方選挙では既にこういった政策を掲げる候補が各地で議席を得ている。佐々木千夏候補の応援に入った河合ゆうすけ氏(副代表。ただし2025年7月離党)は1月の埼玉県戸田市議選で大量投票でトップ当選を果たしている。6月の兵庫県尼崎市議選挙では「移民政策から国民を守る党」という名称の政治団体新人が当選、この時ダントツのトップ当選は参政党女性候補であった。つまり、今年の参議院選挙で注目を浴びた「日本人ファースト」という打ち出しは、既に下地があって、有権者に響くものとなっているのである。
話題となった石丸伸二(昨年の都知事選で165万票、2位落選)が代表の再生の道は杉並で新人3名を擁立した。共倒れでしょうとの予想通りだった。ただし3名の得票合計は2万票近くで、当選に迫る勢いであった。他には、杉並区議を2期務めた日本維新の会松本みつひろ氏が出馬したものの得票は厳しい結果であった。「NHK党」所属の参議院議員濱田聡氏が代表である「自治労と自治労連から国民を守る党」吉田ひろのぶ氏も厳しい票数だった。
他には、金まさのり(正則)氏。 https://kinmasanori.tokyo/ (在日コリアン3世。「68歳で日本国籍を取得、69歳で初めて投票、70歳で被選挙権に挑戦。」)。彼は2024年「『在日の金くん』ヘイト訴訟」で勝訴している。これは、高校時代の同級生が金さんのことと分かる表現でSNSで「ヘイトスピーチ」投稿を続けていたためそれを訴えたものである。記者会見には差別に反対する数々の有名人が同席し、賛同人にも名前を連ねるなどしたこともあって、注目を浴びた。選挙の街宣にも応援演説に並んでいた。ただ立候補表明時杉並ではリベラル系の候補と支持者たちは既に活動を始めていたので、金さんの得票はかなり厳しいものであった。
区長選挙の準備―ポスター
岸本区長は来年の区長選挙に向けてポスター(一人バージョン)を作成し各所に貼り出し始めている。
おくやま・たえこ(妙子)
1957年別府市生まれ。実家は八百屋で看板娘。東京都立大学法学部卒業。金融会社、派遣社員、出版社勤務。2003年杉並区議に初当選(無所属)。 23年5月から5期目、単身高齢者の貧困問題に取組む。趣味は焼き鳥屋で読書。
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