特集●混迷の時代を読む

危機的だからこそ、世界は変えられる

リベラル勢力の台頭と新しい産業政策

慶応義塾大学教授 金子 勝さんに聞く

聞き手 本誌編集委員・住沢博紀 大野隆

―――あまりにひどい世の中になって、そもそも世界を捉える枠組みが見えなくなっているように感じます。

金子●問題として整理すると、①いまの世界的な状況、グローバリズムの行き詰まりの中で新しく出てきた極右勢力、「オルタナ右翼」をどう見るか、②アベノミクスは、どういう意味でも壁に当たっている、③森友問題、東芝の現状を含めて、非常に政権が腐ってきているということ、それから、④どういうふうに転換の動きが起きてきているのか、ということでしょう。

破綻寸前のアべノミクス

金子●アベノミクスの行き詰まりから話した方がいいでしょう。行き詰まりというか、行けるところまで行く、もう引き返せないという状態に入ってきています。地方の分を除いて1060兆円の国の借金があって、4月10日現在で日銀保有国債が417兆円、上場投信含めた株式が13兆円をこえてしまっている。それで、金利が1%上がると、67兆円も国債の価値が棄損します。GDPの13.5%です。異常な状況です。

この前の日米首脳会談は、NHKでは毎朝将軍様のお言葉を流すようになっていて「大成功でゴルフまでやった」と言われていますが、まったくのデタラメです。あとで言いますが、東芝で監査報告がされないのは東芝が崩れているという報道になっていますが、あれは逆です。米国の圧力と、政府から自主的に動いて自立再建方式でがんばろうとする動きがせめぎ合っているのです。

問題なのは「トランプとうまくいった」キャンペーンです。実態はまったく逆で、急所を完全に握られてしまった。つまりトランプは「円安誘導の金融緩和をやめろ」と言っていたわけですが、あの会談を契機に一切表では言わなくなって、ペンスと麻生の裏取引になった。たぶん、2国間貿易協定になったらギリギリやられてしまう。

97兆円の予算のうち、国債の利払い費は約10兆円です。金利でいうと0.1%で異常に低い。金利が1%になるだけで、次々と国債の利払い費が累積して財政破綻へ向かう。国債は日銀が大量に、4割ほど持っていますから、67兆の4割でたぶん20兆円台の半ば以上の棄損なので、完全な債務超過の状態に入る。銀行も大量に国債を持っているので、たとえばアベノミクスが成功して、金利が2%上がり、物価も上がったとすると、たぶん銀行はつぶれてしまう。日銀が金融緩和をやめた瞬間に財政も金融も破綻するような状態に入ってきている。永遠に不況で、永遠に緩和しないと持たないという「不思議な」状態です。

国債市場も株式市場も金利機能も麻痺していくのに、出口ナシです。将来のリスクをすべて先送りして、いくところまでいく政策をやっている。トランプに足下を完全に見られ、「金融緩和をやめろ」と脅かされただけで、もうなにもできないので、辺野古も差し出します、2国間協定で好きにやってください、というのがいまの状態だと考えると分かりやすいでしょう。

『日本病』(岩波新書)という本の中にも書きましたが、日銀がいくら金融緩和をしても、デフレ脱却は永遠に道半ばです。何より資本主義が変わってしまった。「金融資本主義」とでもいうべきでしょうか。企業を売り買いする資本主義で、企業自身が売買の対象になっている。国際会計基準の変化というのが大きくて、企業価値をストレートに表すルールに変わった。企業は時価評価される不動産と株を最大限にしないといけない。内部留保をためて相手を買おうとするわけです。相手も、自社株を上げないと会社の株式総額の価値が落ちるので、懸命。そして市場に出回っている株を買って、一株あたりの利益率を上げようとする。

だから従業員や下請けにお金を回すことは永久にあり得ない。それが格差社会に直結します。そういう資本主義になったので、結果的にデフレ脱却は無理なのです。家計消費も増えない。グローバリズムのひとつの帰結で、そんなルールになっている。そこでいくら金融緩和をしても、物価上昇率を0%にするのが精一杯というのが現状でしょう。

「脱成長」ではなく、新しい産業を起こす

金子●金融資本主義の下で企業が自社開発をしなくなっています。福祉関係の人などに多いのですが、「成長なんかしなくてもよい」と言う。でもそれは違う。いまや日本は産業がどんどん衰退して、雇用がどんどん失われる状態に入ってきている。経済衰退が起きているのです。それに対して、安倍は旧来型の財界の重化学工業を救済するための大規模国家プロジェクトをやたら立て、日銀が財政ファイナンスして、プロジェクトをやり続ける状態になっています。戦時経済に似ていて、もう負けているのに戦艦大和を造っているようなことです。

リニア新幹線、武器輸出、原発……みんな失敗しています。それもあって国内マーケットが小さくなってきているので、どんどん合併が進みます。企業が食うか食われるかの競争で動くようになっています。だからデパートや、食品、生保、損保、銀行、とくに地銀ですが、こういうところに合併の話が広がっています。一番笑えるのが「損保ジャパン日本興和ひまわり生命」です。長すぎて分からない。そのうち三越伊勢丹松坂屋高島屋になるかもしれない。そのように縮小する中での食い合いという資本主義の有様になってきているので、成長も望めません。とくに地銀が非常に苦しくなっています。

有名な話が、ルイ15世のときのジョン・ローというスコットランド生まれのイカサマ師。いまのインフレターゲット派と同じです。ルイ14世が戦争をして、ヴェルサイユ宮殿を建てて、財政赤字が真っ赤になった。ルイ15世も戦争で、どうしようもない。ジョン・ローが財政顧問になって、「みんな金(きん)に縛られることはないから紙幣をじゃんじゃん刷ればいい」と。当面は良かったけれど、ミシシッピー開発会社というのをつくって、バブルになって、それが崩壊して破綻した。その10年後にフランス革命がやってくるわけです。つまり税金を集めて公共的な目的で財政支出をして、人々の支持を調達して統合するというのが政治的には常道で、それが財政民主主義と言われる近代の原則です。

そういう統治能力が完全に衰退して増税できないと、お札を刷るのが一番安直な方法です。安倍もそうで、もう1400兆円の金融資産も関係がないわけです。

言ってみれば体制末期です。安倍政権はやれるところまでやって憲法改正して名前を残したいだけで、たぶんそれで経済が行きづまったら、政権を投げ出せばよい、という路線です。とんでもない路線ですが、最終的にはデフォルトか戦争でハイパーインフレになりますが、そう簡単には起きません。

そこで行き着くのはお金とはなにか、という問題です。かつては金という実体的な根拠のあるものとリンクしているがゆえに、みんな幻想でない実体だと思っていたわけです。でもいまもうそんなものはないわけです。論理的には子ども銀行みたいにお金を刷り続けることができる。

お金を交換手段とする見方に対して、もう一つはケインズが典型的ですが、債務証書、裏書きのない手形とする見方があります。政府と日銀に対する信用に依存しているわけです。政府がデフォルトを起こした瞬間に、つまり国債は払えませんと、そういうふうになった瞬間にお金は紙クズになってハイパーインフレになるわけです。それは過去起きている典型的なパターンです。ロシアの98年のデフォルト危機もそうでした。

もう一つのパターンは、戦争です。戦争で物資の供給が止まると、供給上のネックが見えるので、お金がそこに向かって行って、それをきっかけに物価が急上昇する。すると借金はチャラになります。日本では歴史的にみると、第二次大戦直後のインフレと石油ショックのときなど、いずれも戦争絡みです。

そう考えると、安倍は結局、経済なんかどうなってもいいのでしょう。「わが亡きあとに洪水は、来たれ」と同じです。

マイナス金利には先がない

金子●さらに、日銀はマイナス金利をとっています。マイナス金利とは、当座預金の一部に手数料をとって、銀行に貸し出しを促す政策ですが、銀行はマイナス金利になると利ざやが稼げない。預貸業務では、金利がある程度高いと預金金利と貸出し金利の差で、収益が上がる。でも金利がこんなに低いと、都市銀行はもう国内を捨てて海外で稼いでいます。生保もそうです。都市銀行はマイナス金利以降、貸出額が対前年割れをずっと続けています。だから日銀の狙った効果はまったくない。

地銀は外へ逃げられないので、二通りの対処をしている。直接海外業務ができない代わりに国内にいる外資系に危ない証券をつかまされている。要するに金利収入が上がるものに手をつけている。貸出しは伸びているが、みんな住宅ローン。でも、0.5~0.6%とかいう金利で儲からない。住宅ローン減税をやると、借りる側からいうとお釣りが来るのです。金利が著しく低いので。それは完全な需要の先食いですので、少子高齢化でいつまで持つかわかりません。

もう一つは消費者ローン。これは自分がリスクを負わない。たとえば銀行の窓口で消費者ローンを借りると、実は取立てたり、リスクを負うのはプロミス等の消費者金融になるわけです。

あともう一つは不動産。いま不動産バブルになっています。都心部の商業地の中心地、不動産の貸付けはかつてのバブルと同じくらいになっている。公示地価を見ても、東京はもう終わっていますが、大阪、名古屋、いま福岡、仙台、札幌というところに波及しています。餃子の街、宇都宮でも60メートルの高層マンションが建ちますから。そういう状態で、都市中心部だけの限定的なバブルです。そこにお金をぶち込んで貸している。

人口がそんなに増えない中でこういうバブルはいつまでも続かないし、実際2015年の11月くらいをピークにして、東京都心ではもうマンションの価格はピークアウトして、完成在庫が大量に余り始めている。それでもなんとかなっているのは金利が猛烈に低いからです。それが現状です。東京オリンピック後にみんなはじけるだろうか、と思っていたのですが、その前に調整局面が来る可能性があると言われています。

だから、地銀は貸し出しが増えても、利息収入はどんどん落ちています。この金融緩和の中で本当に経営が苦しくなっている。だから、先述のように地銀はおそらく合併の嵐になる。戦争前と同じです。でも地域経済は、経営がよくない。経営がよくないところはリスクをとって貸せないから、結局は合併したからといって地域にお金が回ることにはならない。そういう状態が予想されます。

では、政府はどうか。マイナス金利とは、平たく言うと満期時の額面価格より高い価格で取引をしているということだから、満期まで持っていると損をするわけです。逆に政府側からいうと利払い費を払わないで国債がまるまる手に入るので、それで猛烈に大型大規模プロジェクトを起こして、古くさい産業、経団連の壊れた企業ばかりを救済する。しかし、これは時代に逆行しているので、東芝危機になるように、産業衰退を猛烈に加速させている。

日銀はどうか。去年の10月に日銀は「オーバーシュートコミットメント」と言ったわけです。要するに2年で2%の物価上昇が実現できないので、さらに開始から4年経っても実現できないので、「ずーっとやります」と言ったのです。失敗したと言わないために「オーバーシュートコミットメント」と片仮名を使っているだけで、実は大失敗でした。「でも続けます」と宣言しているのです。

イールドカーブコントロールと言いました。イールドカーブコントロールというのは、金利がある程度ないと、生保も大手金融機関も、長期の資金で国債を安全資産として持てないわけです。そうすると、いま財政当局としては長期の金利を少し上げていくようにコントロールしましょうということです。金利コントロールに移しますと言った。ところがトランプの登場で、ドル高高金利にいったんなったので、日本の資金は海外に逃げてしまいます。

ここのところアメリカの10年債の利回りは落ちてきていますが、一時期は2.5%くらいあって、日本国内は10年債で0.1%あたりですから、ドル高だったら絶対アメリカ債を買います。そういう状態になった。結局国債を消化できなくて、値段を決めて日銀が買い取る「指し値」オペで大量に国債を買うことになってしまった。

結局、金利コントロールは、財政も破綻するし、国債のオペレーションも続けられないという状態に入っている。短期債を消化できないので、日銀が売りオペもするようにもなっています。市中から買い取る国債が不足するという、弾不足になってしまい、今度はゆうちょ銀行の国債まで買います。なぜかというと年金も生保も長期の運用のポートフォリオを組むときに、一定の国債は持ち続けなくてはいけないわけで、これ以上国債を売れない。そうすると国債の流動性が著しく縮小して、民間同士の取引はマイナス金利だから成り立たないので、もう日銀がひたすら買う以外には方法がない。本当に出口のない状況に入りかけているのが実情です。だから日銀の信用がとことん傷つくかどうかというところまで「挑戦」しているとも言えるのです。

政治・政権は腐敗の極み

―――安倍政権と政治の現状はどうでしょうか。

金子●ダラダラとそうなっているため分かりにくいのですが、産業の衰退とトランプ政権の登場が、いろんな意味でアベノミクスを追い込み始めています。規制緩和が利益政治の種になるというのは小泉政権の特色だったでしょう。いまも「特区」はそれを続けています。森友疑獄問題では理財局が出てきた。理財は財務省では傍流でした。国際金融はリベラルだったのですけれど黒田登場で壊れ、今度は理財局が出てきて、国有財産の私物化のようなことが始まっているわけです。

森友問題というのは実は財政赤字でどうしようもない中で、国有財産にまで、政治家が利益政治で群がり始めた、ということです。過去は公共事業に群がるというのがパターンでしたが、いまは財界向けのプロジェクトしかできないのでそうならない。すると、政治家が直接口利きで国有財産を処分するというのは非常に大きいです。

近代国家以前に戻って、絶対王制のような世界です。王領地の私的収入を基盤にして税を徴収して、自分が独裁で決めるのと同じです。近代になって国民主権の名の下に権力を制約し、国有財産の管理を議会のもとに置くということがあって、財政民主主義は基本的に成り立つのに、それが完全に腐って近代以前に戻りつつある。だから森友問題というのは民主主義を守る上でとても重要だということと同時に、財政赤字が膨大な中で、吸いつくのがそういうところになってきたということです。

新関西国際空港株式会社は大赤字の会社です。その国有財産を横流しするとはすごい。そして、予算執行中の案件、会計検査院に調べられたら終わりになる案件について、財務省が堂々と「文書はありません」と言うとは、もう来るところまで来ているのでしょう。そういうお金を日銀の財政ファイナンスでばらまく、もう腐った政権の末期症状です。この腐敗事件は、いままでの田中角栄などとはまったく違ったパターンで、独裁政治にありがちな「国家の私物化」とでも言うべき現象なのです。

東芝問題と原発利権―産業衰退をくい止めよ

金子●もっと深刻なのが 原発利権です。原発問題は福島事故以降、経産省や電力会社は原発がないと経済が持たないというキャンペーンをやったわけですが、実際には電力不足にならなかった。いまや福島原発事故の費用が倍になって21.5兆円で、原発が安いというのも嘘っぽくなってきた。そんなことがずっと続いている。これが利権の構造の中枢です。安倍政権の官邸は、原子力ムラの経産省と警察・検察官僚でできている。だから特定秘密保護法から共謀罪に行く路線と、原発再稼働・原発輸出路線がコアです。今井尚哉首相秘書官と北村滋内閣情報官がその人的表現です。

これが安倍内閣の両輪になっている。2006年の12月22日に安倍が国会答弁書で、「全電源喪失はない」と言って、福島原発のトラブル隠し以降の再稼働を正当化した。これをネタにして、福島原発事故が起きてからテレ東が甘利明元経産大臣をインタビューしたが、逃げてしまい、そのまま放送してしまったことにからんで「名誉毀損だ」と、甘利がスラップ訴訟をかけたことがあった。そのスラップ訴訟で甘利を勝たせた裁判長が都築正則という裁判官で、これが新潟知事選前に新潟地裁の所長に行って、泉田が知事選に立てなくなってしまった。そういう具合に検察と司法も完全に牛耳って、原子力を推進しているのがいまの状態です。

もともと福島原発事故をもたらした最高責任者が安倍首相だった。2006年に第1次安倍政権が原子力ルネッサンスというのを打ち出したが、そのときの経産大臣が甘利明です。今井尚哉も第1次安倍内閣で資源エネルギー庁から秘書官になっている。この2006年に今井敬元経団連会長を中心に日本原子力産業協会というのができて、その甥が今井尚哉です。

週刊文春がようやく暴いたとおり、このときに原発ルネッサンス路線に乗って、東芝が2000億円のウェスチングハウスを、暖簾代として4000億円を払って合計6000億円で買ったわけです。そこにすべての起源がある。もともと東芝はGEと組んで沸騰水型だったわけですけれど、加圧水型が世界の主流なので、ウェスチングハウスの加圧水型が欲しかった。ところが、アメリカの原子力規制委員会は9.11の同時多発テロ以降、原発を狙われたらどうなるかと、認可が相当厳しくなり、何度も何度も改良させられた。そこから建設遅れが始まる。おまけに2011年に福島原発事故が起きて、さらに安全基準が強化されて、それでレビー原発、ボーグル原発、テキサス原発などが建設中止、中断となり、不正会計が始まったということです。

現東芝執行部がウェスチングハウスの清算に踏み切るというのは、自力再生の道を選択したからです。社外取締役も声を上げた。方針転換が始まったわけです。ところがアメリカはこの不良債権化した原発を押しつけてくる。しかもブッシュ時代に、ボーグル原発などに政府保証をつけているわけです。ブッシュの負債なわけですが、それを納税者の負担にするのがイヤだと、アメリカ側から相当脅かされた。ウェスチングハウス清算の方針を出した東芝の現執行部に対して、発注した電力会社が、ウェスチングハウスを潰されると自分が債務を負わなければならなくなるので、そのCEOを何人も日本に送って東芝に圧力をかけた。

もちろん日本の経産省はアメリカと波風を立てたくないのでそれに乗って、ウェスチングハウスを、税金をつぎ込む東電の二の舞のような会社にしようとしたわけですが、東芝執行部は何とか自力再建の道を望んだのです。2015年に東芝のアメリカ原発の建設中止に伴う債務の膨脹に対して、新日本監査法人は警告を発した。東芝は内部で不正会計の調査委員会をつくった。ところがその委員会は、デロイトトーマツという、監査法人トーマツの完全子会社を入れて、それから元の公安調査庁の長官を入れ、問題を隠し、S&Wを買わせたのです。そしたら、そこに7000億もまた借金が眠っているということが分かった。

東芝の記者会見を聞いていると「デロイトですね?」と聞かれて「そうです」とはっきり答えていました。かなり踏み込んだ決断をした面があると思います。

元をただせば、2006年に始まったこの東芝の経緯は、明らかに原発がコスト高のエネルギーになっている流れの中で始まります。2011年の福島原発事故は決定的でした。GEもシーメンスも、みんな基本は事業撤退に向かっていきました。GEは日立の合弁会社に押しつけ、シーメンスは撤退ですから。

いま彼らがやっているのは、たくさんのプログラマーを雇って、ファクトリーオートメーションとか、列車の運行システムとか、効率のいい発電機、再生エネルギーのコントロール、医療機器、こういうIOT、ICTに伴うインフラ事業に特化することです。日本だけがその不良債権化した原発にこだわり、結局安倍政権は、その終わっている原発にしがみついて、日本全体の重電機メーカーを沈めにかかっているのです。

東芝だけではない。三菱重工もひどい。アメリカの原発の三菱重工製の蒸気発生器がダメになって廃炉になったのに対して、電力会社が三菱重工を訴えて、いまでも7000億の賠償請求をしています。これは約140億円の賠償で決着したものの、実質潰れている日本原燃と組んで、瀕死のフランスの原子力企業アレバに600億円出資します。

一方で、MRJは飛ばない。豪華客船もダメ。そういう中で、安倍がまた原発売り込みをやっている。日立はまだうまく立ち回っているところがありますが、GE日立ニュークリア・エナジーがウラン濃縮事業撤退で700億円の損失を出し、イギリスでの原発建設をします。南アの火力発電事業の遅れをめぐって三菱重工が日立を相手取って7000億円の賠償を請求しています。日本の重電機メーカーはお互いに訴えたりして、泥仕合・泥沼の状況に入っています。

小泉政権の時に、世界のスーパーコンピューターがベクトル型からスカラー型にシフトしているときに、それに乗り遅れてしまった。労働市場の規制緩和を繰り返して、IT業界の若い人たちは全部IT土方になってしまう。そういう中で日本の電機メーカーが決定的に負けてしまった。そしていままた、重電機メーカーが負けようとしている。

改めて、産業政策こそ重要だ

金子●安倍が言っている「トランプに協力して雇用創出」の項目を見ると、失敗しているものばかりです。日本の進んだ先端技術でアメリカの雇用に協力するというのはみんな嘘デタラメです。たとえば自動車の自動運転。日本のIT企業はボロボロだから、トヨタはスタンフォードとMITと一緒に基礎研究所で開発している。つまりアメリカで開発している。日産はシリコンバレーのイスラエル系と組んでいる。ホンダはついに自社開発を放棄して、グーグルと組む。だから躯体の自動車は日本製でも、中身はやがてアメリカ製になるわけです。なんとなくソニーのウォークマンが負けていくのと同じような構図です。

きわめて深刻な産業衰退です。つまりシャブ中のような、いつ破綻するか分からないようなアベノミクスによる金融緩和は年6兆円の株価つり上げに及んでいます。年金も株を持つ。もうひとつ、企業の内部留保は2012年が302兆円だったのが、15年度で377兆まできています。すごい勢いで増えている。しかも溜めたもので株を買うから、それを年金・日銀で支えて、企業の資産を水ぶくれさせている経済です。そういうからくりです。

そうすると日銀が買わないと年金に穴があき、企業の内部留保に穴があくので、永遠に買っていかないといけない。それで表向き体力があるように見せて、しかし実態としてはどんどん国際競争力を落としているわけです。M&Aをやって失敗しているのは、東芝が典型的ですが、日本郵政も同じ。JTはアメリカン煙草を6000億で買っています。年間の収益が200億に届かない会社ですよ。しかもアメリカン煙草は、アメリカの中で衰退産業です。みんな間抜けなババつかみをやっている。

結局、自分の国で、自分の国民のニーズに従って、技術を開発し、地道に技術水準を高めていくというところにはお金を投じなくなっていくという、きわめて深刻な事態です。事細かに説明したのは、要するにシャブ中の中で筋肉も臓器も猛烈に弱ってきている、もう経済衰退に入っているのに「脱成長」とか言っているのは相当にピンボケです。

だから、アベノミクスに対抗するためには、なによりも産業政策が大事なのです。とくに脱原発が民進党にとって大事なのは、もう連合は腐っているからです。彼らは雇用も守る気はなく労働組合として終わっています。東芝の事態を見たら、まだしも雇用を守るために原発を国有化しろ、廃炉も含めて雇用を確保しろ、というのなら分かる。原発から脱しながら、エネルギー転換をしながら、IOT、ICTを含めてどういう戦略で産業を建て直し、人々のニーズを救っていくのかというビジョンが非常に大事になってきます。これが本当の現状です。

いまの安倍政権はなにひとつ成功していないわけです。TPP、南スーダン、デフレ脱却、全部失敗している。しかもシャブ中の状態で持たしているので、大企業は表向き内部留保が膨らんでいるように見える。そこで「これで良かったじゃないか」という雰囲気で騙されているわけです。だから対抗的なビジョンが必要で、「脱成長」で「増税して普遍的な給付を」と主張するのは頭の中の「論理」としては分からないでもないが、ファシズムには絶対に勝てません。

アウトバーンを引いて、フォルクスワーゲンを開発させて、「一家に一台の乗用車を」とモータリゼーションの未来を語っていたのはナチスです。われわれは未来の社会の雇用の創出のあり方、どういう新しい産業と新しい社会システムを作るのか、というビジョンを打ち出さなくてはなりません。

ですから、野党統一の中で重要なのは、実は原発ゼロか漸進的離脱かではなくて、代替的な社会のビジョンだと思うのです。どういう産業と雇用を創ってこの経済を建て直すのか。どういう未来の社会システムを目指すのか。その上で、未来を犠牲にして「行く所まで行く」というアベノミクスの無責任を批判していく。その際、連合が壁になっていて、統一したイメージを出せないという大きな難点があるわけです。連合には、新潟知事選を見てわかったとおり、もはや集票能力は全然ない。国民のニーズと完全に乖離し、雇用も守れない連合を頼ってもダメだということがはっきりしたと思います。

トランプの「一国主義」

金子●トランプは「反グローバリズム」を主張していると言われます。「私が1999年に本を出して述べた『反グローバリズム』とはえらい違いだな、いい加減にしてくれ」と笑いたい気分です。

アメリカもEUも日本も、全て政策金利がいったんゼロになった。これによって大恐慌のようなショックはなくなるだろうけれど、慢性病の状態をもたらしました。これは、モルヒネを打ち続けているような死に方です。

―――アメリカは、少し金利を上げているようですが……。

金子●それは基軸通貨だから。ほかの国を犠牲にすればいいわけです。アメリカの中で金利を上げれば、世界中がヨレヨレだから、資金を縮小すれば逆流して補てんしてくれるので、バブルが継続できるわけです。ほかの国はできないことです。

ヨーロッパも厳しい中で、保護主義が台頭してくる。本格的にトランプが終わりの始まりになったのだと思います。アメリカは戦後のレジティマシーを自ら否定したわけです。ドイツと日本のファシズムを破って自由と民主主義の旗を高く掲げていたのはアメリカ。移民も物の貿易も全部自由で門戸を開いて、世界経済を引っ張ってきた。それゆえに、ベトナム戦争などがあってもアメリカのレジティマシーは揺るがなかった。いまでは、トランプが保護主義、アメリカンファーストを言い、かつてナチスを経験したドイツが移民に寛容で、ドイツと中国が自由貿易の利益を説いている。差別され虐殺されたはずのユダヤ人は、トランプの黙認の下に、入植地で3000もの住宅を建ててアパルトヘイト国家をつくろうとしている。全部真っ逆さまになった。ということは、アメリカの正当性はもうないということです。

4月のトランプのシリア空爆も、シリア政府が毒ガスを使った疑いが濃いけれど、手続き・ルールに基づくものではない。ブッシュに逆戻りです。結局、ユニラテラリズムで、なんでもやる、みんなが強いアメリカを認めるだろう、という路線で突き進む。ルールによる支配が完全に崩れていくということになると、アメリカはただむき出しの相対的な力の強さだけで、今後、どこまで世界経済を引っ張り、政治を引っ張ることができるのか。ただ、なかなかトランプはしぶとい。日本は吸いつかれて、全部裸にされることになると思います。最後のいちじくの葉っぱもとられるということに、たぶんなります。

トランプは最初から政策的には失敗続きなわけです、入国禁止令は裁判所に差し止められ、オバマケア見直し法案も撤回。それからロシア諜報疑惑があり、大統領補佐官もクビ。国境税はなくなり、法人税の15%減税も実現できるかどうかわかりません。政権内部に対立もあり、支持率40%そこそこ。不支持率は50%を超えている。シリアにミサイルを撃ち込んだ後、北朝鮮への挑発を繰り返し、戦争で支持率を上げる方向に向かっています。

それでも戦争すると円高になるのです。イエレンは経済合理性に従って動いているから、金利を上げたい。トランプは「低金利が好きで、ドル高は望まない」と言って、戦争すると、ドル安・円高になるということが続いているわけです。やりたい放題です。自国の利益のためならなんでもやるという状態。一方日本は、アベノミクスが金融緩和を止められたらもう持たないところへきている。もう急所を握られているので、たぶん日米2国間交渉になれば、ギリギリやられる。するとTPPを国会で承認したので、そこが日米間のスタートポイントになります。それ以上むしられることがはっきりしたわけです。しかも、円高になり、株価も落ち、となってくると、とても苦しい。

だから森友問題などが暴露されて苦しくなればなるほど、北朝鮮との戦争リスクを煽り、共謀罪などの、非常に激しい反動的な対応が強まる可能性があるわけです。ほかに手段がないからです。対立が尖鋭になる可能性が非常に高まっていると思います。

ヨーロッパのリスクが大きい

もう一つのリスクはヨーロッパです。プーチンがヨーロッパの極右と組んで、EU解体のリスクが高まってきたと思っていましたが、オーストリアで止まり、オランダの選挙で右派の動きを辛うじて止めて、予断を許しませんが、フランスのルペンも決選投票では勝てないと予想されています。ただ、EU離脱がどこかで起きると、非常に危険です。いまはギリシャがまた危機になっていますが、ヨーロッパの金融機関は、実はボロボロです。グローバル化に乗って結果的に証券化商品を大量に買ってしまったのです。サブプライムで一番巻き込まれたのは実はヨーロッパの銀行でした。

ヨーロッパはアメリカと違って、もともとユニバーサルバンキングなので、ドイツ銀行とドイツ証券は一体です。だからより深刻です。ドイツ銀行の赤字は見るも無惨です。どの推計が正しいか分かりませんが、4800兆円とか6000兆円とかいうデリバティブを持っているようです。ドイツ銀行が破綻したときのことをドイツ政府が「救えない」と言ったのはそのとおりです。さらに、ブレグジットでイギリスの金融機関は相当ダメになります。イギリスの保険最大手・ロイズはブリュッセルにヨーロッパ本部を移しますから。

イタリアはモンテパスキという第3位の銀行が実態ではもう潰れています。不良債権比率が17~18%と言われているから、バブル崩壊前の日本と同じです。するとどこかでEU離脱が起きたとたんに金融危機です。イタリアだったらイタリアリラが暴落してハイパーインフレになり、イタリアの債権を持っている銀行はダメになるということで、リーマンショックの比ではない。つまりEUという歴史的実験が崩壊するわけだから、ソ連邦が崩壊したのと同じくらいすごいショックになる。それは最悪のシナリオですが、たぶん18年が一番危ないと思います。最悪のリスクは考えないといけない、というのがいまの世界です。

格差社会の拡大

金子●問題は、先に述べた国際会計基準で、企業がどんどん雇用を解体したりする一方、お金が余っているところは絶えず資産バブルを求めていく形で、格差がつねに拡大していくことです。みんな耐えられなくなってきている、もう生活できないと。

そういう状況の中で、逆にそのエネルギーが極右になって出てくる。いったん民主主義を通過して、メディアが大きく発達したので、みんな「ポスト・トゥルース」というか、フェイクニュースで感情に訴えるような、SNSなどのソーシャルネットワークが広がっている。そんな新しい「オルタナ右翼」とでもいう極右が世界的にエネルギーを獲得し始めている。でも彼らには経済ビジョンがないので、ただすべてを壊していくわけです。EU離脱もそうですし、安倍もそうです。基本的には未来の新しい産業にそっぽを向いている。トランプもそうです。

アメリカが本当に強かったのは、ITとかバイオ技術などの知的所有権の分野です。そこではグローバルにたくさんの移民を集めて、自分たちの企業でいろんな開発をしていた。だからトランプにもっとも反対しているのは、そういう先進的な産業で、トランプは旧来型の産業に乗っているわけです。安倍も同じですが、そういう先端的な新しいエネルギー転換や新しい産業へ向かっていかない。そこがナチスと決定的に違うのです。だから小泉純一郎と安倍が右的に合体したときにはこわい。急激に電力の改革をして、「未来に向かって進もう」と言って、一方で「じゃあ、憲法も変えよう」となったら、みんな一気に行ってしまうでしょう。逆に言えば、われわれはこのちぐはぐさにつけ込む隙があるわけです。

「電力会社を乗っ取る」―新しい対抗運動の可能性

―――政治と経済の基本的関係が、構造的に変わってきている感じがします。これからの見通しは暗いのでしょうか。

金子●いや、そんなに悲観していません。日本はリーマンショックの教訓をどう汲むかが問題です。つまり株高と円安だけに依存して、大手企業の内部留保だけが溜まる方式を続けていると、その間に地方がどんどん空洞化してやせ細り、高齢化の波が襲って、農業がつぶれる状態になっているわけです。ここに実は脱出口があります。

振り返ると、1967年に美濃部都政が生まれて、大阪で黒田、埼玉で畑、神奈川で長洲、滋賀で武村と、各知事が誕生し、都市部の高度成長期のひずみと福祉がテーマになって、革新自治体ができた。それで「福祉元年」や、田中角栄の「列島改造」を経て、医療費無料化等につながるプロセスがありました。いまよくみると、安倍政権以来、じわじわと同じように地方から新しい動きが起き始めています。しかし、昔の大都市中心とは違っています。

まず2014年に滋賀県知事・三日月大造が登場します。安倍などが極右化しているために、保守が分裂するパターンです。保守の中のリベラルを野党統一候補で立てて、勝つ例が出始めます。この三日月が最初でした。彼も松下政経塾出身で原発推進派でしたが、卒原発になった。

次が自民党沖縄県連の幹事長だった翁長雄志が沖縄県知事になり、15年はJAが反旗を翻してTPPとオスプレイ反対で、山口祥義が佐賀県知事になった。三反園訓は、ふにゃふにゃになりましたが、2016年の夏に鹿児島で生まれて、それから10月に新潟で米山隆一が勝った。米山も放医研だから放射線ムラで、原発推進でしたが、反原発でやるわけです。共通した特色は、安倍が極右化したために、保守が分裂することです。昔は、地方に鉄道や高速道路を通せば、そこで工場が立地して、公共事業とその周縁に機会がつくられて、いい方に回っていたわけですが、それが空洞化して、そういうインフラを通してもストローになるだけになった。

昔はそういう恩恵の隙間ができる過疎地に、基地とか原発とか、あるいは産廃を埋めて、それで全体が潤っているように見えていた。ところがいまは、地域の本体が潤わなくなっているところに、原発や基地がある飛び地みたいなところにお金が落ちているのが浮き上がって見えて、いざなにかが起きると、周りは「お金は下りてこないのに危険だけ」というのが見えるようになってしまった。地方でシングルイシューで闘うと、押しつけられる側がみんなひっくり返すことが起こるわけです。

昨年の参議院選挙では、あまり注目されていませんが、TPPで、東北では秋田を除いてみんな野党統一候補が勝った。で、北海道もそういう勢いで、今度の安倍の不支持率が支持率を上回った最初はここからです。いま沖縄タイムスと北海道新聞で連載を引き受けていますが、もう「周辺革命」です。ともかくまずはそういうことが起き始めている。そして、「ご当地電力」のような、コツコツとした動きがあちこちで動いています。

最近訴えているのは、北海道で、一株運動ではなく筆頭株主になろうということです。北海道電力の資本金は1000億円で、70億円集めれば筆頭株主になれる。生協連とか農民連盟とか労働組合とかに出資金を出してもらう。拓銀が潰れたとき、生協が潰れそうになって100億円集めたことがある。そして泊原発の署名100万人です。ということは、1人1万円あればあっという間に筆頭株主になれる。原発をやめて、再生エネルギーをどんどん買うようにしよう、それをやろうと言っています。みんな負け犬根性が染みついていて、だから奇想天外に見えますが、できそうなおもしろいことをもっと大胆に企画する能力が必要です。

実は北海道グリーンパワーというところが18基くらい市民風車を建てています。そこに鈴木亨さんという方がいます。その人と話したとき、「北海道電力の筆頭株主になれないかなぁ、と思っているんですよ。道民の電力会社にしましょう」と。自分がクラウドファウンディングをやったりして億単位のお金を集められるようで、「できるんじゃないか」と言っています。それに「乗った」と思っていまこういう話をしています。

発想をちょっと変えると、こんな楽しいテーマはいくらでもあるんだぞ、となる。たとえば70億円集め、100億集め、筆頭株主になる。自治体がどんどん変わって出資すれば200億円になる。すると相手は潰そうとする。そうしたらまた対抗していろいろやるわけです。そうすると無視できなくなってくる。そういうダイナミックな運動、考えられないかもしれないけれど、可能だと思っています。電力会社を乗っ取る。楽しいでしょう。四国電力など周辺の資本金が小さいところからみんな可能です。

運動する人の世代交代も起こっています。3.11で生き方が変わったという普通の主婦が市民運動をやっていたりする。彼女らは昔の保守とか革新とかに縛られていない。昔は考えられなかったアイビーカットの共産党の地方議員までいたりする。

ともかく絶望することはない。安倍も苦しい状態で、政策的にはもうボロボロのところは見えてきている。ゆっくりですが、地方から大きな変化が起き始めている。憲法9条を変えることに対しても抵抗感は強く、安倍が極右の政策をつめていかざるをえなくなればなるほど、安倍支持は強くならないと思います。「これでいいのかな」という意見が出てきます。経済がちょっとでも悪くなれば、すぐはげ落ちる安倍支持です。

―――だんだん変わり目が近づいてはいる。小さな変わり目だけど、それがまたつながってくるということですね……。

金子●ひどい悪い方向にいく可能性もあるけれど、チャンスの芽でもあるのです。

かねこ・まさる

1952年東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科修了。現在慶應義塾大学経済学部教授。専門は、制度経済学、財政学、地方財政論。著書に『金子勝の食から立て直す旅』(岩波書店)、『閉塞経済』(ちくま新書)、『新・反グローバリズム』(岩波現代文庫)、『新興衰退国ニッポン』(共著、現代プレミアブック)、『「脱原発」成長論』(筑摩書房)、『資本主義の克服 「共有論」で社会を変える』 (集英社新書)、『日本病―長期衰退のダイナミクス』 (岩波新書・共著)など多数。

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