コラム/深層

稀代の悪法―共謀罪の初適用を狙う

労組―関西生コン支部に対する国家的刑事弾圧

連合大阪元副会長 要 宏輝

生き延びていた思想検察、復活する「現代の特高警察」

法の目的とかけ離れた逮捕、裁判開始前の長期勾留(代用監獄)の常態化の現状は、戦前の「予備拘禁制度」(刑期を終えて釈放されるべき者を無制限に監禁できる)と区別がつかない、弾圧の時代が近くに来ていることがよくわかる。

「『検挙から裁判までの間において、実質的な裁判と云いますか、それはむしろ検挙から起訴までの間に行われ、裁判はむしろその終末を告げるというような実情にある』というある思想検事の発言は、つまり、裁判となる以前に実質的な処罰が済んでしまっているということである。起訴までに勾留されている期間が相当長く、その間に物理的・精神的拷問にさらされ『転向』への誘導が執拗に行われた。・・・それは裁判の形骸化を示すとともに、検挙から起訴までの過程において、思想検察によって実質的に断罪されたことを意味する。・・・GHQの『人権指令』(1945.10)で特高警察は解体されたが、思想検察は見逃され、その存在は現在まで続いている」(荻野富士夫『思想検事』、岩波新書P205)。

戦後、治安維持法の廃止によって特高警察は解体されたが、稀代の悪法「共謀罪法」によって、現在の公安警察が戦前の特高警察のように復活しつつある。

「悪法も法」などと他人ごとのように考えてはいけない

多くの人々にとっては、自分の権利が侵害されていない限り、何か事件が起こっても他人事と思ってしまう。実は、その他人事が自分につながっているし、国の在り方にもつながっているとの認識が共有されていない(これこそ、真の危機!)。一つひとつの人権侵害や弾圧に異議申立ての声を上げていかないと、本当に安倍の画策する「戦前回帰」が現実になってしまう。

「悪法も法」と言いつのり、非正規を泣かす(無期雇用転換しない)自動車総連会長もいるが、「悪法は法ではない」との立場で闘うのが社会的労働運動を標榜するナショナルセンター=連合の王道ではないのか。

攻撃があるから、即争議になるわけではない。攻撃に反撃する力が組合に無ければ(法が保障している)争議すら成立しない。権力から不当弾圧を受けるということはそれだけ力があるということだ。連帯ユニオン関西生コン支部(関生または関生支部と略す)は不当弾圧の決着は現場でつける、労働組合としての王道の闘いを貫徹している。

公安・警備警察の活動を法で規制することが難しいのであれば、反撃の連帯行動を強めて彼我の力関係を変えていくほかない。「最も大事なことは、闘いによって悪政を打ち倒していくことだ」(関生支部・武建一委員長)。悲観と楽観の違い、悲観は情緒に流されるだけだが楽観には意思がある。

前代未聞、傭兵「レイシスト(差別主義者)」の争議介入

事の発端は、2017年12月の関生支部の行ったストライキ、そして、労働組合による建設現場でのコンプライアンス活動をとらえて強要未遂および威力業務妨害の容疑に。関生支部の存在・活動をよしとしな

い背景資本のセメント・ゼネコンと大阪広域生コンクリート協同組合(広域協組と略す)の反関生派が結託し、これに警察が加担してでっち上げた、現在進行形の刑事弾圧事件である。18年1月以来、広域協組と関生支部との「協同の土俵」ともいうべき集団的労使関係が危機に瀕している。 

18年1月から、ネオ・ナチ思想の排外主義グループ(「レイシストら」と略す)が、連帯や関生支部を貶(おとし)める街宣活動を繰り返している。広域協組の一部役員が10億円もの「闘争資金」を用意し、レイシストらを傭兵として使い、連帯ユニオンや関生支部に対する誹謗中傷の街宣を繰り返している。関生支部の組合事務所襲撃はじめ、近畿一円で協同組合事務所や組合員企業に押しかけ、関生支部に対する「誹謗・中傷」や「(生コン経営者は)関生支部と手を切れ」などと、共謀罪法でいう「威力業務妨害」などの「組織的犯罪」の実行行為を請け負って展開している。

一昔前は、暴力団やガードマンの投入が頻繁にあったが、今や両者は法によって争議介入できない。そこで、レイシストグループの投入ということを考えたとすれば、愚挙というほかない。彼らは筆者が敬する右翼でもなく、争議の解決というよりは争議が長引き、大きくなるほど金儲けができることを期待して仕事を引き受けるからスジが悪い。つまりは争議の帰趨など関係ない、無責任な連中だ。

2017年7月11日施行の共謀罪法(改正組織的犯罪処罰法)の恣意的適用が懸念されるなか、当時の石破自民党幹事長の「テロリズム」規定に関わる発信「単なる絶叫戦術はその本質はテロリズム」からすれば、レイシストグループの街宣活動は共謀罪の適用第一号に該当し、広域協組一部役員はその共同正犯になる。共謀して、憲法第28条を根拠法とする労働組合法第7条違反(不当労働行為)の実行行為を公然と露出して行っている確信犯である。しかし、我々は共謀罪等の廃止を訴え続けている立場上、彼らに法適用せよというべくもない。しかし、懸念された恣意的適用が現実化し、関生支部に対して行われようとしている。

「悪魔の証明」と言われる不当労働行為意思を公然と露出

通常、法規範意識のある経営者は、心の中で労働組合を憎悪していても「組合つぶし」「組合員差別」を公言はしない。経営者の心の中に持っている「不当労働行為意思」(労組法7条)の立証は「悪魔の証明」と言われるほどに至極困難だ。

ところが、今回、関生支部に「仁義なき戦い」を挑んだ広域協組の役員は尋常ではなかった。彼らは、傘下の個別企業(個社と略す)に対して、関生支部との接触・交渉等の禁止通達文書を発し、「通達に従わない個社には厳正な対処(仕事を与えない=出荷割り当てをしない)」とした。また、労働者供給事業により供給される、あるいは直接雇用される日々雇用の組合員の就労を拒否して雇用を奪い、正社員組合員を含めて組合脱退の切り崩しを公然と続行している。

組合つぶしを公言し、違法・不法行為を公然と行う使用者は確信犯であり、直ちに労働委員会は「不当労働行為停止勧告」、続いて裁判所は「緊急命令」や「差し止め仮処分」を出すべき事案だ。集団的労使関係の一方の当事者、つまり、労働組合員の直接雇用者である個社の集まりである「経営者会」とは統一集団交渉などの労使関係が成立しているが、労働組合員のいない個社も加わった広域協組は労組法上の「使用者性なし」とする最高裁判決が3、4年前に確定している。しかし、ここまで露骨に支配介入(労組法第7条第3項違反)を執拗に繰り返す広域協組の使用者性を改めて問える可能性も生まれている。

「共謀罪適用」のリハーサル弾圧

本件に関して、筆者は「一体、どうなっとんや?」と聞かれることが多い。筆者が「泣く子も黙る」と評された総評全国金属労組に入局した時、大先輩から受けたオルグ心得、「犬と猫はつがわへんけど、ほっといたら、労・使はつがう(注:交尾する)さかい、気ィつけてみときや」を思い出しながら、「共謀罪適用」のリハーサル弾圧の展開図を解析する。

(1)広域協組と関生支部(生コン産業別単一労働組合)の労使関係は一会社・一労働組合といった単純な労使関係ではない。広域協組のなかには関生支部との関係で、X(親和派)・Y(敵対派)・Z(中間派)といった個社が混在する。今の理事会はY派が主導して、Ⅹ派には出荷割り当てをしない(仕事を回さない=独禁法違反ではないが協同組合法違反!)。業界にはX・Y・Z以外の、広域協組に属さない、OUTと称されるアウトサイダーの個社も厄介な存在だ。

(2)この対立に、生コン業界に存在する五つの労働組合の対立事情がかぶさる。広域協組の理事会は関生支部・全港湾労組と対立関係にあるが、(五労組共闘から脱落した)建交労・生コン産労・UAゼンセンは逆に広域協組の側にくみし、建交労にいたっては宣伝カーを出して関生支部の切り崩しに狂奔している。警察も取り調べのなかで「関生支部と手を切って他の組合に移れ」と支配介入している。

(3)この背景に全労協・全労連・連合といったナショナルセンター、支持政党関係が複雑に絡む。

(4)何元方程式のような対立・相関図に、「小さな政府」のなかで「大きくなりすぎた警察」がその存在を誇示するかのように主役として登場する。杞憂に終わればよいが、関生支部の共謀罪の初「事件化」を企図している可能性もある。

労働組合を直接つぶす共謀罪の初「事件化」を許すな

もとより、労働組合を組織丸ごとつぶす法律など存在しない。警察権力は、関生支部のストライキ権行使、業界の安定を図るために行った行動(協同組合運動の拡大、企業の枠を超えた産別運動、建設現場でのコンプライアンス活動など)を捉えて、それらが威力業務妨害や強要・恐喝未遂などにあたるとヤクザもどきの因縁をつけ、介入・弾圧の挙に出てきた。

紛争発端から1年余、7月18日の最初の「逮捕劇」から今日(2019年1月)までに関生支部の役員や組合員の逮捕は6回、延べ46名、家宅捜索100ヶ所を越えている。逮捕者の相当数が5ヶ月間~1ヶ月間以上の長期勾留が続いており、黙秘して闘っているなかで、どうやって事件を構築するのか。犯罪の共謀があったということをどうやって作り上げるのか、それが事件の要であり事件の全てとなっている。

国家権力あげての労働組合つぶしの様相である。大阪の事件はこれまで通り大阪府警の警備課が担当しているが、滋賀の事件では京都府警・滋賀県警の組織犯罪対策課が動いており、彼らは本庁(警察庁)の指揮であることを隠そうとしない。所轄の組織犯罪対策課が事件を取り仕切っているということは、「共謀罪」の初の適用、「事件化」の可能性もうかがわれる。対して、関生支部は刑事・民事担当の総勢30名の弁護団を組んで闘っている。

周知のように、政府は、オリンピック・テロを口実に「テロ等準備罪」と呼び変え、組織的犯罪処罰法(1999年制定)に共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織的犯罪処罰法として、2017年6月に強行採決・成立させ、早速7月11日に施行された。共謀罪法は、処罰対象犯罪の実行行為を必要とせず、相談・計画した段階で摘発できる(現代版「治安維持法」と言われ、罪刑法定主義に反し、法律の条文通り適用すれば違憲となるケースが相次ぐ)。

本来、公安・警備警察は憲法秩序や民主主義を暴力によって破壊する活動を監視し予防する活動を任務としてきた。犯罪の可能性を取り締まることを名分に、法を超えた形で活動できる。

これも悪法であるが、1952年に作られた破防法(破壊活動防止法:共産党・新左翼一部党派・朝鮮総連・右翼団体一部・オウム真理教など、破防法の調査対象団体は17)も現存しており、日弁連は、「そこ(注:共謀罪法制定)までしなくても今の法律で十分対応できる、共謀罪はやりすぎ、基本的人権の侵害だ」という見解を表明していた。稀代の悪法も強行採決とはいえ、一旦、成立した法を廃止することは難しい。共謀罪・盗聴法・秘密保護法がセットになってモンスター化して労働者人民に襲い掛かるとき、恐るべき社会が現れる。

代議制民主主義(国会、永田町)の多数決民主主義の暴走を規制するに有効な統治原理としての技術官僚制(ビューロクラシー、霞が関)は堕落し、機能崩壊。その行政権力の中で肥大化する一方の警察権力。その警察権力によって、社会的権力(メディア・労働運動・暴力団など)は封じ込められてしまっている。

公安・警備警察というのは、実際に犯罪が起こってからその取り締まりに動く刑事警察と異なり、犯罪に先立ってそれを予防することを任務とする。法を犯していない無実の市民を継続的な監視対象、潜在的な取り締まり対象にする。誰を対象にするかの判断は警察が自由にできる。彼らの活動を法によって規制することは、共謀罪法によって一層難しくなった。そこに全体主義的色彩が強まる。

幸か不幸か、降ってわいたように初めての司法取引で事件化を図ったゴーン逮捕事件(2019.11.19)。あまりにも非人権的な長期勾留の「人質司法」、冤罪の大量生産を生み出す「共謀罪」など、日本の司法制度は政治問題化し、国際的批判に晒されることとなった。ゴーン事件を奇貨として、「大きな警察」を大失態に追い込めば、稀代の悪法=共謀罪法廃止の展望は大きく開けるかもしれない。

<追記>筆者は、連帯ユニオン・関西生コン支部機関紙「くさり」の13か月にわたる連載(①刑事弾圧との闘い/②協同組合論/③現代企業別組合批判/④連帯の金字塔、長澤運輸・ハマキョウレックスの労契法20条裁判闘争)を昨年12月に完結、そのすべての論稿は筆者のブログに搭載しています(「正義の労働運動 ふたたび」で検索)。今春、「労働運動の昨日 今日 明日」(共著、社会評論社)を刊行予定です。ご案内まで。

かなめ・ひろあき

1944年香川県生まれ。横浜市立大学卒業。総評全国金属労組大阪地方本部に入り、91年金属機械労組大阪地本書記長から99年連合大阪専従副会長。93~03年大阪地方最賃審議会委員。99年~08年大阪府労働委員会労働者委員。著書に『倒産労働運動―大失業時代の生き方、闘い方』(編著・柘植書房)、『大阪社会労働運動史第6巻』(共著・有斐閣)、『正義の労働運動ふたたび』(単著・アットワークス)。

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