コラム/沖縄発

米軍機事故 地位協定の不平等認めぬ政府

沖縄大使が県議会の要請に「捜査に支障なし」

沖縄タイムス記者 知念 清張

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)所属MV22オスプレイが2016年12月、辺野古に近い名護市安部の海岸に墜落し大破した事故を巡り、10月16日、外務省沖縄事務所の川村裕沖縄大使が「日米地位協定が捜査の支障になったとは認識していない」と発言した。

事故については県議会が、その前日、日本側が十分な捜査ができなかったとして日米地位協定の抜本的改定を求める意見書を全会一致で可決。議員らが意見書を携えて訪れた要請の場での発言だ。

捜査を巡り、沖縄県警は刑事特別法第13条の規定にもとづき機体の差し押さえを求めたが、米軍はこれも拒否して機体の残骸を回収した。海上保安庁の中城海上保安部が複数回、当時の乗員への聴取を米軍に要請したが、米軍は応じなかった。結局、海保は現場の撮影や潜水士による水中からの実況見分を行い、翌17年9月になってから、米国から提供されたパイロットの操作ミスが原因とする事故調査報告書から、航空危険行為処罰法にもとづく調査を続行していた。証拠物の機体も米軍が回収したため触れられず、捜査は不十分な形で終結した。その結果、海保は、搭乗していた機長を氏名不詳のまま、航空危険行為処罰法違反容疑で9月24日、那覇地検に書類送検した。

名護市安部の海岸近くに墜落し大破したオスプレイ=2016年12月14日(沖縄タイムス提供)

事故は不起訴となる見通しで、顛末(てんまつ)を見れば地位協定が捜査の障害になったことは明らかだ。

前述の川村沖縄大使の発言は、県議会が全会一致で可決した意見書の「捜査は不十分な状況で終結した」とする県民の意思を踏みにじるような発言だ。

だが、川村沖縄大使の発言が、本土のメディアで問題発言として、報じられることはほとんどなかった。

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米軍機事故を巡る対応指針は04年に発生した沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故で、米側が地位協定を盾に、日本側の現場周辺立ち入りを認めなかった問題を機に策定された。イラク戦争が泥沼化する中、イラク出撃に備えて沖縄県内で訓練をしていたCH53大型ヘリが、普天間飛行場に着陸しようとして、隣接する沖縄国際大学に墜落した。

事故直後、約100人の米兵が、普天間飛行場と大学を隔てるフェンスを乗り越えて大学校内に無断で侵入。宜野湾市消防本部が、消火活動にあたり、ヘリの乗務員を軍病院に搬送していたが、米軍は消火に成功した消防隊員を立ち退かせ、事故現場一帯を封鎖。沖縄国際大学の関係者をはじめ宜野湾市長、現場検証や事故処理を担当する沖縄県警、政府関係者が1週間もの間、米軍によって現場への立ち入りを拒否された。笑えない話だが、例外は、大学構内に宿営する米兵から注文を受けたピザ屋の配達員だけだった。

17年10月に東村高江の民間地にCH53大型輸送ヘリが不時着・炎上した事故では、米軍が機体の残骸や現場の土を運び出した。地位協定に関する合意議事録では、米軍の同意がなければ日本側が米軍の「財産」を捜索し、差し押さえる権利はない。

この土を巡っては、放射能汚染の可能性が指摘されており、その一部は浦添市の牧港補給地区(キャンプ・キンザー)内に保管されていることが分かっている。米海兵隊は「大半は日本本土で適切に処理された」としているが、保管されている土の処理に関しては、米軍側は回答していない。

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今国会で日米地位協定の見直しについて再三問われた安倍晋三首相は、今年7月の米軍機事故対応指針の改定の成果を強調し、従来通りの運用改善にとどめる方針を改めて示した。改定では「日本側の内周規制線への迅速かつ早期の立ち入りが可能となる」とする文言が盛り込まれたが、事故現場への立ち入りに米側の同意が必要という根本的な課題は依然残っている。

外務省沖縄事務所などが「地位協定は支障でない」として米側に捜査協力を求めない姿勢のままでは、指針改定が形骸化する恐れもある。

「日本側の内周規制線への迅速かつ早期の立ち入りが可能となる」が、実際に事故が起きないと、日本側の捜査権が保障されたものなのか、それとも国民への日米地位協定の運用改善を印象付ける単なる「セールス・トーク」なのかは、不幸な事故が再び起きるまで、まったく分からないのだ。

墜落事故の捜査はなぜ必要か。原因を追及して必要な措置を講じ、ふたたび同じ事故を起こさないようにするためにほかならない。

米側は今回の事故原因を「人為的ミス」と結論づけている。しかし日本側ではオスプレイの事故から3年がたとうとする現在も米側が対策を講じたか否かすら分かっていない。

この原稿を書いている最中の10月18日、米軍嘉手納基地に着陸した米空軍のMC130特殊作戦機から、車輪と機体をつなぐ主脚関連の部品が落下する事故が発生した。27日現在、事故原因などは明らかになっていない。

米軍機の事故が起きる度に地元の抗議要請に対し、外務省沖縄事務所、沖縄防衛局といった国側は「米側に安全の確保を求めていく」と通りいっぺんの回答をするが、これまでに具体策が提示され、米軍内でどのような処分が下されたのか、県民に知らされることはほとんどない。

繰り返される米軍機事故の背景に日米地位協定の不平等を認めない国の姿勢がある。

法律よりも、憲法よりも、日米地位協定が優先される。沖縄では、この現実を痛感させられる日常が、令和の時代が始まった戦後74年を経た今も続いている。

ちねん・きよはる

1998年沖縄タイムス入社。基地担当、北部支社編集部長、県政キャップ、社会部デスクなどを経て2017年7月から政経部デスク。

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