創刊号・目次

題字は
勝井三雄+中野豪雄

季刊『現代の理論』

復刊のことば

現代の理論編集委員会  



トータルセオリーの時代は終わったと言われて久しい。ソ連が崩壊し、冷戦が終結するに伴って、社会主義が急速に影響力を低下させ、社会主義のイデオロギー的基礎をなしていたマルクス主義も終焉を宣告されたかに見えたことがそのきっかけであった。トータルセオリーの代表的思想であったマルクス主義が完全にその有効性を失ったかどうかは、まだ検証されたとは言えない事はともかくとして、これ以後、トータルセオリーへの不信感が増大したことは間違いない。

言うまでもなく、マルクス主義が形成された十九世紀に比べて、現代世界は、はるかに複雑化し、多様化し、一つのトータルな理論体系によってその全てを分析し、あるべき未来像を提起する事は極めて困難になった。理論と称するものも、一定の前提条件の下での作業仮説に過ぎず、個別の現象を解析するには有効であっても、それをただ剥ぎ合わせても世界の全体像が現れてくるわけではない。知性は狭い専門化された領域に閉じこもり、世界像はバラバラに断片化され、未来は闇の中を漂っているようにしか見えない。

部分に意味を与える全体像が見えにくくなっている時、根拠のない幻想が背後から忍び寄ってくる。国家や民族という既成の、それも十九世紀的な古臭い観念にすがったり、カルト的宗教の世界観にとりつかれる者が増殖し、社会には憎悪と対立が蔓延する。特に政治の世界では、当面の支持を獲得するために、長期的な展望を欠いた一貫性のない思いつきの政策が横行し、将来に禍根を残す事態が深刻化の度を増している。

この時に当たって必要なのは、複雑な現実を一刀両断する教条としてのトータルセオリーではない。複雑に絡まりあった現実を粘り強く解きほぐし、問題を結び合わせ、連結させる冷静な知性の働きである。『現代の理論』は、断片的な思いつきではなく、現実がどれほど複雑化し多様化していようとも一貫性を求め続ける強い知性の復権を求める。

われわれ編集委員会は、第三次『現代の理論』の終刊から二年、ネット雑誌という新しい形態をもって復刊することを決意した。ネット雑誌という「新しい革袋」に、知性が醸し出す「新しい酒」をどれほど注ぎ込むことができるか、この挑戦に取り組むわれわれの決意を表明すると同時に、大方の支持をお願いしたい。