論壇

ドイツの人口はなぜ増える

労働人口確保――すでに移民国であり多文化社会だ

在ベルリン 福澤 啓臣

日本の2022年の出生数が79万9728人で、80万人の大台を切ったとの厚生労働省の2月28日発表を読み、ドイツと同じレベルではないかと思い調べてみた。すると、ドイツでも2021年に79万5517人出生していることが分かった。日本の人口は、2021年現在1億2570人で、ドイツの8377万人に比べて35%も人口が多いのだが。合計特殊出生率(15歳〜49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)を調べてみると、ドイツは日本同様、長い間1.3前後で低迷していたのが、2016年に急に1.59に上昇している。2020年現在1.54人で、日本は1.34人である。

人口数の推移を見てみると、日本は2004年がピークで1億2784万人を数え、その後減り続けている。ところが、ドイツは、ここ数十年死亡者数が出生者数を上回る状態が続いているが、驚くなかれ増えているのだ。例えば、2004年には8146万人だったのが、22年には8329万人に増えている。

さらに将来の人口動態予想を見ると、日本は、2030年には1億1522万人に減り、2040年ごろには1億人を切り、2100年には明治時代後半と同じ4771万人まで減少する。

それに対してドイツは、2030年には8500万人とピークになるが、その後はゆっくりと減り、2100年には6600万人となるだろうと予想されている。つまり、ドイツの人口の方が多くなる。ドイツと日本の人口は2060年と2070年の間に約8500万人と同じレベルに達すると予想される。

人口が増えるには、出生率は2.06以上が必要と言われている。現在のような出生率の上昇だけでは、ドイツの人口増は考えられない。一つの答えは外から人が入ってくることだろう。ドイツでは2014年から2019年の間に難民流入で、人口が240万人増えている。ドイツの戦後における移民・難民の動きを追ってみる。

1. 移民によって増えるドイツの人口

ドイツ(旧西ドイツ)は50年代から60年代に成長率10%と「奇跡の経済成長」を遂げた。その際に50年代半ばから労働力不足に陥ったが、外国から労働力を招き入れて、高い成長率を維持した。1955年にドイツは、まずイタリア(400万人)から、さらにギリシャ(100万人)、スペイン(60万人)から、続いて1961年にはトルコ(90万人)など20カ国からいわゆる「ガストアルバイター(お客さん労働者)」を招いた。合計1400万人という驚くべき数の外国人労働者がドイツに流入し、労働に従事した。表面的な見方だが、1500年前の「ゲルマン民族の大移動」の逆の動きで、たくさんの民族グループがゲルマン国(旧西ドイツ)へ大移動して来たとも言える。

60年代後半に景気が後退すると、外国人労働者の流入が制限され、石油危機の1973年には完全にストップした。彼らは名称通り、「お客さん労働者」なので、お客はいつか帰るだろうとして、ドイツ側は長期滞在の受け入れ対策はしなかった。ガストアルバイター側も初めはお金を貯めて、数年後には帰国するつもりだった。結局1100万人が帰国した。単純に計算すると、300万人が残ったことになる。それと家族の呼び寄せが許されていたので、例えば、トルコ人は90万人のお客さん労働者に家族が加わって、現在267万人と最も大きい国別集団を形成している。

今から振り返ってみると、まだEUの単一市場もなく、人の移動も簡単でない時代に、よくもこのような膨大な数の労働者を招いたものだ、と感嘆する。

東西冷戦終了後の亡命者及び難民は、現在までに560万人になる。ソ連邦崩壊後の1993年は44万人と多かった。その後急速に減り始め、2008年は2万8千人に減った。それが2015年と16年には、アフガニスタン紛争とシリア内戦で爆発的に増え、それぞれ47万人と74万人、合わせて121万人が入国してきた。

ドイツ連邦統計局の発表によると、2021年現在ドイツの人口は8324万人で、その内27.2%(2230万人)が外国人または移民系だ。この内53%(1180万人)がドイツ国籍を持っている。残りの47%(1050万人)が外国籍である。出生率を見ると、生来のドイツ人は1.52だが、これら移民系の人々は2.26と高い。

外国人・移民系の62%(1390万人)が、ヨーロッパの国々から来ている。次の大きなグループは中近東を含むアジアからで23%(510万人)、次はアフリカから5%(110万人)、残りの3%(70万人)がアメリカ大陸、オーストラリアからである。

国別に見てみると、トルコからが最も多く12%(267万人)、次にポーランド10%(223万人)、ロシア6%(134万人)、カザフスタン6%(134万人)、シリア5%(111万人)と続く。

付け加えると、これらの数字はウクライナ侵略戦争が始まる前の数字なので、実際はこれらにウクライナからの難民110万人ほどが加わる。すると、単純に計算しても、2340万人、28%になる。ドイツはすでに移民国であり、多文化社会なのだ。

ここ数年のドイツの繁栄は、EU内における労働力の移動—特に東欧圏から—と、ロシアからの安定した比較的安い石油とガスの輸入に支えられてきた。ドイツがこれからも経済成長を達成するには、エネルギーの安定供給はもちろんだが、労働力確保が懸案事項になっている。ところが、EU内における労働力の移動は一段落し、これからは東欧圏からの移入は余り期待できない。だから、EU外からの移民に期待する声が聞こえ、政府もその方向で検討している。

現在ドイツでは190万人の労働力が不足していると言われている。ボストン・コンサルティングの計算によれば、そのためにドイツでは毎年12兆円の損失が生じている。将来を見れば、毎年30万人から40万人の労働力の流入があっても、少子化高齢化の傾向が続くので、2035年には300万人、2050年には、900万人の労働力が不足すると予想されている。

連邦雇用庁長官のシェーレ氏によれば、「ドイツは毎年40万人の移民が必要である。労働市場で欠けている人員を埋めるために計画的な移民が必要である。介護から、気候関係技術者、物流部門、学者まで、とにかく専門職人材が不足している」。これからも積極的に移民を招くつもりなのだ。コロナ禍によってこの2年間は外国からの労働力の流入は2万人台と極端に減ってしまったからである。

優秀な労働者に来てもらうには、それなりに魅力がなくてはならない。高等教育を受けた高度技術労働者にとってOECDの中で最も魅力がある国は、オーストラリア、さらにスウェーデン、スイス、ニュージーランド、カナダ、米国と続き、ドイツは12番目である。これでは余り期待できない。ちなみに日本は25番目に位置している。

だが、その前にドイツには難民の人たちが多数滞在しているので彼らにまずチャンスを与えるべきでないか。そうすれば人道的見地から見ても一石二鳥ではない.か。 詳しく見てみよう。

2.亡命者と難民

UNCHR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、内戦、旱魃、イスラム教のテロ、部族間の争いなどのために生まれ故郷を離れざるを得なかった難民の数は、現在世界中で1億300万人とほぼ日本の人口に匹敵する。故郷を離れたが、その国に残っている難民は5300万人以上、国外に難を逃れた難民は3250万人、亡命申請者は490万人、保護を求めている人々は、530万人になる。

2022年現在難民及び亡命者をたくさん受け入れている国と難民の数は、以下のようになる。

  トルコ367万人
  ドイツ224万人
  ウガンダ149万人
  パキスタン142万人
  米国119万人

ドイツはトルコに次いで多い。EU内ではフランスがドイツに次いで多く、50万人である。ちなみに日本は3万586人に過ぎない。紛争地や旱魃地域から遠いという理由だけではなさそうだ。

ドイツに向かう難民は、まずEU域内に入ろうとする。トルコからギリシャに渡る難民とそのルートについては、本誌19号で詳しく述べたので、ここでは割愛する。ただ、最近はギリシャに渡るよりもアドリア海をボートで突破して、イタリアに渡ろうとする難民が出てきた。ギリシャには難民収容所があり、そこはすでに難民で溢れているからである。

アフリカからの難民は、主に経済的困難から逃れようとする難民だ。彼らには天国にも見えるEU域内に辿り着こうとする。難民を送り出すアフリカの人々は、まず家族や親戚が集まって、健康で機転のきく若者を選び、お金を持ち合って、100万円近い額を難民運び屋に払い、送り出す。EU内に入り、職が見つかれば、国に送金することになっている。そして、家族を呼び寄せる。

そのために命の危険を冒して、サハラ砂漠や地中海を越えようとするのだ。最後の難関である地中海では、運び屋は、リビアの海岸から、浮かんでいるのがやっとという古いボートにポンコツエンジンを付け、収容人員目一杯の難民を乗せ、海に送り出す。これらのボートは、うまくEU域内の海岸に辿り着けば、壊されてしまうのだから、頑丈で性能のいいボートを投入する運び屋はいない。その上彼ら自身はボートに乗らず、難民に船を操らせるのだ。

2011年にガダフィが殺されて以来リビアでは、現在でも内戦が続き、これらの不法状態を取り締まる政府はない。だから、人買い、難民の運び屋が横行しているのだ。

現在UNCHRに登録されているリビアの難民数は、4万人ほどだが、そのほかに80万人もが何らかの形で滞在している。そしてなんとしてでもEUの海岸に辿り着こうとしている。2021年には 3万人近い難民が地中海を渡ろうとした。多くはリビアの沿岸警備隊の船に見つかり、拿捕されて、収容所に送り返されてしまう。運が悪い場合は、溺れ死んでしまう。2014年から2023年までに2万6141名が命を落としている。これでは地中海はまさに死の海だ。

数々のNGOがリビアとイタリアの間の海上で難民の救助活動を行なっている。自前の船もあるし、チャーターした船もある。特に有名なNGOは、ベルリンに籍があるSea Watchだ。これらの船は、海上で難民を掬い上げても、EUの港に入るには、その国の許可を得なければいけない。許可が下りるのを待つ間に、難民の健康状態が悪化したりして、許可なしで入港すると、逮捕されてしまう。

例えば、Sea Watchのカローラ・ラケーテ氏(28歳から船長で活躍しているドイツ人の女性 )は、2019年6月に許可を待てないでイタリアのランペドゥーザ港に入港したが、船長(当時31歳)として、内務大臣サルヴィーニの指令で逮捕された。結局裁判で彼女は無罪になった。彼らは多くの場合寄付で救助活動を賄っている。EU域内に辿り着いた難民の多くは、認定のチャンスが高いとされるドイツを目指す。

3.ドイツにおける亡命者と難民

現在のドイツに目を向けると、2019年には難民が114万6682人、亡命申請者が30万9230人、合わせて145万5912人が登録されている。これは昨年2月24日のロシアによるウクライナ侵略戦争が始まる前の数である。戦争の難を逃れて、ドイツに入国してきたウクライナ人の数は、今年3月の時点で114万人となっているから、両方合わせると、難民及び亡命申請者は約260万人となっている。310万人という数字もある。ウクライナからの難民は全く登録されずにEU内を自由に移動できるし、プライベートでも滞在できるので、確かな数は把握できない。このようにウクライナからの難民とそれ以外の国々からの難民では、受け入れ条件が全く違うので、ここでも別々に扱う。

政治的な迫害にさらされた人物は、亡命者として認められてドイツでは滞在許可が得られる。法的根拠は1951年ジュネーブで署名された「難民の地位に関する条約」によるか、ドイツの基本法16a条による。それによれば、人種、宗教、国籍、特定の社会的グループ、政治的な意見などの理由で迫害された人は、亡命あるいは難民として保護が受けられるのだ。

(1)ウクライナ以外の国からの難民

2022年12月31日現在、160万人以上が保護をうけて滞在している。保護の内訳を見てみよう。ちょっと複雑だが、滞在理由は厳密に区別されている。

1.4万4507人が基本法によって亡命を認められている。
2.76万3387人がジュネーブ難民規定によって滞在している。
3.28万6375人が暫定的保護をうけている。
4.15万7398人が強制帰国実施不可能なので滞在している。
5.27万5000人が様々な理由で保護をうけ、滞在している。
6.11万7000人が家族呼び寄せ権利によってビザを得て、入国している。

亡命者あるいは難民として認定されると、彼らには妻あるいは夫、18歳未満の子供を呼び寄せる権利がある。

問題なのは、 テロリストの疑いがあり、危険人物として分類されている人たちだ。その数は500人ぐらいとされているが、疑いだけでは拘束できないし、パスポートも持たないで入国してきた場合、出身国さえも特定できないから、送り返せない。法治国家の辛いところだ。

彼らは認定されるまで、とりあえず難民センターや集合宿舎に受け入れられる。そこに住んでいる限りは、ベッド、食事、衣料、医療などの必需品が提供される。さらに小遣いとして2万円が渡される。もし彼らが公共のために奉仕した場合は、3万円弱まで謝礼を受け取ることができる。

このところ、いかに難民の扱いが大きな問題になっているかを示す報道が続いている。一つ紹介しよう。北ドイツにあるウパール村には500人の住民が住んでいる。最近その郊外に難民のために600名収容のコンテナー建造物が建てられることになった。住民の数を超える難民センターができるのだ。それに対して、住民が反対し始めたのだ。 そこに収容される難民はシリア人、アフガニスタン人が多い。ということは、若い男性が多い。この自治体の近くには、店もないし、遊ぶところもない。ドイツ語もできないので、パートでも働けない。だから、彼らは一日中何もしないで、時間を持て余して集落の周りをうろつくことになるだろうと村の住民たちは心配し、反対に立ち上がったのだ。反対デモをすると、右翼党AfD党の支持者やネオナチも集まって来る。この抗議の後、収容難民の数は400人に減らされたが、収容所は建てられる見通しだ。

これほど極端ではないかもしれないが、現在ドイツで多くの自治体の長が、住民と州政府との間に挟まって悲鳴をあげている。まず難民を受け入れる建物がほとんどない自治体が多い。2015/16年に大量の難民が押し寄せた時は、メルケル首相の「私たちにはできる」の呼びかけに応えて、緊急人道救助だと理解し、多くの自治体では学校や体育館に収容し、さらに数多くの市民が積極的に受け入れた。だが、このところ 学校の生徒たちは、コロナ禍で長期間休んでいた学校に復帰し、体育館や教室を使っているので、対応できる自治体は少ない。

仕方なく自治体は、難民センターとしてコンテナーを組み立てることになる。そこでは二段ベッドを組み立てて、間をカーテンや段ボールで仕切る。プライバシーも何もない環境での滞在になる。正式認定されると、ジョブセンターに登録し、仕事を探せる。

(2)ウクライナからの難民(2023年3月現在)

ウクライナからの難民は、昨年3月14日に制定されたEUの「大量流入基本方針」が適用される。それによって、彼らは自動的に保護を受ける。つまり、通常の難民に義務化されている申請、認定などの手続きなしで、1年間の滞在許可が下りて、さらに半年間2度延長することができる。

UNHCRの発表によるとロシア軍のウクライナ侵略以来、817万3211人がヨーロッパに難民として出国した。その内EU内には下記の通りである。

  ポーランド157万7289人人口3800万人
  ドイツ105万8218人8400万人
  チェコ50万3698人1051万人
  イタリア17万3213人5911万人
  スペイン17万1865人4742万人
  フランス11万8994人6775万人

ポーランドは人口比にしてドイツの3倍以上ものウクライナ難民を受け入れている。ウクライナに直接国境を接している上に、侵攻前から、ウクライナからは出稼ぎ労働者としてたくさん働いていた。言葉も通じやすいなどの利点がある。加えてポーランドの国民は、ソ連時代の抑圧された記憶がまだ残っていて、ロシアに対する怒り、恐怖心がある。二度とソ連時代のような状況には陥りたくないのだ。そのためにポーランドは武器供与にも積極的で、つい最近も真っ先に戦闘機の供与を決めたばかりだ。

ウクライナからの難民がドイツに多いのは、ドイツの基本的な受け入れ条件が他のEUメンバーよりいいからだ、と言われている。

ドイツはこのような負担状況を緩和するために、EUメンバーがそれぞれ適切な数の難民を受け入れるように2015/16年以来要請しているが、受け入れを頑なに拒むメンバーがいて、実現しない。全会一致原則がある限り、事態は進展しない。

2023年4月3日までにウクライナからの難民は106万119人が連邦外国人登録事務所に登録されている。

成人の68%が女性で、31%が男性である。18歳から60歳までの男性は動員されているので、本来は出国できないが、例外として三人以上の子供を育てている場合、父親一人で子供の面倒を見ている場合は出国できる。

難民の平均年齢は28歳で、77%がパートナーなしで入国している。48%が子供連れ。35万人が18歳以下で、その内38%(13万8000人)が6歳から11歳の小学校生徒である。彼らは義務教育の年齢なので、自治体は教室も教師も提供しなければいけない。

成人の4分の3は大卒と高学歴である。なお76%が職業に就いていた。だが、ドイツでは資格認定が厳しく、医者なども働けなくて、問題になっている。

27%が長期的にドイツに滞在したいと希望している。34%は侵略戦争終了後に帰国したいと表明している。2%が一年以内に帰国するつもりだ。残りは不明。現在の戦闘状況では、将来を決められないのは当然だ。

ウクライナからの難民は、EU市民とほぼ同じ扱いで、就労が許可される。教育も制限なく受けられる。必要な社会保障が得られるし、住まいも保証される。プライベートな住まいの場合は部分的な援助が受けられる。教育から就労、あるいは逆への切り替えが可能だ。社会保障は、市民給付金あるいは生活保護、さらに子供給付金も受けられる。2022年には約17万人が子供給付金を受けた。学生には、生活用に育英資金が給付される。このように彼らは通常の難民及び亡命申請者に比べて、より優遇されている。

難民の振り分け率は、州の財政状況と人口により定まっている指数がある。最も多いのがNRW州で21%(22万4000人)、次にバイエルン州の15%(15万2000人)で、最も少ないのが、ブレーメン州の1%弱(1万人)である。だが、プライベートの住居で滞在する場合は、自由に滞在先を選べる。州ごとの受け入れ数が決まっているが、大都市ほどその限界に近づいている。

彼らの4分の3がプライベートな住居に住んでいる。17%がホテルかペンションで、9%が共同宿舎に住んでいる。

ドイツは多くの地域で住宅難なので、彼らが自分たちのアパートを見つけるのは至難の業だ。だから、 居候的な同居が多い。だが、それも戦争が長引いているので、人道的かつ隣人愛的な気持ちで引き受けた同居生活もますます困難になっている。

250万人もの保護を必要とする人々を抱えて、養うには、相当な出費が強いられるのは当然だ。第一カテゴリーの人々の保護にドイツは、昨年だけでEUを通じての難民原因解消なども含めると3兆円、ウクライナからの難民には3000億円が支出されている。それでは足りないと、具体的な受け入れ作業をしている自治体、州政府が、連邦政府に助けを求め、これまでに話し合いを2度持ったが、妥協点が見出せないでいる。次の協議会は5月に予定されている。

本来人道的な見地から大規模に難民と亡命者―通算すると1000万人―を受け入れているドイツだが、結果として人口を増やす結果になっている。そして経済的な利益を得ていると言ってもいい。その反面移民系の国民に対するネオナチによるテロなども含めて社会的軋轢を背負い込んでいる。つい数年前までは、CDU /CSUは難民受け入れには強く反対していた。緑の党やSPDは、ドイツは移民社会で、多文化社会だとして難民受け入れを支持し、激しい議論を交わしてきた。最近はCDU /CSUも労働力確保の観点から受け入れるようになって来ている。経済界が受け入れに回ったことも、保守党を動かしたとも言える。

ショルツ信号内閣は、昨年10月に暫定的保護を受けている難民にたやすく滞在許可を与える法案を議会で通した。これによって13万6000人が恩恵を受けられることになった。

4.労働力移入による経済成長か、「縮みグリーン経済」か

ある国の人口数がその国の経済力の決め手になるとは言えないが、人口の減っていく国が、経済成長を続けるのは難しいだろう。公的年金制度の確保さえ危うくなる。もちろん人口減少による経済成長のなさを逆手にとって、「 縮みグリーン経済」へ転換し、地球温暖化を防ぐための炭素中立化を目指すことも可能だ。ただ、そこまで国民が納得するかは大きな疑問だ。社会の炭素中立化の達成に向けて、国民の間に相当のコンセンサスがあると言われているドイツでも、議会政党では左翼党以外そこまで踏み込んでいない。緑の党もグリーン経済への転換を目指しているが、ドイツ社会の繁栄には、経済成長が必要だと言っている。そのためには、亡命者や難民を積極的に受け入れるべきだと主張している。果たして人道と経済の一石二鳥が達成できるのか?

最後に今日の4月15日をもってドイツの最後の3基の原発が停止され、脱原発が実現したことを記したい。

(2023年4月23日 ベルリンにて)

 

ふくざわ・ひろおみ

1943年生まれ。1967年に渡独し、1974年にベルリン自由大学卒。1976年より同大学の日本学科で教職に就く。主に日本語を教える。教鞭をとる傍ら、ベルリン国際映画祭を手伝う。さらに国際連詩を日独両国で催す。2003年に同大学にて博士号取得。2008年に定年退職。2011年の東日本大震災後、ベルリンでNPO「絆・ベルリン」を立ち上げ、東北で復興支援活動をする。ベルリンのSayonara Nukes Berlin のメンバー。日独両国で反原発と再生エネ普及に取り組んでいる。ベルリン在住。

論壇

第34号 記事一覧

ページの
トップへ