コラム/沖縄発
モノローグ「日本復帰50年目の決意」
作家 玉木 一兵
その1 今、「南西シフト」に正対するとき
お手紙の趣旨 しかと受けとめました
極端に申せば 愚かな人間のなす戦闘行為 即ち戦争は
地球上の190余の大小の国々を 二分割三分割する覇権欲をかざした
東西南北の少数の大国の 一首脳の もって生まれた資質
欲得と器量の大小 深浅の度合いによって
将に偶発的に 惹起するかと思うと 戦慄する
プウチンもバイデンも習近平も ひとりの人間です
地球という名の どでかい生命体の箱舟に乗って居て
その操縦をゆだねられているとの 自覚が 十全であるとは
とても思えません 未だに自国の生業利権にまつわる生存権を
周辺の利害関係国と徒党を組んで死守することを 第一義に
無限大の破壊力を内臓した核兵器による「抑止力なる思惑」を盾に
権謀術数をめぐらしている気がするのです
第三次世界大戦を惹き起こす恐れのある 身近な核大国の
偶発的な決断を阻止するために 各国は どのように在ればいいのか
特に 我々沖縄人(ウチナーンチュ)は 米中間の戦争の勃発によって
我が沖縄諸島が 東シナ海に歿し 消滅してしまわないためにも
日米軍事同盟下の「南西シフト」と正対し 強靭な意志をもって
「復帰50年の節目」を 戦争放棄の日本国憲法「九条の精神」で貫く
覚悟が不可欠必須ではないか そう在らねば
沖縄諸島に住む 我々沖縄人(ウチナーンチュ)に
平和な未来が 訪れることはないだろう
更に思う 地政学的に俯瞰した現在の沖縄諸島の布置は
成りゆきに委ねるならば 47分の1の地方自治体でしかなく 明らかに
日本ヤマト国家に包摂された「植民地的領土」に 堕する他はないと思う
一旦緩急あれば 140万余の沖縄人(ウチナーンチュ)は
1億2300万余の日本ヤマト国民の 平和的生存のための
99パ-セント対1パ-セントの確率の 恰好の「供物」と見做され
再び 犠牲を強いられることになるのだ
アジア極東における 先進民主主義大国日本は その事態を傍観しつつ
民主主義の原理原則に基づき 沖縄諸島を当然の如く「国防の盾」にするに違いない
その手段として 日米同盟下で太平洋と東シナ海を画する軍事体制
「南西シフト」は すでに着々と決行されているではないか
例え沖縄が 東シナ海から消滅したとしても 日本ヤマト国家国民は
「象徴天皇」を温存しつつ 東アジアにおける民主主義大国として
厳然と 在りつづけるに違いないのだ
その2 「世界平和の礎」建立の企て
貴方から先だって頂いた 手紙の示唆する洞察 すなわち
《人類は、諸民族は、諸文化は、大きなトレンドとしてみるならば
「多様なままに統一する」「融合」のプロセスにある》との進言は
人類と丸い地球の時空を 生命現象の原点から俯瞰する眼力と見識に
裏打ちされていて 私も大いに共感し賛同するものです
その視線の先に 貴方が唱道する インターネット上の
「世界平和の礎」の建立計画があることが 明確に理解出来ました
私の胸中に浮沈する若干の気づきを記すと 以下の通りです
ひとつ目は 森羅万象の生命体をのせて育みつつ 無限の宇宙を運行する
地球星に住む「人類の生存環境」が 領土・領海・領空をめぐる
大小の主権国家の 終わりのない対立抗争の渦中で いつまで持続可能かということ
ふたつ目は 国家の覇権を駆使する地位にある 中枢の人間が
その「生来の我欲我執」を 終始「自己制御」できるものなのか
その窮極の疑惑を 払拭し得ないこと 換言すれば
覇権を掌握した国のトップの指導者が「慈悲に満ちた仏陀」の
「透徹した境地」で いられるかということ
みっつ目は そんな訳で 銀河系宇宙の他の星で
人類類似の生命体が誕生していて 地球に襲来してくることがない限り
あるいは又 地球上の独立した国々が 各々の所有する国土を
固有の領土と観念し 覇権を剝き出しにして その領土・領海・領空を
統べていると思い込んでいる限り
地球上で 戦争が終焉することはあり得ないこと などです
それ故に 貴方の唱導するインターネット上に建立される
「世界平和の礎」創造の企ては 人類生存のための「祈り」と
「会議」の「場」の創出に向けた「必須な計らい」と言えます
その3 人類生存の「祈りと会議の場」オキナワ
歌文集「蔓茱萸」(つるぐみ)に集う友人たちは 現今の沖縄の政情を憂えて
静かに 歌っている
戦雲の世界の地図を覆いゆく試練に耐える九条の魂(久場勝治)
五十年の長き歳月踏みしめて辿りつきたる祖国つれなし(運天政徳)
あかときの海に向かいて酒を汲む無限の時空の滴るさみしさ(當間實光)
もはや我が沖縄諸島は 日本ヤマト国家の 一県を離脱し
5百有余年続いた琉球王国の治世と そのコスモロジーを軸に据えて
21世紀に適合した 自治小国を建国して
丸い地球に棲みついた人類の 生命体の本質を穿ちつつ
覇権大国の傲慢な私意に屈することなく 小国故の細やかで
緊密なコモンズの優位性を 前面にうち出し 人類共存の範となるよう
近隣小国を リードしていかねばならないのではないか
インターネット上に「世界平和の礎」の建設の提案をしている友人は
上述のことを 以下のように語っている(季刊詩誌あすら68号掲載
「自己決定権と共同決定権―その相補性/平良良昭」)
―多様性を包含する共生の道を、進化した地球的規模の政治システムを合意によって創造する道しかないのである。沖縄は微力であるがゆえに、世界大の矛盾の重圧に呻吟する立場ゆえに、その理想の提唱者として 大きな役割を果たしうるのではないか。
―平和的生存権の確立という目的に向かう、もう一つの道がある。国連の進化型、または「世界連邦」へという道である。「世界連邦」の本質は「すべての主権国家を包含する共同主権体」である。「すべての国家の安全を、その共同主権によって保証することを、核心的眼目とする」ことである。(省略)それは世界をまるごと変革する道であり、戦争と核兵器の廃絶を実現する道である。それは世界のピ-プルと、心ある政治家の共通の悲願であり、その実現に向けて共同する道である。
―それは、戦争の根本原因である主権国家の「無制限の主権行使」を制限するとともに、新世界創造の「共同主権獲得」を保証する唯一の道である。
我ら沖縄系日本人は 島尾敏雄さんの命名した「ヤポネシア」の一画の
鹿児島県の南西の時空に 東西1000キロ 南北400キロの海域を抱く島々を
悠久の棲家とし 世界中に散らばる沖縄系外国人50万余の人々の故郷として
「平和の砦」を築きあげ 人類生存の「祈りと会議の場」として
イチャリバチョウデー(行き逢えば同胞)の友愛精神で 世界中の人々を
分け隔てなくもてなす身となり 「万国の津梁」となって
世界に平和をもたらす 類稀なる 自治小国を建国するのだ
幸いなことに 沖縄県知事玉城デニーさんは目下 県主催の全県下の
文化イベント「美ら島おきなわ文化祭2022」の開催を 宣言している
その新聞紙上の挨拶で 次のように述べて 上述の自治小国建国の
風土と歴史と文化について その趣旨を簡潔に纏めている
―沖縄は、広大な海域に大小160の島々が点在する全国でも有数の島しょ県であり、亜熱帯の海に囲まれた美しい島々は、その自然環境と風土、地域に根差した個性豊かで多様な文化の魅力に溢れています。さらに、沖縄は、古来、諸外国等との交流を通じて多様な文化と触れあい、沖縄の精神的、文化的風土と融合させることで独特の文化を育み、伝統文化の多くは琉球王国時代に大きく花開きました。
―その後、琉球王国から沖縄県となり、沖縄戦を経たのち27年間のアメリカ統治を経験し、1972年に日本へ復帰するなど、沖縄の文化は様々な世替わりを経験する中で、困難な状況におかれても多様な彩を加えながら形成されてきました。加えて、移民県である沖縄の文化は、今日、世界中で花開いています。
そんな訳で 「復帰50年目の今」が その時 即ち
自治小国沖縄の「建国の模索の時」ではないかと 夢想した
(完)
たまき・いっぺい
1944年那覇市生まれ。本名・昭道。那覇高校から上智大文学部哲学科卒。作家、精神保健福祉士(永く玉木病院に勤める)。主な作品に、「『私の来歴』(小説集)沖縄タイムス社2019年」、「『人には人の物語』(エッセイ・論集)出版社Mugen2017年」、「『三十路遠望』(詩集)あすら舎2017年」、「『神ダーリの郷』(小説集)NOVA出版1985年」、「『曙光』(小説集)琉球新報社2006年」、「『敗者の空—沖縄の精神医療の現場から』(小説集)コ−ルサック社2022年」など。
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