編集委員会から
編集後記(第21号・2019年秋号)
―――勝井三雄さんが逝去 グラフィックデザイン界の第一人者、本誌の題字・表紙も担当いただく
◆日本のグラフィックデザインの領域で第一人者であったデザイナーの勝井三雄さんが8月12日に膵がんのため逝去された。享年87歳。11月1日に南青山葬儀場でお別れの献花会が開かれた。勝井さんは第2次『現代の理論』が復刊された(1964年)二年後の66年から75年の10年間(一年を除き)、題字・表紙・目次を担当され『現代の理論』が論壇誌としての地歩を築く上で大きな寄与をされた。第3次ともいうべき現在の季刊『現代の理論』では2004年の発刊準備号から12年の30号(終刊)まで毎号ご指導をいただいた。また2014年5月からのウエッブ『現代の理論』(デジタル)でも題字を使用させて頂いている。
勝井三雄先生の生前の温かいご指導に深く感謝申し上げ、編集委員会一同心よりご冥福をお祈り致します。勝井先生ありがとうございました。
◆勝井さんは、1931年東京日本橋生まれ。55年東京教育大学教育学部芸術学科卒、同専攻科修了。味の素広告部制作室に入社。61年フリーとなり勝井デザイン事務所設立。64年の東京五輪でデザインマニュアルの制作に参加した。70年の大阪万博、国立民族学博物館の開設に携わる。また75年沖縄海洋博にアートデレクターとして関与、大壁画制作、86年大阪花博のシンボルマークに採用される。「現代世界百科事典」のレイアウトでブックデザイン賞受賞をはじめ、内外で数々の賞を受賞。87年武蔵野美術大学教授、名誉教授。09~12年日本グラフィックデザイナー協会会長。15~16年東京オリンピック・パラリンピック2020エンブレムの選考に関わる。
◆勝井さんと現代の理論のお付き合いは、勝井さんの弟さんが東大時代の友人を通じ、その紹介で現代の理論の中心であった安東仁兵衛さんが知り合い、復刊3年目の1966年から題字・表紙・目次をお願いすることになったと聞いている。勝井さんが味の素を退社され若手のデザイナーとして独立された数年後の頃。その安東さんも98年に故人となった。編集子の勝井さんとの最初の懐かしい思い出は、大学4回生の68年秋、現代の理論編集部に呼ばれ京都より上京一時期在籍。その暮れから毎月、四谷のアパートの一室・勝井事務所に表紙・目次の原図をいただきに通ったこと。75年末まで勝井さんが題字・表紙・目次を担当いただいたようだ。その斬新なデザインは大いに注目を集めた。89年に安東さんらの『現代の理論』(第2次)が終刊。
それから10年余を経て、第2次の中心であった沖浦和光さん(桃山学院大)から「君等もエエ歳や、現代の理論でも復刊せよ」の発破があり、全共闘世代が「やれるものならやろうか」と相談。2004年から季刊で発刊、現在のデジタル発行に至る。発刊にあたり、勝井さん作成の旧現代の理論の「題字」を使わせて頂こうと勝井事務所に参上。勝井先生曰く「あれはもう古いね。新しくやりましょうと」快諾いただく。デザイン料ならざる薄謝で・・。以降30号の紙版の終刊(2012年)まで、題字、毎号の表示デザイン、さらに目次、本文のレイアウトまで指導いただいた。勝井先生と事務所に所属された若手の中野豪雄さん(現中野デザイン事務所主宰、武蔵野美術大学准教授)に改めて感謝の気持ちで一杯。デザインの領域には全くの門外漢の編集子ながら、“デザインの芸術性とはこういうものか”と何か賢くなった気持ちになった。この本文レイアウトの指導で、行が替わった行の字送りで一字飛び出し― る。―これはダメ、止めましょうと指導いただいた。第3次の『現代の理論』にはこれはありません。雑誌の質を現す一つでしょう。表紙やレイアウトで、多くの読者から、「現代の理論の表紙はすごいね、きれいね」と大きな評価いただいた。ささやかながら論壇誌の役割を担えているのは、勝井先生、中野さんのお力が大きいと改めて深謝(しかしネットの画面はガタガタ。何でもあり。活字や印刷文化の退廃現象か)。
◆人の心に潜む、”劣情を煽り組織する“のは、時の権力者の統治の常套手段である。まさにアベ晋三が行っている醜悪な徴用工問題に端を発する韓国叩きはその典型。よこしまな7月実施の参院議員選挙が目当は明らかであった。自らの思想(そんな立派な男でないが)である反中国は相手が強大でままならず、経済界からの支持もない。2年まえの”大義なき衆院解散“を批判されながらも北朝鮮危機を煽り、解散強行・延命に成功した北朝鮮敵視政策(選挙の勝利は、「北朝鮮のお陰」と麻生太郎がホンネ)も、北方領土交渉もプーチンに翻弄され、拉致問題の解決も糸口さえ掴めず、”外交の安倍“など誰も信用しなくなっている。かつトランプの忠実なポチ(安倍)にとって、大統領選目当てで北への接近をはかるトランプに気を使い、信条である劣情を煽る北朝鮮批判もままならない。残るは韓国叩きに注力で”アホなメディアとアホな国民のお陰“で成果ありと思っているのであろう。この男はトランプと相似形、自分ファーストの典型だ。しかし新内閣発足一月半で2人の大臣が辞任、最側近のネトウヨ大臣萩生田も完全に馬脚を現している。その他もドミノになるかもと・・。いよいよ賞味期限も切れ末期か、はたまたその悪運の強さで延命するかの岐路である。
◆本号の特集テーマは「混迷の時代が問うもの」です。もう本誌に掲載の全ての論考がそれを問うています。本当にエライ時代、諸領域の劣化などで言い表せない。世も末、末期を思わせる。歴史は戻るのか、繰り返すのか、と思わざるを得ない昨今。経済分析をベースに総論を展開できる貴重な論客・金子勝さんに思いの丈を巻頭で論じていただいた。日本はどこへ行くのか。その思考のベースに、“西欧デモクラシーの命運”分析が必要と、本誌住沢さんの好評の鼎談の第2弾。本誌橘川さんは「自国第一主義はナショナリズムか―今は権力亡者達が国家を食いつぶす時代になった」と核心を問う。前号発信後(8月15日)の9月21日に、緊急の追加発信を願った申惠丰さんの論考は多くの読者が注目されました。今号でも、日韓緊迫の本質は何か、何を考えなくていけないのか論じています。その他、多彩な論陣です。(矢代俊三)
季刊『現代の理論』[vol.21]2019秋号
(デジタル21号―通刊51号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)
2019年11月5日(火)発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会
〒171-0021 東京都豊島区西池袋5-24-12 西池袋ローヤルコーポ602
URL http://gendainoriron.jp/
e-mail gendainoriron@yahoo.co.jo
郵便振替口座番号/00120-3-743529 現代の理論編集委員会