編集委員会から
編集後記(第35号・2023年夏号)
“若者と政治! 支持獲得へ立憲民主党は何をなすべきか”――尾中香尚里さんが語る
▶ 日本・世界はどうなっているのか。どこへ向かっているのかの声は多くの方から聞かれる。全く同感である。新たな冷戦か、が語られる昨今。そして、それぞれの課題に我われが如何に関わるのか、を鋭く突きつけてもいる。本号特集テーマを、「内外混迷 我らが問われる」とした。共に考えていきたい。
ウクライナの戦争は停戦の兆しすら見せず、戦火にさらされる人々を思うと胸が締め付けられる。大きな影響力を持つアメリカは、大統領経験者が3度目の起訴をされ、これまた前代未聞で国を二分している。来年の大統領選挙にどうからむか(金子敦郎さん)。そして時にアメリカと一線を画する動きも見せる欧州の動向はどうか。松尾秀哉、福井英次郎、福澤啓臣、松下和夫の四氏が論じる。大きな話題となってきた生成AI(人工知能)問題、本誌でもはじめて取り上げた。蒲生猛さんは、「その歴史的位置付けと社会に与えるインパクト」を分析、しかし「知識創造の主役は、あくまで人間」であると。本誌の橘川俊忠さんは、「現代日本イデオロギー批判①」で「ナショナリズムの時代の終焉のために――複雑怪奇な国際情勢のなかで」と鋭く問いかける。
▶ やはり日本政治、どう見るか、どこへ行こうとするのか。前号編集後記でも紹介したが、長年の政治取材を通じ一味違う鋭い分析をされている尾中香尚里さん(ジャーナリスト、元毎日)にご無理をお願いし登場願った。巻頭に掲載した「『支え合う社会』を旗印に自民党を退場させる――立憲民主党、支持拡大へ何をなすべきか」である。立憲民主党と旧民主党との違いも語られており、是非ゆっくりとお読み頂きたい。
担当した大野、黒田の両編集委員は異口同音に“これは是非、若い人に読んでほしい”と。尾中さんは「自民党の政党としての耐用年数は、とうに過ぎています。代わりの政権政党を育てなくてはいけない。劣化した自民党に退場を促し、代わりに政治を担うのが野党第一党です」。若者と政治について、「立憲民主党が支持を得るべきなのは、こういう人たちではないかと思います。彼らは立憲が嫌いなのではなく、そもそも立憲の存在が見えていない。『自分たちが今抱えている問題は、政治で解決できる』ということが伝わっていない。今自分たちが苦しいのは天災・・・、政治的な人災だというところに頭が向かない。そこをどうやって結びつけることができるか。立憲民主党の最大の課題」と。まさに慧眼である。
▶ 混迷の一因は維新。多くの人が疑問に思うが、秋に総選挙があれば、一人勝ちとも言われる。それは何故なのか、水野博達さんは「維新は、どこへ向かうのか?――第二自民党でよい(馬場発言)で馬脚か、真意と狙い」を冷静に分析する。広くは知られていないが維新のブレーンは、竹中平蔵の上手を行くような新自由主義者でベンチャーの創業者、大阪万博にも深く関与する名だたる“政商”である。昨年、松井一郎と吉村洋文がドヤ顔で発表した例の大阪産コロナワクチン、画期的ワクチンができると記者会見を開き宣言、結果できず大恥をかかせた張本人がこの御仁。アベにも近かったという、本物の“政商”だ。
身を切る改革、スローガンやよしである。しかしその実態は? 何故、大阪がコロナ死全国一なのか。改革の名の下に公立病院や保健所を潰し、人員を削減してきたのが維新。公務員叩きの人気取り、自助努力の名の下の弱者切り捨て。そして極め付きが、バクチで財政を潤わそうと狙ったカジノ、大阪万博である。これは橋下徹、松井一郎、安倍晋三、菅義偉の一杯飲みの席で決めたと巷間語られている。まさに語るに落ちる維新の実相だろう。そう思っていると現代表の馬場伸幸が“維新は第二自民党で結構”と、語るに落ちるとはこのことだが、勝てば官軍と、思い上がっているのであろう。
▶ フランスのストが羨ましい。指摘され続けているが日本の労働運動の実態は寒い。権力との対抗勢力の大きな一翼は労働組合である。また歴史を動かす力でもあることは現在でも諸外国をみればよく分かる。転じてわが日本はどうか。暗澹たる想いを深める。以前、その運動の一翼を担った者として、もう“繰り言”なのかと思う。この間の本誌掲載論稿で注目を集めてきた早川行雄さんは本号で、日本の労働運動の中心である“連合”を切開する。早川さんは、今春闘をみて、「連合芳野会長の春季生活闘争――管理春闘の完成型と記録されるであろう2023春闘」と断じる。自身が総評全金労組・JAM労組で総評労働運動・連合運動の一翼を担った者としての論考であり、自責も含め心からの叫びなのであろう。日頃、労働運動に関心の少ない読者にも是非熟読願いたい。“たかが労働組合、されど労働組合”である。労働組合が弱体化すればどうなるか。戦前、産業報国会の一員となりアジア侵略の一翼を担った痛苦の歴史を忘れてはならない。まさに今の連合は、それが問われている。
たそがれの労働運動であるが、今年の最低賃金の審議会答申をめぐっては話題になる。されど日本の最低賃金は先進国の中では極めて低位で安い。この日本の最賃問題を本号コラム欄で大野隆統一管理職ユニオン委員長(本誌編集委員)が、諸外国に比して「最低賃金『平均1000円』は余りにも低い」と断じ、できるだけ早く最低賃金増額の再改定をせよ、と訴える。その昔、地域最賃は一家4人の標準世帯の奥さんの“パート代”とも語られた。それが今や、非正規労働者の賃金となり、それが足を引っ張って正規雇用労働者の低位の水準を規定し、かつそれが労働者全体の賃金を低位に押しとどめる犯罪的な役割を果たしてしまっているのだ。本当にこんな日本に誰がしたのか、と思う昨今である。(矢代 俊三)
季刊『現代の理論』[vol.35]2023年夏号
(デジタル35号―通刊64号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)
2023年8月7日(月)発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
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