コラム/今日この頃
拡大する架空請求詐欺、新手口の特殊詐欺
被害の顛末記その2
本誌編集委員 池田 祥子
友人がメールで送ってくれた「共同通信配信―東京新聞発」(2018.6.29)では、「アマゾン装う詐欺多発」という見出しの下、「被害は約1億6500万円に上る」と記されていた。
消費者庁もこの日に、次のような「注意喚起」を発表している。
SMSを用いて有料動画等の未納料金の名目で金銭を支払わせようとする「アマゾンジャパン合同会社等をかたる架空請求」に関する注意喚起
「平成29年11月に消費者庁において同様の注意喚起を行っていますが、その後もアマゾンをかたる事業者に関する消費者被害の発生又は拡大がやまないことから、今回改めて注意喚起を行うこととしたものです」
その上で、SMSに記載される事業者名として「アマゾン、アマゾンジャパン、アマゾンカスタマーセンター、アマゾンサポートセンターなど」が例示され、いずれも名称に「アマゾン」が含まれています(アマゾンの名称を使用せず「相談窓口」「カスタマーセンター」等と記載されている事例もありますが、消費者が記載された電話番号に連絡すると、「アマゾン○○の○○です」と名のる者が対応します)と、念押しされている。
私の場合は、実在する収納代行ウエルネット社を騙り、それを前面に出し、アマゾンは送金先でしかなかったが、次第に、大手アマゾンの社名を堂々と騙る手口に変わっているようだ。
1 その後の経過報告です
前号の「顛末」にも記したように、アマゾンカスタマーサービス「泉」氏の名前で、3月26日、次のようなメールを受けた。
「お客様から教えていただいた振り込め詐欺の件、当サイトで保全できた金額(242,027円)をお客様の銀行口座へ返金するよう手配完了いたしました。
しかしながら、55,973円は当サイトが「手数料」として頂戴したわけではなく、振り込め詐欺を計画した第三者が既に不正利用しており(太字は筆者、以下同じ)、保全できなかった分の金額でございます。わかりづらい点があり、ご心配をおかけしておりますことをお詫びいたします。この55,973円分につきましては、当サイトで返金などをお受けすることができません。お手数をおかけいたしますが、警察など第三者機関へのご相談をお願いいたします」
私は、242,027円が手元に戻って来たことに、やはりホッとした。ほぼ30万円(あるいはそれ以上)を丸々騙し取られていたとしたら、悔しさと自分への不甲斐なさ、恥ずかしさとで、誰にもこの詐欺被害の事実を明かさなかったにちがいない。秘密のままあの世に持ち越していただろう。
しかし、今回、ホッとしながらも、このアマゾンの対応がいまいち理解できなかった。「架空の未納金」として想定された金額が、なぜ全額詐欺犯の手許に届かないのか? なぜ、その7,8割がアマゾンで「保全」され、被害者に送り返すことができるのか? アマゾンと詐欺犯(架空業者)との間で、どのような取り決めがなされているのか? アマゾンの多数の契約者リストを元に照らし合わせれば、今回のこの詐欺犯(業者)は即刻、特定できるではないか?
その後、実在の収納代行ウエルネット社とアマゾンの両社長宛てに手紙を書いて、このような疑問をぶっつけてみた。ウエルネット社は本部は北海道で、社長代理と名乗る社員から電話があり、「詐欺犯とは一切関わりがないので、お答えの仕様がない。当社としては、もっぱら“詐欺にご注意”と、ネットで警告している」とのことだった。
一方のアマゾンからは、4月27日、次のようなメールの返信があった。
「(略)このたびは、アマゾンジャパン合同会社社長宛てに書面をお送りいただき誠にありがとうございます。
社長ならびに関連部署にて、お客様からいただきました書面を拝読し、社長より本件の対応につき私が担当するよう指示を受けました。つきましては、アマゾンジャパン合同会社社長に代わり、エグゼクティブカスタマーリレイションズ鈴木より返答申し上げます。
詐欺業者が、フィッシングメールや架空請求、偽のECサイトなどを利用して、Amazonギフト券やコンビニ・ATM・ネットバンキング・電子マネー払いを使用し、不正に代金の請求を行う手口が報告されております。Amazon.co.jpでご注文されていないにもかかわらず当サイトの「コンビニ・ATM・ネットバンキング・電子マネー払い」システムを利用しお支払いいただいた場合、第三者の注文に対してお支払いをされてしまった可能性がございます。今回は、池田様からのご連絡により、当サイト内で不正行為が判明いたしましたため、第三者による注文のうち保全ができた残高分のみをお返しすることができたという経緯となります。そのため、収納代行サービス「ウエルネット」や、当サイトから発生した手数料ではございません。
当サイトといたしましても、このような不正な行為は許容いたしておりません。当サイトの規約に抵触する行為が発見されたアカウントや、不正取得された可能性のあるご注文については、必要な調査を行い、それぞれ利用停止や使用の拒否等の措置を随時行っております。また、Amazon.co.jpでは、警察庁や金融庁などとも協議の上、当サイト上、コンビニ・ATM・ネットバンキング・電子マネー払いの支払方法選択画面、Amazonギフト券本体などに、注意喚起のメッセージを表示する対応など対策も行っております。(ページアドレス 略)
上記のとおり、対策や、調査、対処につきましては社内で随時適切に行っておりますが、対応の内容につきましてはAmazon.co.jpプライバシー規約の観点から、当サイトからお客様に対し開示をいたしておりません。以上の内容を、初期の対応にてお伝えすべきでございましたが、正しくご案内がなされず、ご不快なお気持ちにさせてしまいましたことを心よりお詫び申し上げます。(Amazon.co.jpプライバシー規約 略)
今回ご迷惑をおかけいたしました件につきましては、今後このようなことが発生しないよう、カスタマーサービス全体への周知を行い、再発防止に努めてまいります。当サイトでは、より多くのお客様にご満足いただけるようサービスの改善に努めてまいりますので、今後ともAmazon.co.jpをご愛顧いただきますようお願いいたします」
この長い長い返信メールの最後は、「Amazon.co.jpは、お客様からのご意見により、地球上で最もお客様を大切にする会社を目指しています」という一文である。
以上の社長に代わっての「鈴木」氏の返信は、「お詫び」の姿勢ばかりが長々と繰り返されているだけで、内容的には先の「泉」氏の内容と変わるところはない。私は、自分が「不快」な気分になっているわけではなく、アマゾンと詐欺犯が、どのような名前を騙りどのような取り決めを行っているのか、しかも、明らかに「詐欺犯」と分かっている今回のケースに対して、アマゾンはどのような「処置」を行うのか、あるいはすでに行ったのか、そこを問うているだけなのだ。
それで、鈴木氏へのメールのお礼を述べ、さらに次のような私の思いを送った。
「みなさんが、詐欺に騙されないよう・・・いろいろな対策が立てられています。それはそれで大切ですし、有難いですが・・・。(でも)詐欺犯を追及して逮捕する。これは警察の仕事ですが、今回の私のケースは警察とアマゾンさんが協力すれば、手がかりは“現存している”・・・と未だに考えています。
今後は、警察と相談します。その時には、また是非ご協力頂けるとありがたいです。
社長様によろしくお伝えください。 池田祥子」
この一連のやりとりで、私はアマゾンを相手にしても、何ら得るところもなく、徒労だけだ、と悟ってしまった。そう思っている所に、最後にまた、「神谷」氏からダメ押しのような空疎なメールが届いた。ヤレヤレだ。
「(略)このたびは、当カスタマーサービスの対応に至らぬ点があり、お客様にご心配をお掛け致しましたことを深くお詫び申し上げます。また、本件に関しご丁寧なご返答をいただき誠にありがとうございます。前回担当いたしました鈴木がお休みを頂戴しておりますため、代わって神谷より返信申し上げます。
Amazon.co.jpでは、今回生じた件を今後の課題として真摯に受け止め、お客様にご満足いただけるサービスをご提供できるよう、更なるサービス向上に努めてまいりますので、今後ともご愛顧賜りますようお願い申し上げます。Amazon.co.jpのまたのご利用を、スタッフ一同心よりお待ちしております。
Amazon.co.jp エグゼクティブカスタマーリレーションズ神谷 ご利用ありがとうございました」
2.「法務省管轄支局」からの告知葉書 (消印「豊島 18.6.26」)
3月10日夜、中野野方警察署で、事件の概要をとりあえず「受理」してもらった後、野方警察署の車で自宅まで送ってもらった。その時、同行してくれたのは刑事課のM部長(と呼ばれていた)だった。後日改めて被害届のために野方警察署に出かけて行った。出迎えてくれたM部長、朝の柔道の練習で足をくじいたとか・・・足を引きずっていた。そして私の顔を見るや、「この前、ダンナさんにかなり叱られたでしょう。恐そうなダンナさんでしたよね。大学の教授ですか?」と。「え、どうしてそう思われました?」と私が聞くと、「玄関入ったら、本箱があって、本がいっぱいありましたよね」だと。ナンダカナ~~
確かに、玄関入った突き当りに畳一枚大の本箱が一つ置かれている。でもそれは、私の雑多な本を詰め込んでいるものだ。古い雑誌類、ハングルその他の語学書、歌集とか、ファイルされた昔のノート類とか・・・。しかし、そのことについて何も言う気はしなかった。ただ、刑事課のM部長が何とも頼りなくなっただけである。
そういう訳で、アマゾン社には「今後は警察と相談します!」と強気で申し渡しをしたけれど、野方警察署がどこまで本気で詐欺犯対応をしてくれるのか・・・残念ながらすでにしてあまり当てにはならないと思っている。
そして6月27日。一枚の葉書が届いた。
消費料金に関する訴訟最終告知のお知らせ―訴訟管理番号(と)991
この度、貴方の利用されておりました契約会社、もしくは運営会社側から契約不履行による民事訴訟として、訴状が提出されました事を改めてご通知致しますとともに、訴訟取り下げ最終期日を経て裁判を開始させて頂きます。
また、このままご連絡なき場合は、原告側の主張が全面的に受理されまして裁判所の許可を受けて執行官立会いのもと、現預金や有価証券及び、動産や不動産の差し押さえを強制的に執行させて頂きます。
尚、訴訟取り下げなどのご相談につきましては当局にて承っておりますので、下記までお問い合わせ下さい。
この度は、民事訴訟に関するご通達となりまして、個人情報の保護や守秘義務などが御座いますので、ご本人様からご連絡頂きます様お願い致します。
訴訟取り下げ最終期日 平成30年6月29日 (下線は原文)
取り下げ等のお問い合わせ相談窓口
03-6014-2034
受付営業時間(日、祝日は除く)
平日 9:00~20:00 / 土曜日 11:00~17:00
法務省管轄支局 国民訴訟お客様管理センター
〒100-8977 東京都千代田区霞が関1丁目1番地10号
この葉書の消印を見ると、「豊島 ’18.6.26」午前中の投函である。
わが家には、27日に届いて、「訴訟取り下げ最終期日」が6月29日、何とも慌ただしい設定である。私の最初のSMSでの「締め切りがその日の午後3時」と同じく、受け取った人間を慌てさせるのが狙いだろう。
このような葉書を初めて受け取れば、やはり動転するに違いない。私でさえ、内容を見た瞬間はゾッとしてしまった。しかも、私は詐欺犯の名簿にしっかりと記載され、狙われているとも思った。しかし、冷静になれば、詐欺犯の手口がよく見える。さらに私にとってラッキーだったのは、別の友人が「架空請求は、今では、法務省からの葉書でも届くからね」という助言をもらっていたことだ。さらに、よくよく見れば、「最終告知のお知らせ」・・・これは「馬から落ちて落馬」と同じく冗語である。しかも家人が調べてくれたのだが、「法務省管轄支局」は架空であった。
相談窓口に電話をかければ、今度はどのような「訴訟取り下げ」の相談になるのだろうか。その手口の詳細を知りたいという「被害者根性」?がないわけではないが、今回はそれには乗らない。その葉書の文面をコピーして、野方警察署のM部長に連絡しておいた。もちろん、M部長からの返事はないままである。
3 追記-『振り込め犯罪結社』(鈴木大介著)を読んで
上記の本は、家人が中野区立鷺宮図書館で見つけて借りてきたものである。サブタイトルは「200億円詐欺市場に生きる人々」(2013年12月発行、宝島社)。私も早速読ませてもらった。
出版が2013年なので、その後はさらに犯罪の組織、方法とも、より巧緻になっているだろうと想像される。その一つとして、今年の7月7日の新聞に「新手口」の「特殊詐欺」被害が報道されている(「朝日」)。警察官を名乗る男から電話があり、「外国人グループがあなたのカードをスキミングした。・・・キャッシュカードとクレジットカードを一度預けてください。・・・あなたと警察が接触しているのがバレると犯人を逮捕できなくなるので、カードは封筒に入れて、お宅のポストに入れておいてください」
この特殊詐欺の被害は、都内だけで1月~5月、1679件、被害総額は36億5562万円だという。
この犯罪結社の広がりと被害の金額の多さには愕然とする。
上記の本によれば、「オレオレ詐欺」元年は2003年だと記されている。ヤクザを中心とする闇金業への厳罰化が一つの契機になっているのだと。さらに、複数の「金主」、「番頭」「道具屋」「名簿屋」「プレイヤー」「ダシ子(金を引き出す)」「ウケ子(直接、金を受け取る)」の分業組織、徹底的な「研修」など、非常にリアルな実態が見えて来る。
初めは、この本に書かれていることも今回詳しく紹介するつもりであったが、「コラム欄」としてはすでに字数がオーバーしている。残念だが、私自身もさらに「勉強」を深めて、次号にでもその組織の詳細を報告し、時代や社会との関わりについて考えてみたいと思う。
いけだ・さちこ
1943年、北九州小倉生まれ。お茶の水女子大学から東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。前こども教育宝仙大学学長。本誌編集委員。主要なテーマは保育・教育制度論、家族論。著書『〈女〉〈母〉それぞれの神話』(明石書店)、共著『働く/働かない/フェミニズム』(小倉利丸・大橋由香子編、青弓社)、編著『「生理」――性差を考える』(ロゴス社)、『歌集 三匹の羊』(稲妻社)、『歌集 続三匹の羊』(現代短歌社、2015年10月)など。
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