“市民運動ユニオニズム”の時代(上)
現代の労働研究会
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創刊号・目次

題字は
勝井三雄+中野豪雄

論 壇

“市民運動ユニオニズム”の時代(上)

コミュニティ・ユニオンなどの可能性を探る

現代の労働研究会 小畑精武


Ⅰ 労働をめぐる新たな視角

Ⅱ 非正規労働者主体の新型労組―コミュニティ・ユニオン

Ⅲ アメリカにおける労働NPO


Ⅰ 労働をめぐる新たな視角

春闘は復活したのか?「底上げ、格差をなくす」ことを目標とした2014春闘の結果は大企業を中心に久方ぶりのベースアップを獲得している。だが、連合がかかげる「すべての働く者の底上げ」は14春闘で実現するのか?

労働組合の組織率は年々下がり続け2013年度では17.7%となった。従業員規模1000人以上の民間事業所では44.9%と5割近いのに対して、100~999人で13.1%、99人以下ではわずか1.0%しかない。公務関係は38%なので、労働組合の大半は大企業と公務関係にしかないともいえよう。また非正規雇用(パート)の組織率は6.5%でしかない(厚労省2013年労働組合基礎調査)。こうした組織状況は春闘華々しき60~70年代前半でも大きくは変わらない。しかし、かつては高度成長とインフレ、人手不足が加わり、民間大企業労組による春闘賃上げ相場が、国鉄、電電公社など公労協の仲裁基準となり、中小企業や人事院勧告による公務員賃金へと続き、さらに米価、最賃、そして生活保護費にまで影響していった。しかし今はそうなる保証はどこにもない。「底上げ」といっても14春闘では大企業正規従業員中心に終わり、格差がさらに拡大していくことになるだろう。

いまや大企業の構内には、派遣、契約、パート、請負などの非正規雇用が充満している。非正規雇用は1956万人と約2000万人に近づき、1年間で7%、133万人増加。女性の非正規は1332万人(非正規率57.4%)、男性は624万人(同21.7%)。正規雇用は94万人(3%)減の3242万人となった(総務省労働力調査2014年1月)。地域公共サービスを担う自治体においても3分の1は非正規雇用の労働者だ。女性では5割を超え、男性でも2割を超えている非正規雇用労働者の賃上げ・労働条件の改善は、正規従業員の組合に任せることでは解決しない。「おこぼれ」(トリクルダウン)ではなく、様々な雇用形態をとっている非正規雇用、雇用の実体にもない個人請負などの労働者が自らの人権と権利、労働と生活を守る運動と組織をつくっていくことが必要になっている。さらに、市民が自らの生活や地域にかかわる「労働」を課題とする、次の時代の「労働-市民運動」を考えていきたい。

Ⅱ 非正規労働者主体の新型労組―コミュニティ・ユニオン

① 新型労組としての発展

すでに、拙稿「ユニオン運動の可能性を探る」(注1)において、「コミュニティ・ユニオンが提起したこと」と題し、以下の諸点をあげた。

1)「もっとも労働組合を必要としている層」の労働組合(ユニオン)
2)「地域を雇用の場・職場とする」労働者のユニオン
3)交渉機能とともに「相談、たすけあい、交流」の重視
4) 女性の活動参加の推進
5)全国ネットワークの思考と地域市民団体のネットワーク・協力
6)「インキュベータ」「触覚」「アンテナ」としてのユニオン

江戸川ユニオンを結成した1984年頃、すでに新たな雇用形態として主婦パートが拡大を続け、資格外の外国人労働者が入りはじめ、86年には労働者派遣法が施行された。今日につながる不安定雇用、低賃金の非正規雇用問題が社会的問題として注目を浴びるようになった。その後、89年の連合結成以降もコミュニティ・ユニオンは、労働相談を通じて個人でも誰でも入れる労働組合(ユニオン)として、企業別正規従業員労組ではない新型労働組合(名称もユニオンとした)として、「誰でも一人でも入れる」労組として非正規雇用労働者が主体となり、全国に広がっていった。

総評解散にともない、コミュニティ・ユニオンは1989年から毎年全国交流集会を独自に開催し、現在32県、75ユニオン、20,000人の全国ネットワークを形成している。当初地域運動には否定的であった連合も地域ユニオンを各地に結成し全県47地方連合、493単組、14,966人(2013年、連合組織局)となり、全労連はローカルユニオン結成をすすめ、43県、171ユニオン、10,817人(2013年、全労連組織局)、地域からさらに女性ユニオン、管理職ユニオン、プレカリアートユニオン、首都圏青年ユニオンなど階層に依拠するユニオンへと広がっている。実質的には中小労組の連合体(中小労連)だった合同労組にも個人加盟の比率が高まり、中小労連プラス個人加盟ユニオンの組織体へと変容しつつある。こうしてユニオン運動はまだまだ組織力としては弱いが、全国に組織され5万人を超える組織へと成長を遂げ、新型労組として労働運動の一角を占めるようになったといえよう。

② 一人一人の労働基本権を活かす

「誰でも一人でも入れるユニオン」への加入により「労働する一人の市民」は憲法で保障された団結権、団交権、スト権の行使が可能となった。ユニオン運動は世界で最も労働組合がつくりやすいと言われる日本の労働組合法を活かし、一人一人の労働者が団結権を自らのものとしてユニオンに加入し、職場で一人でも憲法で保障された団体交渉権を行使してきた。ユニオンや地域の共闘により団体交渉を進め、団体行動の実践を通じて具体的解決をはかっていった。コミュニティ・ユニオンの「使用者側との団交で紛争が解決した自主解決率」は74.5%にのぼっている。連合地域ユニオンが67.4%、全労連ローカルユニオンが48.9%なので、他のユニオンに比べて高い。解決できずに終わったものはもっとも低い(注2)

同時に、新たな労働問題に対する社会的、政策的、制度的な対応を求め、社会に政治にその問題を発信してきたと総括できよう。中小労働運動、合同労組が「企業規模」に依拠してきたのに対して、ユニオンは「雇用形態(不安定雇用、非正規雇用)」に着目し、依拠してきたのである(注3)

今後、ユニオン運動と組織が、熟練工による労働組合ではなく、不熟練工の労働組合として拡大発展した19世紀末のイギリス新型組合となるのか。あるいは、アメリカにおいて20世紀の前半に、自動車(UAW)に代表される熟練・不熟練を含む産業別労働者の労働組合が、それまでの職能的組合(AFL)を凌駕する組織へと発展した例にならうことができるのだろうか。ひとえに、パート、契約、派遣、請負・委託、嘱託、さらには「限定正社員」「名ばかり管理職」など多様で新しい雇用形態の労働者が主体となった団結体を組織し、運動を形成できるかに、21世紀の新型労組はかかっている。そのためには、従来の労働組合にこだわらない労働者組織・団体、市民運動からの労働へのアプローチが必要になってくる。

③ ユニオンの相談活動と「公益性」「代表性」

年間100万件を超える個別相談の内訳は、「いじめ・嫌がらせ(17%)、解雇(16.9%)、雇止め(4.4%)、自己都合退職(9.8%)、退職勧奨(8.5%)、労働条件切り下げ(11.2%)、出向配転(3.2%)、その他労働条件(12.4%)」とはじめていじめ・いやがらせなどハラスメントがトップになった(注4)。今日の労働環境を象徴している。

だが、「解雇」「雇止め」「自己都合退職」「退職勧奨」など「雇用」に伴う相談は約40%と最大である。問題はこうした課題に既存の企業別労組が対応できていないことにある。相談に行っても「個人問題なので、うちの組合では取り扱ってない」とケンモホロロに返されてしまうケースが多い。その分、個別労使紛争の増加に対して6年前に始まった地方裁判所での労働審判制度や国の労働局によるあっせんが機能してきた。2012年度の労働審判は3660件でその解決率は81%、労働局のあっせんは6047件、解決率は39.9%である。

そもそも相談に行く先としての労働組合は会社の上司や相談窓口に比べると下位にある。信頼されていないのだ。頼りにならないと思われているのではないか。

こうした「個人労働問題」への取組みを回避している現在の企業別従業員労組の弱さを克服していくためにも、コミュニティ・ユニオンや連合ホットラインなど労働相談の活用が不可欠となる。自主解決率は、コミュニティ・ユニオンは74.5%、連合地域ユニオン(67.4%)、全国一般(64.4%)ローカルユニオン(48.9%)との調査結果が出ている(注5)。調査をした呉学殊(労働政策研究・研修機構主任研究員)さんはこうしたコミュニティ・ユニオンの問題解決への取り組みを評価し、財政基盤の弱さを補うために「公的支援」の検討を提言している(注6)

この面でコミュニティ・ユニオンは労働相談や労働セミナーなど、地域に開かれた「公益的活動」をすすめているのである。この点、一企業の従業員をメンバーとして内側に固定している企業別従業員労組とは正反対に地域の労働者、市民に開かれている。「労働者」を「一市民」としてとらえ、相談―解決を地域で果たしていることになる。つまり、この点は非営利の労働NPOと重複し、ともに「公益性」ある組織と位置づけることが可能となる。コミュニティ・ユニオンはナショナルセンターの社会的影響力が低下するなかでも、地区労など労働組合の地域共闘や全国一般労組の地方・地域組織が推進力となって設立され、全国へ、地域、職種の周辺へと広がっていった。

これに対し、労働NPOは労働組合の社会的影響力の低下と、それに並行する労働組合への「疎遠化」(注7)により周辺(市民社会)から労働問題へのアプローチが行われていることを意味する。日本における労働NPOの運動は、各地方での取り組みがようやく始まった段階である(注8)。その数も社会的影響力もまだまだ小さい。本稿においては日本の労働NPOの活動分野については表1において概観し、図1と表2ではコミュニティ・ユニオンとワーカー・センターの比較を試みた。

さらに以下、日本に比べ圧倒的な力を有するアメリカ社会における労働NPOについて、直接インタビューの結果も含め紹介する。

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Ⅲアメリカにおける労働NPO

1、市民社会のなかの労働NPO

NPO活動では日本のはるか先を行っているアメリカにおいて、労働NPOの活動は、既存AFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)の運動とは異なる次元で活動をしている。労働者の権利確立、法律相談、職業訓練、労働者協同組合、地域経済社会の調査研究、労働運動強化など活動分野が広い。その一つに日本のコミュニティ・ユニオンに似た、草の根の「ワーカー・センター」がある。両者を比較したのが表2である。その主体は移住労働者、日雇い労働者、家事労働者等これまで主流労組からは無視され、労組法からも排除されてきた労働者であり、地域コミュニティのなかから形成されている。

19世紀のクラフトユニオンに起源をもつAFL(労働総同盟)に対し、20世紀に入り自動車に代表される不熟練労働者(チャプリンの映画に登場)を含む新しい産業別労組(CIO)が結成された。両者は1955年に合併しAFL-CIOは一時35%の組織率をほこった。だが、海外への製造業の移転、自動車産業の衰退、サービス産業化、外国からの移住労働者の急増に対応できず、日本と同じように年々組織率を低下させていった。1995年AFL-CIOは組織拡大をめぐる会長選となり、当時SEIU(国際サービス従業員労組)会長のスィーニーは「労働運動は社会の片隅に追いやられた」と組織拡大・強化を訴え、主流派のカークランドを破った。オルガナイザーの養成はじめ組織化へ予算の30%を投入し、一時組織率は上向いたが継続しなかった。

こうしたなか、労働者の新たな組織と運動が草の根から起こってくる。社会運動ユニオニズムが展開される。その一つが137か所(2005年)に展開されているワーカー・センターである。アメリカの「強み」は既存の労働組合は力を落としていくが、新たな労働者組織が市民社会の中から形成されていることだ。労働者が主体となっている組織だけではない。私が名づける「市民運動ユニオニズム」がリビング・ウェィジ条例運動にみられるように市民自らが立ち上げ、労組とも協力し、地域の労働問題に取り組んでいる。地域の低賃金問題は、同時に「地域の貧困問題」でもあるからだ。

2、コミュニティ組織―ワーカーセンターとその拡大

①海外への資本・企業進出と引き換えに、アメリカへの移住労働者が80年代に1000万人を超え、資格外労働者だけでも350万人を超えていた。移住労働者のコミュニティが大都市に形成される。言葉(英語)は不十分、だがきつい肉体的仕事に従事していた。

NDLON(全国日雇い労働者ネットワーク)のオルグの話を聞いた。

「1980年代の日雇い労働者はほとんどメキシコ人でした。その後南アメリカ、サルバドール、ニカラグア、ガテマラなどで内戦が起こって、そこから移民が大量に北アメリカに渡ってくるようになりました。民間の工事においては日雇い労働者の人の組織率は昔も今もほとんどゼロに近いです。日雇い労働者が多くなるのにしたがって虐待も多くなっています。まず、嫌がらせ、けがの手当てが支払われなかったり、賃金未払いの問題。また道端で雇われるのをどこかの店の前で待っているときに、そこの店の人が警察に通報して店の前からどいてくれというような仕打ちを受けるといったこともあります。

日雇い労働者に関して3つの議論の柱があって、労働、コミュニティ、移住問題です。誰かが日雇い労働者を守る必要がありました。それができたのが地域の組織でした。新しい組織のうちの一つ、ワーカー・センターがいろいろな所にできました。ワーカー・センターが中心となって賃金の未払い、けが、警察との軋轢、雇用主の問題などに取り組んでいこうということになり、労働運動が盛んになりました。

1980年代に日雇い労働者が道端で雇われるのを待っている現状に耐えかねてデイレイバー・センターというものを作りました。労働者も安全ですし、雇用主もこのセンターに来ている労働者を迎えにくることもでき、またスキルを学んだり、英語を学んだりすることもこのセンターで可能になり、いろんな所にできていきました。2000年には20(現在は40)のデイレイバー・センターが全国にできました。」(2008年3月、ロサンジェルス)

訪問先はUCLA(カリフォルニア大学)のレイバーセンター、説明はロサンジェルス港内で貨物を運搬する運転手。(写真)偶然だが、この時彼は「個人事業主とされていた港湾貨物の運転手に雇用関係が認められた」とのニュースを持って飛び込んできた。「労働者性」の否認はDWU(家事労働者連合)、NYTXA(ニューヨークタクシー労働者連合)にも共通している。

②「ワーカー・センター」について、研究者のJanice Fineはそれぞれのセンターで違いがあるが、以下の特徴をあげている(注9)

1) サービスの提供・・「未払い賃金回収への法的代理人の提供」「英語教室」「労働者の権利教育」「健康診断の利用」「銀行口座の開設とローン」

2)アドボカシー ・・「低賃金産業の調査と公表」「法律の改正と制定へのロビー 活動」「モニタリングと不満の改善へ政府機関との協働」「雇用主を訴える訴訟」

3)組織化・・「継続的組織化」「労働者が経済的政治的変革のために自ら行動を起こしていくためのリーダーシップの開発」

共通点としては以下があげられる(注10)

1) 職場単位ではなく地域単位で活動。労働組合と異なり、職場での多数派を形成しない

2) 職業別や産業別ではなく、民族・人種別に組織地、民族間の差別に主な関心がある

3) リーダーの育成と民主的な意思決定を重視し、労働者参加を促す

4) ワークショップや講座、訓練などの教育を重視し、批判的な思考を養う

5) 外国の労働者との連帯意識を持ち、特に移住労働者の出身国との交流を中心に行う

6) 労働問題を中心的な課題とするが、移民の抱える様々な生活問題にも対応する

7) 労働者が会員になる際には講習を受けて会員資格を満たすといった方法をとる


(注1)小畑精武「ユニオン運動の可能性を探る」(「現代の理論」20号2009)

(注2)呉学殊「労使関係のフロンティアー労働組合の羅針盤」(労働政策研究・研修機 構、2011)

(注3)「中小労組を中心とした『合同労組』は中小企業における正規従業員の組織化と集団的 労使関係づくりに役割を果たしてきた。しかし、中小の場合も大勢は企業別組合原則 の“中小労連型”に落ち着き、したがって大企業構内下請け工には手が出ず、臨時労働 者から内職・パートにおよぶ二重構造底辺部門全体への社会的代表力・交渉力の拡充と いう方向へはたどらなかった。」(清水慎三「戦後労働組合運動史論」編著、日本評論社、 1982)

(注4)厚生労働省「平成24年度個別労働紛争解決制度施行状況」

(注5)呉学殊「労使関係のフロンティアー労働組合の羅針盤」(労働政策研究・研修機 構、2011)

(注6)「使用者側の労働法の違反や無知によって引き起こされた不利益扱いを求めて駆け込む 労働者のために、使用者側との交渉によって、紛争を解決している。行政が解決できな いことまで解決する例も少なくない。解決の過程で、使用者側に判例法理を含む労働法 の学習を提供している。労働法の周知・遵守の徹底化は行政の役割といえるが、合同労 組がその肩代わりをしている。そして不特定多数の労働者からの労働相談に応じており、 労働行政の問題点や労働問題の情報も提供している。このような役割をはたしている合 同労組(ユニオン;筆者)に対し積極的な公的支援を検討すべきではないか。」呉学殊 「労使関係のフロンティアー労働組合の羅針盤」(労働政策研究・研修機構、2011)

(注7)小関隆志「労働NPOの特質―個人加盟ユニオンとの対比・関連において-」(遠藤公 嗣編著「個人加盟ユニオンと労働NPO‐排除された労働者の権利擁護‐」所収、ミネ ルヴァ書房、2012)

(注8)同上

(注9)Janice Fine「Worker Centers」(Cornell University Press,2006)

(注10)小関隆志(「労働NPOの特質-個人加盟ユニオンとの対比・関連において」(「個人加 盟ユニオンと労働NPO」遠藤公嗣編著所収、ミネルヴァ書房、2012)

(以下 次号)

おばた・よしたけ

1945年生まれ。69年江戸川地区労オルグ、84年江戸川ユニオン結成、同書記長。90年コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク初代事務局長。92年自治労本部オルグ、公共サービス民間労組協議会事務局長。現代の理論編集委員。「コミュニティ・ユニオン宣言」(共著、第一書林)「社会運動ユニオニズム」(共著、緑風出版)「公契約条例入門」(旬報社)「アメリカの労働社会を読む事典」(共著、明石書房)