編集委員会から
編集後記(第29号・2022年冬号)
―――歴史の転換点か2022年―破綻への道か・総選挙の帰結と展望・沖縄“復帰50年”
▶戦後長く続いた米ソを軸とした東西対立がソ連の崩壊によって終焉して30年を経たが、世界は新たな対立・抗争の時代を迎えている。それは米中対立を軸として21世紀の新たな様相を呈している。わずか20年前は、まだ「日本をはじめとした世界の先進に学ぶ」と鄧小平の韜光養晦(とうこうようかい<才能を隠して、内に力を蓄える>)と低姿勢路線であった。日本流に言えば「能ある鷹は爪を隠す」、少し美しく言えば「理想は高く、姿勢は低く」といったところか。徹底したその姿勢で貪欲なまでに先進国の“知や技術”を吸収した。筆者は多くの日中の労組間交流に参加したが、労組幹部や企業人、公務員に実感としてそれを感じた。その頃、日本、アメリカをはじめ先進国は、“土砂降り的な企業の中国進出”で“利”を貪ったのも事実。かくして中国は急速な成長を遂げ、世界の覇権を求めていると指弾されるに至っている。確かに香港やウイグル問題は習近平の明らかなやり過ぎであり指弾されて当然であろう。共産党支配への不安もあるのであろう。ソ連崩壊後の世界はアメリカの一極支配になるかに思われたが、そうはならず今日、米中二極、否多極化の様相すら呈している。
▶コロナに襲われる世界、人間の知恵をあざ笑うかのように猛威をふるっている。一方で世界の各地に戦火の止むときはなく、また軍事政権や独裁政権による強権発動や弾圧で罪なき学生や市民が血を流し命を奪われている。ウクライナではソ連の介入と米ソの軍事衝突、戦争すら危惧される。人間には歴史に学ぶ力、知力が無いのかと疑いたくなる。近くでは台湾危機が叫ばれている。これなどアメリカが中国を挑発しているかのようだ。戦端が開かれれば間違いなく日本も戦場になる。アベ晋三によって実質的な平和憲法逸脱―日米の集団的自衛権行使への道が開かれてしまった。
日本、中国、台湾、韓国・北朝鮮はどう考えても地政学的に隣国だ。共に生きるための良好な関係をつくりあげる外交力こそが必要なのだ。敵基地攻撃力の構築などの空論やアベ晋三が叫ぶ「積極的平和主義」という名の軍拡や軍事同盟路線を許してはならない。必ず”いつか来た道“になってしまう。アメリカでは、国民の分断を煽り続ける異形の元大統領・トランプが共和党を乗っ取り、復活目指し「クーデター」を仕掛け危機が進行と、金子敦郎さん。
▶2022年の日本、やはり歴史の転機となるのか。スタフグレーションの様相を呈しつつある日本。金子勝さんは「このままでは政治も経済も破綻だ」と脱却の道筋を説く。政治の世界では、アベ・スガに替わって登場した岸田文雄政権が、新自由主義からの脱却をベースに、宏池会的なある種の穏健路線で右翼的・国家主義的な勢力を封じ込めて政策遂行が本当にできるのかも注目される。
やはり何よりも、21年秋の総選挙をどのように総括し、展望を見つけ出していくのか。厳しさが予想される7月の参院選が迫っている。本誌では、この間、民主党や立憲民主党のブレーンとして政治改革・野党共闘路線の旗を振ってきた山口二郎さんと自公政治にも通じ、第一線の政治分析で活躍する中北浩爾さんの「2021年秋総選挙の帰結と展望」を巻頭に掲載。文字通り深掘りの重厚な対談となった。野党の政権交代へは「2009年型の戦い方と言うか、立憲民主党と国民民主党が一体となって、維新的な要素も抱き込んで無党派層の支持を得ながら、共産党には候補者を下ろしてもらうという方法しかない」でご両人はほぼ一致。ただ山口さんは、「維新の会はある意味自民党よりたちが悪い」とも指摘。中北さんはさらに大胆に、「もう一つの可能性があるとすれば、共産党の路線転換です。共産党が社会民主主義政党になれば、野党共闘で連合政権の樹立を狙えるようになります」。難題ではあるが、共産党内にも一部、そうした声があるやに聞く。日本の将来のあり姿、日本政治の行く末に大きな影響を与える重大テーマ。「総選挙の帰結と展望」対談は、長論考ですが読者諸氏の熟読・熟考をお願いします。また本号では、昨秋の総選挙で事実上の敗北を喫した立憲民主党で、国政政党では初めての女性幹事長に就任した西村ちなみさんが、困難な局面に負けず再生への道、夏の参院選への決意を熱く語る。
▶本誌のコラムニスト・頑童山人は、「現代のアリーナ(闘技場)と化したSNS世界」と、情報空間を飛び交うSMS(ショートメール)の危険性を指摘する。短絡的思考人間の大量生産であり、物事を深く考えない人間の激増は深刻な社会の危機である。アメリカに典型的な社会を覆う陰謀論の拡散の元凶でもある。コラムは、それを増幅する者の罪を指弾する。日本の現実を見る時、社会のデジタル化による社会の変化も深刻だ。「メディアが変容すれば社会も変質する」と元業界人の西村秀樹さん。“デジタル革命”によって、一昔前までは花形産業であった新聞・テレビは生き残れるのか、凋落しつつある現状をみる。一方ではアメリカの代表紙ニューヨーク・タイムズのデジタル版が大きく部数を伸ばしているとの報もある。
▶今年5月15日に沖縄は、日本への“復帰50年”を迎える。寄稿願った渡名喜守太さんは、冒頭に「最近の沖縄の状況は日本<復帰>を祝える状況にはないのは大方の一致した意見だろう」と重い一言。そして10年前の“復帰40年”の時は、「日本にとって沖縄とは何だったのか」という問いの立て方がまだ主流であった。日本にとって沖縄は同胞であり同情されるべき存在という日本に対して期待を抱く主張が多かった、と言う。しかし昨今の日本の沖縄に対する政策、特に軍事、安全保障の面を見ると、沖縄を再び戦場にする気満々であり、その意図を隠そうとする様子もない。これが日本にとっての沖縄への答えである、と。そして独立国家としてあった琉球国の歴史や近世の地位を論じ、自分たちは何者であるのかというところから出発して琉球・沖縄人として覚醒するべきである、「復帰」を総括して、視点を「沖縄にとって、日本とは何かに変えて自己決定権を行使すべき」と訴える。本文に掲載された『琉米修好条約』の原本写真は、明治の日本への併合以前に琉球国が欧米によって独立国家として認識されていたことが分かる。
宮城公子さんは、自分史に重ね、脱力的かなしさを感じながら“復帰の50年”が、占領の継続と再生産であったと語る。本誌常設の「コラム/沖縄発」で宮城一春さんは「沖縄本の世界―歴史と現状は何を語る」で出版という文化的側面から沖縄を論じる。ヤマトの人間として深く考えさせられる各論考である。(矢代 俊三)
▶金子勝さんは、日本経済の現実を客観的に説明し、危機を脱するには地域分散型ネットワーク社会を作る以外に方法はない、と述べる。金融緩和を極限まで進めているアベノミクスは無残にも失敗、スタグフレーションで身動きの取れない状況を迎えつつあるが、誰も対策をとろうとしないし、責任も取らない。日本は仲間内資本主義で,えこひいきと忖度がはびこり、不正が蔓延して、公正なルールが忘れられて久しくなってしまった。その結果、コロナ禍も実態が誰にも見えない。耳障りな事実も含めた情報の公開や反対意見を聞くことが如何に大切か、もう遅いかもしれないが、改めて痛感する。
▶金子勝さんが言っているように、今の日本で賃上げは急務である。あまねく賃金を引き上げるには、最低賃金に張り付いている非正規労働者の賃金を上げなければ始まらない。だから最賃の引上げは絶対に必要である。今年は都道府県をA~Dの4ランクに分けて最賃に差をつけている現行制度を見直すべき5年に1回の機会だが、中央最低賃金審議会は、昨年5月から全く会議を開こうとせず、今年1月26日の8か月ぶりの会議の朝に突然「2023年1月まで問題を先送りする」という提案をし、それをオンライン会議で決めてしまったようだ(内容が全く公開されないので、実態が見えていない)。コロナ禍で日々のご飯を食べられないという人たちが出ている現実下で、この対応はまさしくルールが失われていることを示している。自民党の中にも最賃の全国一律を求める議員連盟ができているなどで、調整ができていないのだとの声も聞くが、だったらますます公開の場で議論をすべきであろう。日本の経済・財政が回らなくなる前に、民主主義が壊れていくのではないかと、絶望的な気分になってしまいそうだ。(大野 隆)
季刊『現代の理論』[vol.29]2022年冬号
(デジタル29号―通刊58号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)
2022年2月6日(日)発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会
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