特集●混迷する世界を読む

東アジアの経済発展と今後の展望(下)

ユーラシア経済圏の可能性をさぐる

国士舘大学教授 平川 均

はじめに

1.東アジアの経済発展とそのメカニズム

2.中国の大国化と「一帯一路」構想(以上前号)


3.「一帯一路」構想と中国を取り巻く外交関係(以下本号)

(1)ユーラシア大陸と「一帯一路」構想 (2)アフリカ大陸と中国 (3)「一帯一路」構想と日本

4.トランプ・アメリカ大統領の誕生とアジア・中国

おわりに

3.「一帯一路」構想と中国を取り巻く外交関係

(1)ユーラシア大陸と「一帯一路」構想

中国は「一帯一路」構想が国際開発協力構想であると訴えている。しかし、それが中国の利己的な利益や力の追求が実態だとの根強い批判がある。実際、どうか。「一帯一路」沿線の関係国との外交関係からそれを検討してみよう。本稿では日本で比較的情報の得られるASEANを除き、ロシア、中央アジア、南アジア、EU、中東欧、アフリカ地域について概観する。

中央アジアの国々は、旧ソ連邦が崩壊しロシアとなった1991年に誕生した。その激変の中で1996年、中国がロシア、そして中央アジアのカザフスタン、キルギス(キルギスタン)、タジキスタンとの間に結んだ協力組織が上海5(ファイブ)である。上海5は2001年にウズベキスタンが加わって上海協力機構(SCO)に生まれ変わる。この中国の動きはロシア大統領ウラジミール・プーチンには中国の攻勢と映る。彼は2010年にベラルーシとカザフスタンを加えて3国の関税同盟を成立させ、2011年にはユーラシア経済連合(EEU: Eurasian Economic Union)を提案する。

2014年にその提案が受け入れられて、翌15年1月にEEUが発足する。EEUは設立と同時にアルメニアが、その後キルギスが加わりロシアと中央アジア4カ国の経済連合となった。これに対してウイグル独立運動阻止を主目的として、この地への中国の経済的対応策が「一帯」構想である。元外交官の田中哲二は、そうした中ロを軸とする複雑な国際関係を紹介している(『中国研究月報』2016年1月号)。

しかし、この対抗関係は2015年に基本的に変わる。同年7月のEEU最高会議はロシアのウファで開催されたが、この時、第15回SCO首脳会議と第7回BRICS首脳会議の合同会議が同時に開催され、この合同の会議で中ロの関係強化と中国の建設的役割が合意された。合意の背景には、14年初めのウクライナ問題がある。ヨーロッパ諸国と対立を深めるロシアが中国と利害の一致を深めたからである。またこの時、中国・ロシア・モンゴルの3国首脳会議も開かれ、中国の「一帯一路」、ロシアのヨーロッパ・アジアを跨ぐ大型ルート建設、モンゴルの「草原の路」建設からなる3国経済回廊の推進も合意された(新華網日本語2015.7.10)。ちなみに、BRICS首脳会議は2009年に始まったBRICsの4カ国首脳会議が2011年に南アフリカが加わって誕生した。2015年には、先進国を除く、またユーラシアを中心としたこれらの国々の首脳がウファで相互に連携を深めたのである。

ウファでのSCO首脳会議は、インドとパキスタンをSCOの正式メンバーとする手続き開始も承認し、インド・中国関係でも進展を見た。中国は2014年、中国のカシュガルからパキスタンのグワダル間の高速道路網と港湾建設を「一帯一路」構想の旗艦プロジェクトとして推進している。この建設に460億ドル相当の融資を行い、パキスタンは15年末に中国にグワダル港の43年間の租借を認めている。インドは中国のこうした動きに強い警戒感を抱き、中国もまた、これまでインドのSCOへの加盟に反対してきた経緯がある。

実際、今世紀に入ってインドは独自に、中東、中央アジアでの経済インフラ網の整備に乗り出していた。2009年にはインド主導でアフガニスタンのザランジ-デララム間高速道路を完成させ、イランが同国のチャバハール港-アフガニスタン国境間の道路建設を担い、インドの融資でチャバハール港の建設が行われている(The Wire, April 13, 2016)。チャバハール港の建設では日本政府も融資している。また、国際南北輸送回廊(INSTC)構想もある。これはインド、イラン、ロシアとの間で2000年に開始され、のちにトルコと中央アジア諸国が参加した、ペルシャ湾-中央アジア-ロシア経由でインドとヨーロッパを船舶・鉄道・道路で結ぶ多輸送方式連結構想である。

インドはまた、2016年にアシュガバット協定(Ashgabat Agreement)への参加を正式に決断した。同協定は2011年4月にカタール、オマーン、イラン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの間で締結され中央アジアとペルシャ湾間の輸送を促進する国際交通輸送回廊計画である。後にカザフスタンが加わり、2014年末には、イラン、トルクメニスタン、カザフスタン間の鉄道路線が操業を開始している。インドの加盟で計画の進展が期待されている。

2013年には、インドはバングラデシュ、中国、インド、ミャンマー4カ国の多輸送方式の経済回廊(BCIM-EC)計画にも参加している。中国の雲南省昆明-ミャンマーのマンダレー-バングラデシュのチッタゴンーダッカをへてインドのコルカタを結ぶ構想である。その年、インドは中国と同経済回廊の建設で合意し、それぞれ国内に研究グループを立ち上げた。計画は2009年の雲南省政府による「ゲートウェイ戦略」に始まるが、インドはASEAN経済共同体への連結も視野に入れてこの構想に参加しているとされる。中国・インド関係は緊張関係を保持しつつ周辺国を包み込んで中東、中央アジア、南アジアのインフラ整備を進めているのである。

ヨーロッパ諸国との関係はどうか。2015年6月にベルギーのブリュッセルで第17回EU・中国首脳会議が開催されている。同会議の共同声明では、両者の包括的な戦略提携の重要性が強調され、それぞれに旗艦プロジェクトであるヨーロッパ大陸ネットワーク計画と「一帯一路」構想への関心が明記され、資金協力での合意も謳っている。しかし、EUとしての対中政策の必要性は、実はこの頃まで認識されていなかった。EUは2003年からEUの東方拡大でヨーロッパ近隣政策(ENP)を採用し、EUの近隣諸国に対して民主主義と財政政策の改革を目指していた。その政策が変更されたのである。

中国は2012年には既に中・東ヨーロッパ(CEE)16カ国とのCEE16カ国・中国(CEE16+1)首脳会議を設け、会議を通じて特に投資とインフラ建設で協力を確認していた。2015年11月の第4回CEE16+1首脳会議では、2020年までの向こう5年間の優先的協力分野としてインフラから金融、農業まで協力が確認された。ところが、CEE16カ国のうちの11カ国がEUの加盟国である。CEE各国と中国との直接的関係は、EU内に中国派の誕生の可能性を生む。押し寄せる難民で苦悩するEU各国は周辺国へのENPの政治的目標をヨーロッパ連結に向けた経済的目標に移行させるのである。

EU内では、金融・財政危機で一時EU離脱さえ選択肢となったギリシャが、EUとIMFの民営化の要請に沿って2016年夏には同国最大のピレウス港管理委員会(Piraeus Port Authority)の株式の51%を売却した。ところが、その買い手は中国遠洋運輸集団(ココス・グループ)であった。同社は2009年には同港のコンテナーターミナルの3つの内の2つの管理権を取得しており、さらにこの民営化により2052年までの港湾それ自体の管理運営権を手に入れたのである。こうした中国の動きもEU共通の中国政策の必要性を認識させただろう。Brexitで揺れるイギリスと中国の間でも今世紀に入り強い関係が築かれてきた。イギリスは2012年に中国元のオフショア市場の開設に動き、14年6月にはロンドンに人民元取引所の開設を実現している。

政治的社会的に不安定な中東、中央アジア地域の安定と開発でEUは中国と協調関係を模索せざるをえない立場にある。それはEU内の分散圧力を弱め統合を維持するために避けて通れない選択である。こうしたEU諸国の中国との進展する協力関係は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立で効果をいかんなく発揮した。繰り返せば、難民、テロ、域内財政危機国問題、イギリスEU離脱などがEU統合に分散圧力を強めている。また、中東でのアメリカを中心とした反テロの軍事行動は、その地に難民を生み出している。対照的に、「一帯一路」構想をもって中国は、不安定なこの地域にインフラ整備を通じた開発協力を呼び掛ける。ヨーロッパ諸国が中国と協力関係に入るのは極めて自然な選択と言えるのではないか。

(2)アフリカ大陸と中国

「一帯一路」構想はアフリカにも広がる。前掲図5が示すように、アフリカ諸国は今世紀に入って中国への輸出依存度を激的に高めた。言うまでもなく貧困のアフリカ諸国の主要な輸出品目は資源であり、中国にとって重要な資源安全保障戦略の対象地域である。

中国はこの地域に対して2000年以来、中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)を設け3年毎に閣僚会議を開催し、また3回の閣僚会議毎に首脳会議を開催してきた。参加国は53カ国に上る。2006年の第3回閣僚会議の折の首脳会議では北京宣言を、2015年の第6回閣僚会議の折の首脳会議ではヨハネスブルク宣言を発している。

ヨハネスブルク首脳会議は「一帯一路」構想が出された後の最初の首脳会議であるが、この会議で中国は中国・アフリカ産業連携と産能合作の支援を目的に100億ドルの産能合作基金の立ち上げを約束した。鉄道、高速道路、航路、港湾、電力、水道、情報通信などの分野で様々な手段を通じたインフラ整備を行う。中国企業と中国金融機関はアフリカ諸国と協力して地域の連結性と経済統合を推進する。

アジア開発銀行(ADB)はアジア経済統合報告2015年版で特別の章を設けて「経済特区(SEZ)」の役割を考察している。中国は、特に自国の経済発展の成功因とされるその方法のアフリカへの導入を試みる。世界銀行が2010年に発表したある研究によれば、中国は2006年に50カ所の「経済貿易協力区」の設置を決定し、2010年時点で中国商務部が19カ所の特区の建設を認可している。そのうちの5カ所がサブサハラアフリカ(エチオピア、モーリシャス、ザンビアに各1カ所、ナイジェリア2カ所)にある。アフリカで中国のSEZが成功したか否か、現時点で評価は定まっていない。この点で、国際産能合作は経験に乏しい中国企業の海外進出を支える支援枠組みである。それは「一帯一路」構想で重要な役割を期待されている。

ヨハネスブルク首脳会議に出席した習近平国家主席の中国・アフリカ経営者高級対話での講演によれば、2014年末までに中国のアフリカ投資(ストック)が1,010億ドル、輸出入合計は2,219億ドルに達している(FOCAC Website)。中国企業の安易な投資事例も数多く報告されているが、「一帯一路」構想はインフラ投資を中心に投資先経済に発展の可能性をもたらしている。

(3)「一帯一路」構想と日本

中国の「一帯一路」構想への日本の関心は総じて低い。アメリカのトランプ大統領の離脱表明でTPPは今や発効の可能性は消え失せたと言ってよいが、日本はTPPへの過度な期待の中で、中国の「一帯一路」構想の正当な評価に失敗してきたように見える。AIIBの設立に関する日本の対応がそのことを白日に晒している。日本はAIIBの設立に先進国の参加はないとのアメリカの情報を疑わず、分析すら怠った。蓋を開ければEU内のすべての先進国が参加に走っていた。現在、先進国で不参加は日本とアメリカのみである。AIIBの設立時加盟国数は57国、アメリカ、日本、カナダを除く先進国がすべて設立メンバーとなった。

2017年1月の中国外務省の発表では、新たに30カ国・地域近くが加盟を申請し(日経新聞2017年1月18日)、同年3月には13カ国・地域が新規加盟手続きを終えて加盟国数は70カ国になっている。その加盟国数はADBの67カ国を超えている(朝日新聞2017年3月23日)。近い将来この差はさらに広がる。日本が参加するか否かは別として、この事実は世界の多くの国々が既存の国際金融開発機関にない可能性をAIIBに見ているからである。

日本の対応は、安倍首相の2015年4月のテレビ番組での発言「(AIIBは)悪い高利貸し」に象徴されるように、感情的な対応と言えなくもない。それは中国に対抗して「質の高いインフラ投資」の表明となり、「一帯一路」沿線国への積極的な金融支援や民間企業進出の約束となった。2015年5月にはウォールストリートジャーナルのインタビューを受けて、2016年~20年の5年間にアジアへのインフラ建設融資1,100億ドル(12.7兆円)を表明した。同年7月開催の日本・メコン地域諸国首脳会議では、16年~18年の3年間に同地域にインフラ整備として7,500億円規模のODAの供与を約束した。同年10月には中央アジア5カ国を訪問し、最後の訪問国のカザフスタンにおいて「(中央アジアで)3兆円を超えるビジネスチャンスを生み出す」ことを約束した。

2016年5月のG7伊勢志摩サミットでは、先に表明した1,100億ドルの資金拠出を官民一体で2,000億ドル(23兆円)に増額した。日本主導で1993年以降、5年に1回の間隔で開催されるアフリカ開発会議(TICAD)の第6回開発会議が、16年8月にアフリカのナイロビで開催されたが、この講演で安倍首相はアフリカへの「未来への投資」として、2016年~18年の3年間に官民で総額300億ドル(3.5兆円)規模のインフラ整備支援と人材育成を表明した。同年10月来日のミャンマーの最高顧問兼外相のアウンサン・スーチー氏に対して、今後5年間にODAと民間投資合わせて8,000億円の支援を約束している。2017年1月の安倍首相のフィリピン訪問では、ドテルテ大統領と南シナ海での「法の支配」の重要性に合意し、今後5年間で官民合わせて1兆円規模の経済協力を行うことを表明している(毎日新聞2017年1月13日)。

すなわち、日本の安倍政権による中国に対抗した「質の高いインフラ投資」、インフラ建設の支援は、中央アジア、東南アジア、南アジア、アフリカのインフラ建設、開発支援に向かう。結局、日本の支援は「一帯一路」沿線国のインフラ整備を促進する機能を果たす。

4.トランプ・アメリカ大統領の誕生とアジア・中国

2017年1月20日、「米国第1」を叫ぶトランプ大統領が誕生した。アメリカに雇用を取り戻すための最初の措置としてTPP離脱が決断され、NAFTA再交渉も現実となった。TPPは空中分解し、メキシコとの国境に人と物の両方に高い壁を築く交渉も早晩始まる。トランプ大統領を選んだ人々の多くが、ラストベルト(Rust Belt)と呼ばれる、疲弊する工業地帯の白人労働者であり、かつては中間層であった彼らへの選挙公約が課題となる。しかし、TPPやNAFTAへのトランプの強い敵意は物の自由化に限定されているように見える。J・スティグリッツが「世界の99%を貧困にする経済」として激しく糾弾し、グローバル金融危機を引き起こした強欲な金融界を規制する発想はまったくない。彼の政権には、アメリカ金融界を代表するゴールドマン・サックス出身者が財務長官と国家経済会議(NEC)委員長の要職に就いている。トランプが就任演説で「あなたたちは二度と無視されることはない」と述べた人々への約束がどのように果たされるのだろうか。

本項の目的は、トランプ政権が東アジア経済にどのような影響を与えるかである。「アメリカ第一」を掲げて雇用を取り戻すというトランプの対外通商政策は2国間交渉方式で、各国毎に貿易収支の改善を図るとされる。国家通商会議のトップに就いたカルフォルニア大学教授ピーター・ナバロは選挙期間中に経済政策を立案した人物であり、貿易不均衡の是正が成長につながるとの信念を持つ。アメリカの貿易赤字は2015年で7,457億ドル、2016年で若干減って6,771億ドルであるが、対中赤字がそれぞれこの内の約半分の3,672億ドル(49.2%)と3,193億ドル(47.2%)、対日赤字は約10分の1弱のそれぞれ689億ドル(9.2%)と624億ドル(9.2%)である。他方、中国の対アメリカ依存度は国連データ(コムトレード)によれば、15年で輸出が18.0%、輸入が9.0%、貿易総額で14.2%である。この関係を交渉によって短期間に是正し、しかもアメリカの成長につなげる可能性は殆んどない。

それはそれとして、アメリカの保護主義的政策、重商主義的政策は中国を屈服させられるのだろうか。アメリカは高関税と政治的圧力をどのように中国にかけるのだろうか。2017年4月の米中首脳会談ではシリア問題、北朝鮮問題などの政治的課題が前面に出て、「強いアメリカ」がクローズアップされた。経済面の交渉でアメリカと中国がどう対峙するか、その先行きを読むことは難しい。私見では、「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平と「アメリカを再び偉大な国にしよう」と叫ぶトランプとの間では、結局はオバマ政権が拒否した「大国」関係の構築に向けて互いが譲歩する可能性が高い。しかし、大統領選での主張を簡単には反古にできない。

中国のアメリカとの貿易面の対立の激化は、アメリカはもちろん中国も多大な痛みを避けて通れない。しかし、中国にとってその痛みは短期的であり、中長期的には中国に有利に働くのではないか。中国はむしろそれを機に「一帯一路」構想に一層傾斜する可能性がある。そもそも中国はTPP交渉から外され、「一帯一路」構想はTPP対策の面があった。

トランプがアメリカ大統領の就任を間近に控えた2017年1月の世界経済フォーラム、通称ダボス会議では、中国の習近平国家主席が世界の自由貿易を守ると講演し、逆にトランプが大統領就任演説で「アメリカ第一」を唱えてTPP離脱とNAFTA再交渉を明言した。メキシコでの生産を目指していたフォードやクライスラー、トヨタなどがトランプの脅しに屈してアメリカでの生産増加を約束している。だが、NAFTAの停止は既に世界的な国際分業体制を構築している先進国の多国籍企業に大きな負担を強いる。ICT関連企業のアメリカ離れも報道されている。新興地域の企業にはむしろ発展のチャンスとさえなりうる。

皮肉にも、自由主義の旗は中国の側に移っている。中国市場はもちろんアジア市場は企業にとって重要なビジネス空間であり、むしろアジアの自由貿易への期待は高まるのではないか。しかも、東アジアの発展はPoBMEs段階にあって潜在的市場が期待され、イノベーションの場がアジアに生まれている。

労働集約的な産業集積地とされていた深圳はICTイノベーションの一大拠点として注目されるまでに様変わりした。かつての東京の秋葉原のようにICT関連のあらゆる部品が入手できる深圳に向かって世界中からICT人材が吸い寄せられている。関志雄によれば、2015年の深圳のPCT(特許協力条約)の国際出願件数(受理件数)の中国全土に占める割合は46.9%、13,308件に達している。中国の特許出願件数都市別順位で深圳は12年連続1位である。15年の出願件数の第2位は北京(4,490件)、以下、第3位上海(1,060件)、第4位広州(623件)である(RIETI コラム2016年6月8日)。経済成長も成長率の落ちる中国に代ってインドが登場している。トランプの保護主義はこの流れを止めるものではない。逆に加速させるのではないか。

世界最大の経済圏の中心に位置する中国、そしてアジアに注がれる国際企業の関心が衰えることはない。カントリー・リスクの存在は無視できないが、中国を筆頭にインド、ASEANなどへ関心は広がり続ける。インフラ投資ではユーラシアの発展途上地域も視野に入りつつある。加盟国数がADBを超えたAIIBの融資も新たな市場に資金を供給し、中国に対抗する日本のインフラ融資もアジア、ユーラシアの発展基盤の整備を通じて新たな市場を生み出していく可能性が高い。それはユーラシア大陸を徐々に連結していくことになる。それが軍事的行為では成しえないテロの脅威を減らす可能性を高める。

おわりに

中国政府は「一帯一路」構想が打ち出されて3年が過ぎた。中国人民網は、「2013~16年『一帯一路』プロジェクトの成果」の中で、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)が開業し、運営が始まり、シルクロード基金が順調に組織され、さらに一連の大型プロジェクトの実施が始まり、既に100以上の国や国際組織が『一帯一路』構想に積極的に参加・支持している」と要約している。

2016年3月、外相の王毅は第12期全人代第4会議の記者会見で構想を次のように総括した。「過去3年間に『一帯一路』は一連の大きな早期収穫を得た」。70以上の国と国際機関が協力を表明し、30以上の国が「一帯一路」協定に調印した。構想の下支えであるAIIBとシルクロード基金が誕生し、中国・パキスタン経済回廊、中国・モンゴル・ロシア経済回廊、ユーラシア・ランドブリッジ高速鉄道の建設が開始され、約20の国と産業能力合作が行われている。中国は今や「ひとつの国際体系の参加者から公共財の提供者」になっている(人民網日本語版2016年3月10日)。

だが、様々な批判もある。中国のインフラ建設はそれ自体が粗雑であり、進出先の人々とのトラブルも後を絶たず、環境破壊も引き起こしている。中国のための資源の囲い込みであり、破格の安値でプロジェクトを成約し、経済合理性も施工能力も無視されることが多い。ある報道は、「中国製の高速鉄道を導入する動きは関係の深い発展途上国で広がっているが、各地でトラブルも続出しており、巨大インフラ輸出に影を落としている」(毎日新聞2016年9月26日)と伝える。日本は、2015年のインドネシアの新幹線建設計画で中国に成約をさらわれたが、受注から1年経っても建設は殆んど進んでいない。トラブルは「安値での輸出拡大」の限界を示すものと受け止められている(日経新聞17年2月15日)。

「一帯一路」の沿線国には様々な部族・民族問題、反政府組織やテロリストが活動しており、そのリスクが過小評価されているとの見方もある。中国経済研究者でコンサルタントの津上俊哉は、中国が受注する「一帯一路」沿線国の多くでは政治的にも経済的にもリスクがある。鉄道の通過地帯は人口が希薄で需要密度が低く、「金のかかる高速鉄道を採算に乗せるのは至難」という。中国の足許を見ても多くの課題がある。中国経済の減速は深刻な危機を中国社会にもたらしかねず、中国の経済力が維持できるか否かにも疑問符が付けられる。中央アジアの政治情勢もカオスに陥るとの研究もある。

以上のような評価は拾い上げればきりがない。それは事実としても、ソ連崩壊後の南アジアや中東でアメリカが主に行ってきた軍事行動と反テロの戦いは関係国、周辺国に膨大な犠牲を強いるもので、建設でなく破壊の行為である。中国の「一帯一路」が多くの課題を国内外で見せつけるものの、EUを含むユーラシア、さらにはアフリカの国々に開発の可能性を提供している。中国主導の開発の在り方に多くの疑問が出されるにしても、むしろそれを国際社会が協力して「国際公共財」にしていくことが求められているのではないか。困難を承知の上で「一帯一路」の意義を強調しない訳にはいかない。

経済の重心はアジア太平洋から東アジアへ、成長の主体も新興アジア諸国に移りつつある。「一帯一路」構想の先にはユーラシア経済、さらにアフロ・ユーラシア経済が展望される。アジアの展望に迫るには客観的複眼的視点が必要である。

ひらかわ・ひとし

1948年愛知県生まれ。明治大学大学院博士課程単位取得退学。 94年京都大学博士(経済学)。長崎県立大学などを経て2000 年より名古屋大学大学院経済学研究科教授、13年退官し名誉教授 。同年国士舘大学21世紀アジア学部教授。最近の著書に『新・アジア経済論』(共編著)、文真堂、2016年、Innovative ICT Industrial Architecture in East Asia, (Co-editor) Springer, 2017 などがある。

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