編集部から
編集後記
――“まず、総理から前線へ” アベ打倒の烽火を
●ピケティ現象を日本でも巻き起こした『21世紀の資本』。解説本も相次ぎ場外論戦も盛んである。一方日本では、本号巻頭で語っていただいた水野和夫さんの『資本主義の終焉と歴史の危機』がある。方や高価、方や新書だが専門書がベストセラーになっているのは、現代に生きる多くの人々がいかに現実への不満と不安を持っているのかの現れであろう。水野さんは日本の行くべき姿を語る。そして田端博邦さんは特集欄の「雇用・労働の現在」で非正規労働者の激増などが何故生み出されたのか、現政権の諸政策は論理矛盾・二律背反だと。「仕事のための生活」か「生活するための労働」かと問う。勤労者の三分の一にならんとする膨大な不安定・超低賃金労働者。新たな階級の発生である。“失うべきものは鉄鎖以外にない”(マルクス)の言葉が現実味を帯びる。最低の文化的社会生活もおくれない貧困層の激増。少子化の最大原因であり社会の再生産ができなくなるのだ。読者諸氏の熟読・熟考を期待する。
●さてわがアベちゃん。今や絶頂期のように御用マスコミは煽っているが果たしてそうか。前号でも触れたが“驕れるものは久しからず、盛者必衰は世のならい”(平家物語)をもう一度贈る。しかしこの男はたしかに危険、それも歴史に残るほどに。歴代の総理を思い浮かべても、アベほど危険で醜い総理はいなかった。まず人間としてのレベルが酷い。麻生は字が読めなかったが愛嬌はあった。もとよりアベには知性も教養も無いと思っていたが、人間としての品性もなかった。あの予算委でのヤジ問題。質問者の向かいの総理席から“日教組はどうした”とネット右翼、在特会顔負けのヤジ。それも事実誤認ときているのだからもう救いがたい。知性の無さはもとより、それに不遜さ、愚劣さが加わればもう可哀そうだが人間としてはほぼ失格である。こういう自己中の人間は自暴自棄になると危険性が増大する。よほどの分析が必要だ。
●このアベは、数十年前の冷戦思考で成長が止まり、バラマキ外交で対中国包囲網を夢見る。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏によれば、“もうほとんど妄想に近い”と。中国がらみで、昨年4月の訪日時にオバマから、銀座の寿司屋かどうかは知らないが、“口を慎め”とまで言われたとか。戦後、ナチス、ホロコーストなど深刻な歴史問題を抱えたドイツ。先日訪日のメルケル首相には、「過去の総括 和解の前提」(朝日一面トップ見出し3/10)とまで直裁に言われた。朝日の解説では、「今回の訪日で(メルケル首相が)歴史認識にここまで言及するとは、事前には予想されていなかった。・・東アジア諸国を刺激しかねない問題について慎重なメルケル氏があえて発言し、物議を醸すようなことはしないだろうという空気が流れていた」。ドイツ政府関係者も確認できずにいた、と。さらに自らの原発方針の大転換は“福島に学んだ”と。この言にアベは何を想う。日本よりの発言をしたとアベ外交の成果と報じられたオーストラリアも、対中包囲網に組みせずとわざわざ弁明。中国と犬猿の仲であったインドも同じ。ことほど左様にアベは今や世界の孤児であり、困り者なのだ。極め付きは、アベのお友達というか御用学者というか、アベの70年談話「懇談会」の座長代理の北岡伸一(国際大学長)に「私は安倍さんに『日本は侵略した』と言ってほしい」(シンポジュウムでの発言。3/10朝日)と述べたとか。さらに「日本全体としては侵略して、悪い戦争をして、たくさんの中国人を殺して、誠に申し訳ないということは、日本の歴史研究者に聞けば99%そう言うと」と指摘したと報じた。北岡という人物、国連次席大使も務めた政治的学者の言なので裏があるかもしれないが、額面はまさにそのとおりである。信頼するお友達にここまで言われる始末、アベは「70年談話」どうするのか、まだ歴史を歪曲するつもりか。一言、“夜郎自大になるな”の言葉を贈る。
●アベの顔や声を聞くとイヤになる、心身症になりそうの声をよく聞く。ホンマの話。しかし負けてはおれない。そういう心優しい人に贈る言葉がないかものかと思っていたら、本号の沖縄からの論考、[論壇]の親川裕子さんが格好のものを紹介してくれた(詳しくは本号論壇欄を参照)。沖縄地元紙の琉球新報の一面コラム<金口木舌>だ。以下に引用する。
「こんなポスターがある。両端に武装した2人の自衛隊員。少し腰を曲げ、出迎えのホテルマンのように手を広げ、真ん中へ導く。「まず、総理から前線へ。」の文字▼最近のきな臭い空気を映したものかと思っていたら、1982年にコピーライター糸井重里さんらが作ったという ▼同じ思いを持つ人は100年前にもいた。大正期の評論家・長谷川如是閑によると、デンマークの陸軍大将が「戦争絶滅受合(うけあい)法案」を発案した。内容はこうだ。開戦後10時間以内に、砲火飛ぶ最前線に次の順で一兵卒として送り込む。(1)国家元首(2)その親族(3)総理、国務大臣、次官(4)国会議員(戦争反対者を除く)(5)戦争に反対しなかった宗教指導者。さらにその女性親族は最前線の野戦病院で看護に当たる ▼戦場を見た軍人だけあって、戦争の本質を鋭く突いている。戦争をやりたがる権力者は安全な地で声高に危機感をあおるだけ。犠牲になるのは庶民という構図は歴史の常だ ▼時の政権が「戦争ができる国」へと前のめりになっている。「人のけんかを買って出る権利」(思想家の内田樹氏)である集団的自衛権の行使容認に向け憲法までも誤読を企てる。戦場に送り出される心配のない特権階級の人たちが、机上で描く悪魔の青写真だ ▼安全圏にいる安倍さん、絶滅法案こそ正しい意味の「積極的平和主義」だと思いますが、どうですか」
●まさにこれだ、このコラムを書いた記者にエールを贈るとともに、「まず、総理から前線へ」のポスター。一瞬を切り取り本質に迫るポスターや写真の凄さ。編集子思うに、衆院で議案提出権を持った日本共産党はこの法案を出さないか。この法案で前線に送り込む筆頭の国家元首(天皇)は止めて、総理(アベ)が筆頭だ。本当に応援するが、法案成立しないかな。天皇制論議はさておき現天皇は、“最大の護憲論者”か? 少なくともアベとは180度違う。歴史に学んでいる。今年の年頭の所感「本年は終戦から70年という節目の年に当たり・・・この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」。評価はいろいろあろうが、先の大戦は15年戦争との認識。憲法上や政治的制約のなかで天皇がこう発言せざるを得ない日本の現実。これは我々の問題なのだ。さて結論。安倍晋三は危ない、間違いなく後の世代に深刻な害を及ぼす。アベ打倒の声を全国津々浦々からあげること。諦めと沈黙が一番ダメなのだ。その声が、燎原の火のごとく広がることを信じていこう。それぞれの立場と場所で語ろう、働きかけよう、やれることをやろう。アリの一穴は間違いなく歴史的事実、何故あの“驕れるもの久しからず”(平家物語)が800年も語られているのか、それは真実だからではないか。戦後70年、今なお日米の露骨な植民地支配に抗し苦闘する沖縄の人たちに学ぼう。あ、もう統一地方選挙だ、これこそ身近な声の届く選挙、大いにやれる。合言葉は、“総理! 総理からまず前線へ”だ。(矢代俊三)
●「これで日本は前途洋々」。敗戦の日、石橋湛山はそう語った。たしかに、語った。だが、あれから70年。靖国参拝、秘密保護法、憲法解釈変更による集団的自衛権の閣議決定。TTPや戦後労働法制の解体、露骨な教育への国家主義の導入、その他多数。もはやリベラルも戦後民主主義も死語なのか。一方で、震災復興はどうした。原発除染はどうした。「 叫ばずにはいられない。そして、ぼくらの「前途」は……前途は、前途は、前途は。いまこそ、深海魚のように、深く、深く、哲学するときだろう(北岡論文)。さて今号の各論考を眺めてみる。どれも、ぼくらの前途にむけて、深い暗がりから光を放っている。あたかも深海魚のように。執筆者のみなさんに感謝したい。そして本誌『現代の理論』デジタルは発信1年。読者のみなさんに、発光現象を届け続けたい。 (米田祐介)
●先日、九州への出張の際に立ち寄った居酒屋で、偶然隣に座った地方中小企業の社長と意気投合。社長曰く、「首都圏から遠く離れた九州にはアベノミクスの効果はまだ届いていませんが、もう少しの辛抱ですたい」。思わず「私は東京暮らしですが、私のところにもまだ届いていませんよ」と返すと、「それは余程、首都圏から離れた東京にお住まいなんですね」と憐れむ顔。嘘のような本当の話。同じくその社長は、「日本の経済力、国力が強化できれば、貧富の差も改善し弱者も救われる」ことを信じて疑わなかったが、その無垢な信頼に背筋が寒くなり、思わず焼酎お湯割りを飲みすぎてしまった。
●読者のみなさまからの要望も寄せられていることから、『現代の理論』Facebookを立ち上げました。ホームページ更新のお知らせや最新情報など充実させていきます。 Facebookアドレスは以下です(https://www.facebook.com/gendainoriron4)。また、これまでどおりホームページ上ではメーリングリストへの登録(無料)のご案内をしております。友人知人の皆さんへのご案内をよろしくお願い申し上げます。さらに、登録されたにも関わらず、まだ一度もメールが届いていないという方は、迷惑メールへ振り分けられている場合もありますのでご確認のうえ、編集部までご一報下さい。よろしくお願い申し上げます。(今井 勇)
季刊『現代の理論』2015春号[vol.4]
2015年3月15日発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会
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