論壇

民主主義への信頼が揺らぐドイツ社会

バイエルンとヘッセンの州議会で極右政党AfDが第二党に

在ベルリン 福澤 啓臣

ドイツ社会がポピュリズム・極右政党AfD「ドイツのための選択肢」をめぐって揺れ動いている。ショルツ首相率いる信号内閣は、夏休み以降も閣内争いが続き、ますます国民の支持を失っている。同時に、民主主義そのものへの国民の信頼も揺らいでいる。民主主義は完璧な政治システムではないが、これに勝るシステムはないとよく言われている。政治が議論、さらには争いばかりを繰り返して、問題の具体的な解決が図れないと、民主主義への信頼が失われ、ポピュリズムが広がっていく。10月8日のバイエルン州とヘッセン州の州議会選挙の結果がそれを如実に示している。

1.保守色を強める州議会選挙結果

バイエルン州(人口:1308万人。選挙権所有者:940万人。投票率:73.3%)

 年\政党CSUSPD緑の党FDP自由選挙人AfDその他
202336.48.014.62.915.316.06.8
201837.29.717.65.111.610.28.6
増減-0.8-1.7-3.0-2.2+3.7+5.8-1.8

ヘッセン州(人口:626万人。選挙権所有者:430万人。投票率:65%)

 年\政党CDUSPD緑の党FDPAfD左翼党自由選挙人その他
202334.615.114.85.018.63.13.55.3
20182719.819.87.513.16.33.03.5
増減+7.6-4.7-5.0-2.5+5.5-3.2+0.5+1.8

10月8日のバイエルン州とヘッセン州における州議会選挙の結果は、予想通りに自国第一主義を掲げるポピュリズム政党AfDが大幅に支持率を伸ばし、両方の州議会で第二党の勢力にのし上がった。共同党首のバイデル氏は、選挙後「これで我々を無視することはできない。我々は民主的に選ばれた国民政党である」と喜色満面で語っていた。

この選挙は州議会であるが、連邦政府、いわゆる信号政権(政党のシンボル色が信号の赤、緑、黄色なので)への評価が直接影響するだろうと予想されていた。選挙後のアンケートでは、両州とも、経済的な停滞(不況とインフレ)、気候問題とエネルギー、そして難民問題の三つのテーマが選挙結果に影響したという答えだった。これらは本来連邦政府の権限である。しかし、連邦政府に対する満足度は最近20%と極端に低いので、政府与党の支持率が下がることは予想されていた。前号で紹介したように、政府の掲げる政策を全面的に拒否しているAfDの支持率が上がることも当然予期されていた。AfDの掲げる政策の実現性があるかどうかは、問題にされなかったようだ。最大野党のCDUの場合は、難民問題に関しては、メルケル時代から続いているので、それなりの連帯責任は免れない。加えてウクライナ戦争の難民が120万人も入国して来て、状況をさらに悪化させたのは、信号内閣の責任ではないが、AfDの支持者はそこまで分析して、投票に踏み切ることはないと思われる。ポピュリズムが育つような社会状況ではなおさらである。

バイエルン州は地元カラーを大事にする特別な州と言ってもよく、政治的には保守的である。そのため、キリスト教的価値観をバックボーンとするCSU(キリスト教社会同盟)がCDU(キリスト教民主同盟)の姉妹党として活躍している。党首のゼーダー氏は、連邦政府首相の野望を抱いていて、40%の支持率が得られれば、25年には出馬するだろうと言われていたが、36.4%と史上最低の結果に終わった。連立政権を組んでいるFW(自由選挙人)党は、CSUより保守的だが、AfDのような極右ではない。これら保守三党で67.7%と軽く三分の二を超えた。

ヘッセン州のCDUは、昨年5月から政権を引き受けたライン氏が手堅く票をまとめ、7.6%も上乗せして、大きく勝利した。

信号内閣の三党は、軒並み支持票を減らした。数字的に見れば、緑の党が最も支持率を減らしたが、想定内であったようで、あまり落胆の顔を見せていなかった。FDPは、バイエルン州では2.9%と5%条項を下回ったが、ヘッセン州では5%でどうにか議会に残れた。SPDはバイエルン州では、一桁党になってしまった。ヘッセン州では、州党首兼内務大臣フェーザー氏が政権交代を掲げて戦ったが、歴史的な敗北に終わった。彼女の管轄である難民問題が、ここ数ヶ月最大の課題としてドイツ社会にのしかかっていたが、信号内閣による抜本的な解決が見られなかったからだ。その上、同氏がヘッセン州選挙で勝利しなかった場合には、ベルリンに戻り、連邦政府の内務大臣の職務を果たすと二股かけていたので、市民にはすこぶる評判が悪かった。

満遍なく票を集めるAfD

どこからAfDの支持票が移ってきたのか、第一公共放送ARDの票の移動分析を見てみよう。

バイエルン州 AfD=101万票の内訳(前回選挙結果からの票の移動。単位:万票)

AfDCSUSPD緑の党FDPFW棄権者18歳その他
501122451355

AfDは101万票を得たが、まずAfDの元々の支持者による50万に加えて、最も多い票田は前回棄権者からの13万であった。CSUからも11万と多い。他の政党からも票を軒並み集めている。バイエルン州は、ポピュリズム的なアイヴァンガー党首が率いる自由選挙人党があるので、AfDは伸び悩むかと見られていたが、その予想を覆し、6%も伸ばしている。

ヘッセン州 AfD=53万票の内訳(前回選挙結果からの票の移動。単位:万票)

AfDCDUSPD緑の党FDP左翼党棄権者18歳その他
26.243.212.81.57.61.82.3

ヘッセン州では、AfDは53万票を得たが、まずAfDの元々の支持者による26万2千、次にバイエルン州同様、前回棄権者からの7万6千票が目立つ。さらに信号内閣のFDPから2万8千、SPDから3万2千、緑の党から1万と合わせて7万票もAfDに移っている。左翼党の1万5千を加えれば、中間左派陣営から8万5千票と圧倒的な数である。AfDはヘッセン州では、5年前の選挙でも13.1%と旧西独の中では特に支持率が高かった。それとヘッセン州は、移民系の市民に対してのテロが続出したことで分かるように極右の温床になっている地域がある。

両州のAfD投票者が同党の掲げる政策を本当に支持しているとは信じ難いが、いわゆる抗議票として軽く見てしまっては過ちであろう。党員も21年の3万人弱から3万5千人を超えた、とバイデル氏は記者会見で誇らしげに語っていた。

2.難民問題がドイツ社会を揺るがしている

経済不況や気候変動も重要だが、現在の時点でドイツの国民が直接身近に感じられる大きな問題は難民問題である。遅まきだが、それがAfDの台頭につながっていることに信号内閣も気づき、本腰を入れ始めた。だが、この問題はドイツだけで解決できない上に、EU及び外国の国々の要因が複雑に絡まっているので、今回はそれを解説してみよう。

難民及び移民に関して、まずドイツの特別な歴史から見ていこう。 ドイツの基本法では、第16a条の迫害を受けた人々への亡命権が、特に基本権利として強調されている。この第16a条には、ヒトラー・ナチスが、ユダヤ人だけではなく、他の国々の国民の間に未曾有の悲劇を生み出した加害者ドイツへの反省が込められている。日本国憲法の第9条に匹敵するとも言える。

プッシュ論とプル論

難民に関しての議論にプッシュ論とプル論がある。前者に沿うと、難民は出身国の生活状況が破局的だから、そこから抜け出そうとして生じるのだ。だからこれらの国々の生存条件を改善しない限り、難民の数は減らない。後者によれば、ドイツなどに多くの難民が押し寄せるのは、彼らの待遇がいいからだという考えだ。この論から、難民の数を減らすには、入国の制限や入国者の待遇条件を悪くするという結論が生じる。例えば、支給金を減額するとか、現在の現金支給をやめて、現物支給にするとかである。

ちなみに亡命申請者には、現在一人5万8千円(1ユーロ=140円)支給されている。ドイツ国民の市民金(生活保護に相当する)は7万円なので、その差は1万3千円だ。これに対して、申請者への支給金が多すぎるという声がよく聞かれる。

難民の数は果たして減らせるのか

移民及び難民問題を整理すると、以下のようになる。

プッシュ論に沿えば、難民が生まれる条件がある限り、難民は増え続ける。アフリカ諸国では、経済的な問題や政治的な混乱、気候変動などにより生活が脅かされている。シリアやアフガニスタンでは、非人道的な政権が続き、国民を迫害している。これに対してドイツ、あるいはEUは 解決策を持っていない。

プル論に沿って、EUは対応策を設けているが、実際には機能していない。庇護を求める人々が、一度EU域境に辿り着くと、ダブリン規則により、到着した国で亡命申請をし、そこに留まって審査を受けることになる。多くはギリシャやイタリアに到着する。だが、そこでは規則通りに留めおかれないで、ドイツなどに流れてくる。シェンゲン条約があるので、EU内では往来が自由だからだ。

イタリアのランペドーザ島は北アフリカから最短距離(138km)にあるので、ボートに乗った難民が目指してくる。今年8月の海の穏やかな日には、100艘ものボートで5千人も押し寄せてきた。同島の収容施設は400人用に建てられているが、すでに6000人と溢れかえっている。本来ならイタリアは、ダブリン規則によって、彼らを国内に留めておく義務があるが、果たしていない。そして多くの難民ははドイツに押し寄せてきている。それらの難民を戻したいが、イタリア政府は受け取りを拒否している。

ドイツ国境では連邦警察がコントロールしているが、1000キロ以上にも及ぶ長い国境線を見張るには、人員が圧倒的に足りない。そのため、フェーザー内務大臣は、これまで点によるコントロール、つまり難民らしき人物やグループに出会ったら、職務尋問をするように指示していたが、野党は常駐の国境コントロールを求めていた。10月初めに同大臣が同意すると、連邦警察組合はすぐさま、人員が足りないと声明を出した。それと、常駐の警察が難民を見つけても、追い返すことは許されない。結局、警察が常駐しても、入ってくる難民の数を合法的に減らすことはできないのだ。

シリア、アフガニスタン以外からの難民は、法的審査で大多数が否決される。すると、6週間から3ヶ月以内に送り返されることになる。だが、彼らを送り返すのは、非常に難しい。出身国の政府が受け入れを認めない限り、送り返せない。だから、現在25〜30万人もの難民が何年も送り返されないで、ドイツ国内に滞在している。

彼らはその間ドイツ語も習得し、働く意欲もある人が多いので、移民として受けいれるべきだと、緑の党や自民党などが主張してきた。今年になり、やっと難民から移民への切り替え(路線変更)が認められるようになった。経済界はこの路線変更政策を歓迎している。この政策を速やかに実施することが、難民問題の部分的解決につながる、という声が自治体の首長からも聞こえる。反面、役所の資格審査が厳しく、出身国の学歴が認められず、職に付けないケースがしばしば報道されている。

人道的な観点から、ドイツ国民の半数以上が難民受け入れに賛成しているとはいえ、これ以上受け入れられないと悲鳴をあげる自治体が多い。とにかく収容する場所が物理的になくなっているのだ。難民コンテナーに住んで、ブラブラしている難民を日頃目にしている住民が、排斥感情を抱くようになっても、一概に非人道的、極右だと非難できない。そこで自国優先主義を掲げ、難民に激しく反対するAfDに支持が集まることになる。

10月5日にEUメンバー国は、EU委員会の提案する難民危機管理改革案に合意した。この案に人道的な観点から難色を示していたドイツ政府、特に緑の党が賛成に回ったのだ。改革の柱である身柄拘束——難民を一定期間刑務所同様の条件で身柄を拘束しておくこと——を認めたのだ。そして域内に入ってから、亡命が認定されるかどうかを12週間以内に決定し、認められなかった場合は、すぐさま出身国に送り返すことになる。追加条項として、難民が多く入ってくるギリシャやイタリアは難民を他のEU国に移すことが認められた。その際、割り当てられたEU国が受け入れを拒否した場合——ハンガリーとポーランドがあくまで拒否している——は、罰金を払わなければならない。

3.民主主義への信頼と信号内閣の見直し

筆者は前々号にイツ社会には民主主義を支える厚い中間層が存在していると書いたが、どうもその見方は甘かったかもしれない。中間層の意識の変化を示唆する調査報告がある。

ドイツの中間層が少しずつ右に動いている:エーベルト財団

9月に出版されたドイツ社会の中間層の民主主義に対する意識の変化を調べたフリードリヒ・エーベルト財団(SPDの財団)の調査「中間層研究」を見てみよう。ちなみにドイツの政党は、政府からの資金——総額は1000億円ほどになる——によってそれぞれ財団を抱えており、シンクタンク、社会活動支援、奨学金の支給などの多岐にわたる分野で活動している。

この調査研究はビーレフェルト大学の協力のもとになされた。アンケートは23年の1月から2月の間に、2027人に質問をして行われた。回答者の52%が自分は政治的に中間に、28%が左に、15%が右に、5%がどこにも属していないと表明している。

社会の中間層が右傾化しているかどうかを調査するために、このグループは、以下のような質問を2014年から隔年で投げかけ、変化があるかどうかを見てきた。

これらの質問に対して、「全く反対する」、「大体反対する」、「反対でも賛成でもない」、「大体賛成する」、「全く賛成する」の中から一つを選んでもらう。下の表は大体賛成と全く賛成を賛成に、大体反対と全く反対を反対にまとめた。2023年の回答を、調査を始めた2014年と比較したのが次の表(注:筆者作成)である。

賛成どちらでもない反対
ある条件下では国のために独裁制がより良い体制だと思いますか20236.6%23.3%70.1%
20144%17.8%78.2%
ドイツは国としての意識をもっと強く打ち出すべきでしょうか202316.6%36.7%46.8%
201412.2%34.5%53.3%
ユダヤ人虐殺をしなかったら、ヒトラーは現在政治家として尊敬されていたでしょうか20234.0%17%79.0%
20141.9%12.8%85.3%
難民はドイツの福祉制度を利用するために来るのでしょうか202316.2%30.3%53.5%
20147.3%24.6%68.1%
現在もユダヤ人の影響力は強すぎるでしょうか20235.7%15.3%79%
20143.5%13.1%83.4%
自然界のように常に強者が勝つ社会でもいいでしょうか20235.7%16.3%78.0%
20142%13.9%84.0%

 

このアンケート結果を見ると、国民の意識が少しずつ右に動いているのが見られる。四つめの難民に関する変化、つまり拒否の広がりが最も顕著である。この考えに同意する市民は確実に増えている。つい二週間前にもCDUのメルツ党首が、「難民は歯の治療をするためにドイツに来ている。そのために、市民が治療を受けようとしても、混んでいてなかなか受けられない」と言って、激しく批判された。ドイツ歯科医連盟会長ベンツ氏も、「メルツ氏の発言を理解できない」と述べたが、メルツ氏は発言を取り下げなかった。

ナチスへの反省から、戦後ドイツは国家意識を強く外に表さないという認識が国民の間に存在していたが、10年ほど前から変化してきている。さすがにヒトラーへの評価は大きく変わっていないが、少しずつ反省が薄れているようだ。

民主主義への信頼がますます失われている:ケルベル財団

8月17日にハンブルクのケルベル財団(政治的トピックについて話し合うためのプラットフォームを提供し、現在の政治的問題に関するプロジェクトを開発する財団 )がドイツ社会の民主主義に対する国民の意識調査の結果を発表した。

個人の自由、法の前の平等、自由な意見の権利、自由選挙などの民主主義の原則に関してドイツ国民の9割は重要だと言っている。反面、国民の民主主義に対する信頼度が驚くほど低下しているのが、この調査では見られる。2021年には、国民の30%が民主主義に大きな信頼を寄せていないと答えていたが、2023年には、その割合が54%に増えている。政治を支える政党への信頼度はさらに落ちている。2020年には29%が信頼していたが、2021年には20%に下がり、現在は9%にまで低下している。憲法裁判所には54%が信頼を寄せている。46%の回答者は、ドイツは平等な社会ではないと見ている。

ドイツ人の8.3%は極右の思想を抱いている。さらに20%がそれに準ずる考えを持っている。2014年に比べて3倍に増えている。回答者の30%が独裁社会を否定しない。

回答者の55%がドイツは非常に強い危機にさらされていると答えている。さらされていないと答えたのは8%である。回答者全員がもっと寛容と連帯が社会に必要だと答えている。

信号内閣の仕事ぶりは評判ほど悪くない:ベルテルスマン財団

信号内閣が一昨年9月に選挙で選ばれ、半分の2年が過ぎた。国民の満足度は20%前後と低く、これまで見てきたように、州の選挙結果にも反映されている。とにかく、どこに聞いても、現政府の評判は地に落ちていると言ってもいいだろう。ところが、この政府の仕事ぶりは悪くないという調査結果が9月12日に発表された。メディア分野において世界で活動するドイツ有数のベルテルスマン・グループ(従業員数15万人)の財団がトリア大学と一緒に調査した。

三党による連立政権は、「進歩の連立政権」と名乗って21年12月に発足した。連立協定では、453の政策が約束された。現在までにその内38%(172)が完全に、あるいは部分的に実現している。さらに12%(54)の政策が実行中で、14%(64)の取り組みが始められた。これらを合わせると、64%にものぼる。全く手がつけられていない政策は36%(163)である。このように見てみると、残りの2年間に期待が持てると同財団は評価している。ショルツ政権の仕事ぶりは国民の満足度が示すよりは良いことになる。

2017年発足のメルケル政権は、半期の時点で53%を実現したので、現政権の38%に比べて成績がいいように見える。だが、メルケル政権は全部で296の政策を連立協定で約束し、その内154を実行した。現政権は453と1.5倍の政策を取り決めて、その内の174を実行したので、絶対数では多い。

さらに2013年のメルケル政権は、188の政策を約束したが、現政権は倍以上の約束をしている。現政権の約束した政策の数の多さは、まず三党による連立政権なのと、「進歩の政府」と銘打った、意欲に満ちた出発だったからだとも言える。

このように見てみると、悪くない数字だ、と同研究をまとめたヴェールカンプ教授は評している。筆者が現政権の肩を持つならば、政権出発直後にプーチンのウクライナ侵略戦争が勃発し、つまり外的要因によりそれまでのロシアからの化石燃料に頼る経済モデルが崩壊した。その結果、エネルギーの供給不足とコストの高騰、長い間経験しなかったインフレなどの危機が一挙に襲ってきた。もちろんコロナ・パンデミックの残症も忘れてはならない。同時に平和の配当による30年もの長い平和の時代から、「時代の転換」が起きて、防衛体制の根本的な変革を強いられている。

喩えて言えば、メルケル時代は、時々波風は立ったが、概ね順風満帆の時代だった。それに比べて、ショルツ連立政権は船出直後から強い暴風雨が吹き始め、次から次へと嵐が襲ってくる感じなのだ。その上、三つの乗組員グループが息を合わせて、暴風雨に立ち向かっているとは言えない。

4.市長選挙ではAfDは二敗、議会ではCDUと連携プレイ

9月24日(日曜)に旧東独のテューリンゲン州のノルトハウゼン市(人口4万5千人)で市長選挙が行われた。AfDのプロヘート氏と民主主義政党の統一候補者ブーフマン氏(無党派で現職)が決選投票で争った結果、後者が55%の得票率で、当選した。これで民主主義政党及び良識派国民は胸を撫で下ろした。投票率は59.3%だった。

先々週にテューリンゲン州議会で左翼党のラメロー州首相が率いる少数連立内閣(SPDと緑の党)の反対を押し切って、CDUが提出した6.5%から5%への営業税の引き下げ案にAfDが賛成し、通過した。その直前にCDUのメルツ党首がAfDとは絶対に協力しないと宣言したばかりで、その舌の根も乾かないうちに、早くも実質的に手を結んだことになる。同州のCDU党首フォークト氏は、自分達が主体的に法案を上程し、AfDが——勝手に(注:筆者)——賛成したのだと、CDUの主体性を強調していたが、AfDが賛成するのは、目に見えていたのだから、暗黙の連携プレイと言える。

州選挙と同じ日に行われた旧東独のザクセン=アンハルト州のビターフェルト=ヴォルフ町(人口1万5千人)の町長選挙は、AfDのドルナック氏とCDU候補者のシェンク氏の間で決選投票が行われたが、、シェンク氏が53%を得て、勝利を収めた。自治体の首長選挙では、AfDが二敗した。だが、CDUとAfDによる議会での暗黙の連携プレイはこれから増えそうだ。

原稿の締め切り間際になって、10月7日の金曜日にイスラエルがパレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスによる攻撃を受けて、1300名の市民が虐殺された。ドイツはイスラエルには限りない責任を負っているので、国家をあげて、連帯援助をするとショルツ首相は表明した。つまり、イスラエルが必要とする援助は全て与えるというのだ。要請があれば、軍隊派遣もあり得るという専門家もいる。どこまでこの紛争がエスカレートするかは、全くわからない。またドイツには550万人のイスラム教徒が住んでいて、パレスチナ人との連帯感は強い。すでに反イスラエルのデモがいくつかの都市で起きている。さらに新しい嵐が襲って来そうだ。(ベルリンにて 2023年10月15日)

 

ふくざわ・ひろおみ

1943年生まれ。1967年に渡独し、1974年にベルリン自由大学卒。1976年より同大学の日本学科で教職に就く。主に日本語を教える。教鞭をとる傍ら、ベルリン国際映画祭を手伝う。さらに国際連詩を日独両国で催す。2003年に同大学にて博士号取得。2008年に定年退職。2011年の東日本大震災後、ベルリンでNPO「絆・ベルリン」を立ち上げ、東北で復興支援活動をする。ベルリンのSayonaraNukesBerlinのメンバー。日独両国で反原発と再生エネ普及に取り組んでいる。ベルリン在住。

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