特集●転換の時代
深刻化する若者の奨学金債務地獄からの救済へ
全国対策会議が文科省に意見書
奨学金問題対策全国会議
解説 「日本学生支援機構」による高等教育のための「奨学金」と聞いて何をイメージするでしょうか。「育英会」ではなくなった? というかたはそれなりに年齢がわかってしまいます。「奨学金」だから大学や専門学校に進学するために給付されるいいもの、若者を支援する大事な事業だと、まずそう思い浮かべるでしょう。
もちろん「育英会」時代にも完全給付ではなく、卒業後に返済義務がありました。しかし、教職や研究職について15年働けば返済を免除されるなどの優遇もあったために教員をめざす多くの若者が支援を受けたことは「育英会」の名称を記憶する世代にはよく知られていることです。
しかし、「育英会」の事業を継承した「日本学生支援機構」はそうした「支援」の側面をすっかりかなぐり捨てて一種の金融業と呼べるまでの存在になっています。実態は、「支援」「奨学金」という美名に隠れた「若者相手の金融」「学生ローン」です。
今の若者にとって、高度経済成長期とは異なり、親世代の収入が右肩上がりで増えているわけではありません。その一方で高等教育の学費は高額化の一途をたどっています。いわゆる国立大学で比較しても、1976年に9万6000円だった学費は、現在53万5800円と6倍近く跳ね上がっています。現在、返済義務を負った「奨学金」を利用して高等教育を受けている若者は二人に一人といわれています。そのうえ、無事に高等教育機関を卒業したからといって安定的な職場に就職できるという保証はありません。むしろ、40年前には考えられない不安定な雇用条件の下で働く若者は増加する一方です。
そうした条件の下、若者が社会人になったその日から数百万の借金を抱えている現実があります。低賃金や不安定雇用のために返済が滞りブラックリストに載ってしまい厳しい取り立てにあった、結婚を前提にしていた恋人がいたのに相手が奨学金を借りて多額の借金があり親が無理やり別れさせたという話が現実におきているのです。こうした悲劇は文字通り借金地獄の構図そのものです。アメリカも同じ状況であり大統領選挙にみられる若者の反乱の大きな要素といわれています。日本でも若者の貧困・格差、そして奨学金返済地獄からの叫びが反乱の芽を内包しています。
問題が多数露呈するなかで、下村前文部科学大臣までが「奨学金」ではなく、「学生ローン」だと認めざるを得なくなりました。さすがに政府も重い腰をもちあげたのか、所得連動型返済という新たな制度の導入を検討しはじめました。しかし、その政府案にしても、所得0円の人にも返済を求めるといったさまざまな問題点があります。この政府案に対して「奨学金」問題を解決するために運動を展開している奨学金問題対策全国会議が<「所得連動型返還奨学金制度」に対する意見書>をまとめました。ここでは、その意見書の全文を転載して読者に提供します。
ようやくはじまった奨学金問題解決への政府のとりくみがさらに若者を苦しめる方向に向かわないよう注視していく必要があります。若者が希望を持てない社会に未来はありません。
『現代の理論』編集部
特集・転換の時代
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