特集 ● 内外混迷 我らが問われる
「反対!」「NO!」の先にある社会
入管法改悪反対!国会前シットインを取り組んで
NPO移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)共同代表理事 鳥井 一平
入管法改悪成立までの経過
入管法改悪は、時代の要請と人々の思いに逆行
入管庁に決めさせてはいけない、これからの社会と移民政策
労働者が労働者として生活・移動できること
違いを尊重し、労使対等原則が担保された多民族・多文化共生社会へ
今年6月9日、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)の改定が参議院本会議で可決成立した。この改定の問題については、3回目の難民申請以降は難民認定すべき相当の理由がなければ強制送還できるようになることなど、重要な人権侵害問題が指摘されていたが、政府与党は採決を強行した。この法律の施行は来年4月の予定である。
入管法改悪成立までの経過
法案が国会に上程されて以降、成立までの経過は次のとおりである。
3/ 7 (火)閣議決定、入管法改定案国会提出
4/13 (木)衆議院本会議にて法案趣旨説明
4/14 (金)衆議院法務委員会にて法案趣旨説明・審議入り
4/28 (金)衆議院法務委員会にて一部修正案 可決
5/ 9 (火)衆議院本会議にて法案一部修正案可決 野党対案を参議院に提出
5/12(金) 参議院本会議にて政府法案趣旨説明
5/16(火) 参議院法務委員会にて法案趣旨説明・審議入り、野党対案と並行審議
6/ 6 (火)法務大臣問責提出
6/ 7 (水)参議院本会議 問責否決
6/ 8 (木)参議院法務委員会にて法案可決
6/ 9 (金)参議院本会議にて法案可決成立
4月14日の衆議院法務委員会での審議入り以来、6月9日まで18回、国会前でのシットインを行った。その都度、参加者と一緒に「入管法改悪ノー(NO)!」、「入管法改悪反対!」の声を大きく上げた。「ノー!」の声は法務委員会の部屋にまで届いていたらしい。この国会前シットインは、全国各地でスタンディング、シットインを取り組む人々(時にはひとりであっても)の入管法改悪反対!の声がつながりあう”ひろば”となっていた(全国145ヶ所、6月19日現在 児玉晃一弁護士調べ)。
また、入管法改悪反対署名は2年前の廃案時の倍以上の22万3,242筆(6月8日現在)が寄せられた。しかし、6月9日、立法事実が審議過程で悉く崩れた「入管法改正案」が参議院本会議で可決成立した。市民社会が求める入管法改正案、難民等保護法案(立憲民主、共産、社民、れいわ、沖縄の風の野党共同提案)に対しては真摯な審議が行われなかった。
今回の入管法改悪は、戦後一貫した、外国人を監視・管理するという入管政策、歪んだ「移民政策」のひとつの答えであり、現在、外国人技能実習制度と特定技能の見直し論議に示されている受入れ拡大に、監視・管理強化をセットとして政策を進めるという政府の姿勢を表してもいる。
また、少し角度を変えてみてみると、すでに始まっている移民社会と受入れ拡大の政策方向の中で、出入国在留管理庁(以下、入管庁)が自らの存在を誇示するために、ありもしない危機感を煽り、扇動したのが今回の入管法改悪である。例えば、前科、前歴の差別を煽り「外国人は、犯罪者」との印象操作を行ったのだ。まさに入管庁のためだけの入管法改悪に国会は踊らされたのである。これは永年現場で外国人労働者や非正規滞在者、外国籍の住民、子どもらを支援してきた者としての実感である。
入管法改悪は、時代の要請と人々の思いに逆行
2021年の入管法改悪法案は、2018年からの受入れ論議の中で、とりわけ外国人技能実習生の奴隷労働構造下での劣悪な労働環境や暴力事件などの人権侵害が次々と報道され、また一方でSDGsやビジネスと人権、そしてフェアプレーと公正を謳うオリンピックパラリンピック開催など、「誰ひとり取り残さない」との国際的な人権意識が高まる中で提出された。
加えて、信濃毎日新聞や宮崎日日新聞などの特集報道が示す、地域社会の共生への求めが、時代情勢背景として存在していた。そして審議が始まると、折しも名古屋入管でのDV被害者であるスリランカ人女性の死によって、入管収容所における非人道的処遇が明らかとなり、改悪反対の世論が大きく巻き起こった。移民、難民の姿に「取り残されている」同感が人々に広がり、廃案となったのである。
2023年の今、この共生を求める声、社会情勢は変わっていない。それどころか広まっている。しかし、政府・入管庁は、今回の入管法改悪を強行してきたのである。
入管庁に決めさせてはいけない、これからの社会と移民政策
はじめにも述べたように今回の入管法改悪は入管庁だけのためのものであった。その入管庁に「受入れ」と共生を任していてはいけない。その典型的な出来事があった。
2019年4月に特定技能制度がスタートするや、東京電力が福島第一原発の廃炉作業に特定技能労働者を従事させようと画策したのである。さすが東京電力である。東京電力の問い合わせに対して入管庁は、「(特定技能は)受入れ可能」と回答したのだ(朝日新聞2019年4月18日朝刊)。
1ヶ月後、さすがに厚労省がブレーキをかけた。放射線被曝労働であり、関わる外国人労働者がその作業に対する危険への認知はもちろんのこと、安全健康対策や帰国後の健康フォローアップなどを入管庁にはイメージできないのだ。労働者を雇用することに対する責任の微塵も感じられない。
そもそも入管庁に雇用、つまり労働者の人生への社会的責任をイメージさせることが無理なのだろう。歪んだ移民政策=外国人労働者使い捨ての象徴的な表れである。
労働(職場)と生活(地域)の空間は、ひとりひとりの労働者にとっては切り離すことはできない。労働力のみでの存在などはない。「使い捨て」が社会を歪める。その場しのぎの「受入れ制度」設計を繰り返す入管庁や厚労省だけに、共生施策、受入れ施策、併せて移民政策をまかせることはできない。中央政府全体での政策決定が必要である。
しかし、移民、難民、外国人労働者とその家族が、職場の一員、地域の隣人として活躍し、また労働者としての受入れ拡大の必要性が厳に事実として存在する情勢においても、未だに政府は、「移民政策と異なる」と、事実に目を背ける姿勢を捨てないでいる。政府は、ニューカマー来日40年間の「教訓」をねじまげ、いかに定住化させずに期間限定の使い捨ての労働力受入れを行うかに力点をおいている。
労働者が労働者として生活・移動できること
私たちが求める受け入れは、簡潔明瞭である。労働者が労働者として移動できるということに尽きる。フィラデルフィア宣言などの国際規範、基準に則り、労使対等原則が担保された「受入れ制度」でなければならない。移民、難民、外国人労働者とその家族はこの社会の基盤をともにつくる仲間、隣人としてすでに活躍しており、この社会の展望の可能性を大きく広げている。移民、難民、外国人労働者とその家族は、働き、活動し、権利主張することによって、この社会に大きく貢献している。地域、職場の現場では誰しも移民、外国人労働者のエネルギーを強く感じ取っている。
すでに「不法就労は犯罪の温床」や「外国人犯罪キャンペーン」、「雇用競合論」が全く事実でなく的外れであることは数字が明確に示している。かえって外国人労働者は、健康保険、年金、税金などの社会ファンドに大きく寄与していながら、見合った公共(行政)サービスを受けているとは言いがたい。
「日本人と外国人」という二分化ではなく、この社会を共に構成し、共に生きていく働く仲間、地域の隣人として、この社会の担い手として移民、外国人労働者とその家族の社会参加がある。移民、難民、外国人労働者が定住を望むような社会、見合った制度にしていくことが、社会の、そして時代の要請である。
「国民」という言葉では排除される人々、投票権を持たない人々、声を上げられない人々の生活や権利を見ることこそが政治の本分であり、民主主義の真髄ではなかろうか。その意味でも移民・難民は民主主義を体現していると言える。地球上あらゆる場所で、移民・難民がどう遇されるのかが、その国、地域の民主主義度を示している。
違いを尊重し、労使対等原則が担保された多民族・多文化共生社会へ
改悪入管法施行は1年先である。誰ひとりも排除させない取り組みを急ぎ始める必要がある。対案と難民保護法を提出した野党4会派の議員や市民団体との連携が求められる。難民認定を求めながら、国会審議でたびたび取り上げられた退去強制令書を発布された仮放免の子どもの在留特別許可(在特)について、子どもだけなく家族を含めた救済、さらに子どもと家族以外の「送還忌避者」のアムネスティも求めていく。齋藤法務大臣は明言したのだから。国会審議での口先の言い逃れにさせてはいけない。
入管法改悪反対!入管法改悪NO!の先には、誰ひとり取り残されることのない社会、労使対等原則が担保され、「違い」を尊重しあう多民族・多文化共生社会が見えている。その移民政策こそがこれからの社会に求められる。そこにこそ民主主義の深化の道があり、次の社会、持続可能な社会への展望が見いだせる。
資料等
このシットインに関連した声明などについては、下記を参照されたい。
移住連声明「決してあきらめない〜入管法改定案可決成立を受けて」
「Open the Gate for All」(STOP!長期収容市民ネットワークのポータルサイト)
移住連抗議声明 「人の命を危うくする入管法改悪をやめさせよう」(3月7日)
難民移住移動者委員会声明 「私たちはあきらめないーあらためて入管法改定案の廃案を求めます」
その他の活動の記録・資料等
STOP!長期収容市民ネットワークがロビイング対策チームを作り、国会議員などにロビイングを行ない、審議状況の共有や議員への質問案の送付などを実施した。
署名活動は大きく広がり(署名)、4月24日に19万44筆を、野党難民議員懇談会の仲介により法務大臣に提出した。その後も継続し、6月8日現在で、22万3242筆が集まっている。
難民認定を求める当事者や家族の声など、具体的な資料は以下で見られる。
入管法改悪反対アクション 国会前シットイン4月14日〜6月9日(全18回)
家族を引き離さないで! ―非正規滞在者の子どもとその家族を含めたすべての「送還忌避者」に対して在留特別許可を求める声明―(5月15日)
とりい・いっぺい
1953年生まれ。全統一労働組合で一貫して争議・組織化に取組み、書記長、副委員長などを歴任、現在特別執行委員。92年4月全統一労働組合外国人労働者分会結成、93年3月初めての「外国人春闘」の組織化に参加。以降、移住労働者や外国人研修生・技能実習生などの労働問題、人権問題に取り組み、97年の移住連結成に参加。2013年6月アメリカ国務省”Trafficking in Persons Report Heroes(人身売買と闘うヒーロー)”。現在、NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク(SMJ)共同代表理事、外国人技能実習生権利ネットワーク運営委員、人身売買禁止ネットワーク(JNATIP)共同代表。2019年、NHK『プロフェッショナル』で活動が紹介される。著書に『国家と移民』(集英社新書 2020年6月)
特集/内外混迷 我らが問われる
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