編集委員会から
16号編集後記
――危険が一杯「働かせ方改悪」―本質見据え対処を
◆本号の特集は「労働法制解体に抗して」だが、その「解体」とは、労働法制を適用される労働者の範囲を 極小 にして労働法制を「画に描いた餅」にすることだと思う。「働き方改革」を言う政権は、法的にも裏付けられた「労働」を「働き方」に溶かし込んで消し去ろうとしている。前号に続いて今回も上西論文の指摘が鋭い。高度プロフェッショナル制度は立法事実がないのにつくられたが、そのことをどのように社会に知らせ、多くの人の問題意識を掘り起こせるかが、これからの課題だとされる。本文中に触れられているように、上西さんはパブリックビューイングという手法を工夫し、精力的に活動中だ。Web版らしくURLなども記載されているので、ご活用いただきたい。
◆言葉づかいを含めて丁寧な方法で広範な人々の支持を得よとの上西論文を読み、労働組合活動をするものとして、反省すべきだと率直に思った。この問題は労働組合関係者だけが専門的に取り扱うことではなく、社会一般の人の理解を求め、広げていくべきだと考えたからだ。早川論文は労働組合の対抗戦略を求め、高度プロフェッショナル制度も社会的運動ではね返すことを主張する。小林論文は、働き方改革法の成立した今こそ、労働組合が非正規労働者の声をくみ上げる運動を広げるべきだと訴えている。社会的にはパッとしない労働組合運動に携わるものとして、自身の今後の取り組み方を考えさせられている。(大野)
◆「働かせ方法案」が国会で強行突破され、いよいよ社会へ、労働の現場へとなってくる。その労働の現場に労働組合が組織されている比率は17%にまで低下している。戦後初期は50%超、高度成長期は30%、オイルショック後の80年代が20%と騒がれたが。その少ない労組の弱体化も指摘される。本誌でも「連合よ!正しく、強かれ」の論考掲載も。法案でも労使協議の重要性や労使委員会の合意などが規定される。大企業ではともかく多くの中堅、中小企業では労組も少なくお寒い実態。大企業では組織率40数%あるが、1000人~100人の中堅企業では10%強、100人以下では、わずか1%の実態。
◆労働基準法のなかで8時間労働制とともによく知られる(少なくとも働く人は聞いたことがある)36協定(残業時間は労使決定が必要―監督署への届けに印鑑がいる)。労組なき場合は労働者代表を選ぶ。実態はそこが曲者、労働者代表を選ぶのに選挙などまず少ない。
まあ形式的に立候補受付の張り紙くらいはあるか、いや少ない。朝の朝礼で総務が〇〇さんにやってもらいます、と。ま、管理職であることが多い(もう一言、残業手当が8時間を越えて働かせることへの罰金であることを知らない人が多いとか。その罰金の割増率が日本は25%と低い。アメリカ、イギリス、フランス、韓国など、ほぼ50%。中国も50%。それが実態。そもそも総労働時間が日本は長いのだ)。さらに一言、今回法案導入の理由でアベなどの常套句は“日本は労働生産性が低い”である。“先進7カ国で最低”と。これが新聞やテレビ、ネットで無媒介に垂れ流される。エエ加減にせよである。誰かが言っていたが“日本を週休3日制にせよ、労働生産性は一挙にあがる”と。労働生産性は総生産量÷総労働時間で算出する。要するに日本の労働時間が長いのだ。だから労働時間をカウントしない“高プロ導入”となる、は一面の真理。日本の産業・労働者が劣っているのではない。益々腹が立つので止めます。
◆マルクス生誕200年。昨年が資本論150年、そしてロシア革命100年であった。50年前の1968年はベトナム戦争であり、世界の“学生の叛乱”、プラハの春もあった。日本では学園闘争。催涙ガスの匂い漂う新宿の居酒屋で政治が大いに語られた。91年のソ連邦の崩壊、“社会主義を標榜する”国家の崩壊の衝撃は世界を覆った。スターリン主義―ソ連型でないマルクス主義・社会主義の思想・理論を目指した第2次『現代の理論』は、89年12月に休刊。現代の理論に結集した論客のその後は・・。2004年、新たに第3次『現代の理論』を発刊、30号を経て、2014年に現在の『現代の理論』デジタルとなる。
◆過日、読者より投書あり、「現代の理論は以前、『講座マルクス主義』(日本評論社)を出したり、ソ連型でない現代マルクス主義を標榜していた。多くの経済分析もされた。最近、書店に行ってもマルクスの本が少ない。現代の理論としてどう思うか」と。確かに、マルクスそのものをテーマにした企画は弱かった。編集委員会で検討。『マルクスだったらこう考える』『超訳資本論』『革命再考』『マルクス再読』など一貫して論陣を張ってこられた的場昭弘さん、マルクス経済学はどこへの視点で理論経済学会の八木紀一郎さん。そして今年の12月に日本で開催される画期的な「マルクス生誕200年記念国際シンポジウム」実行委員長の河村哲二さんに論考をいただいた。読者の皆さん是非参加を。「現代にとってのマルクスの意味」を共に考える絶好の機会です。
◆転じてトランプ、この男無茶苦茶。毎号寄稿頂いている金子敦朗さんは、その便りで、普通はこれほど滅茶苦茶やれば、支持はほとんど失うのに、トランプの場合は、動じない「信者」がいるので、中間選挙もまだ見定めがたい。米国はプアーホワイト、白人大金持ちと白人少数派の高学歴のリベラルと黒人、ヒスパニックなど少数派にはっきり分解される国に向かって突っ走っているようだ。これは遡れば、黒人奴隷を本当に解放することを拒絶してきた「原罪」にさかのぼる・・・と。もしトランプが続くと、欧州の極右・ポピュリストも勢いづき、リベラルな民主主義という現在世界の体制が危うくなりそうと、今号「どこへ行く『リベラル民主主義』」を執筆願う。(矢代)
季刊『現代の理論』2018夏号[vol.16]
2018年8月1日発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会
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