論壇/情報―緊迫する日韓関係打開へ声明相次ぐ

和田春樹、内田雅敏氏らが、声明<韓国は「敵」なのか>を発し賛同を呼びかけ

この声明は、昨今の日韓関係の悪化を憂慮する有志が執筆し、インターネットを通じて、日本の市民に賛同を求めるものです。78名の呼びかけをもって発信します。呼びかけ人の中には多少の意見の違いもありますが、基本的な部分で一致しています。

ご賛同いただける方は、下記の賛同フォームにてご署名ください。団体名、海外からの賛同も構いません。

賛同署名記入はこちらから

第一次の締め切りは、8月15日といたします。状況の推移を見ながら、次の行動を考えたいと思います。

日韓関係はいま、悪循環に陥っています。いま、ここで悪循環を止め、深く息を吸って頭を冷やし、冷静な心を取り戻さなければなりません。本来、対立や紛争には、双方に問題があることが多いものです。今回も、日韓政府の双方に問題があると、私たちは思います。しかし、私たちは、日本の市民ですから、まずは、私たちに責任のある日本政府の問題を指摘したいと思います。韓国政府の問題は、韓国の市民たちが批判することでしょう。

双方の自己批判の間に、対話の空間が生まれます。その対話の中にこそ、この地域の平和と繁栄を生み出す可能性があります。

       2019年7月25日 「声明 韓国は「敵」なのか」世話人一同

<声明>  韓国は「敵」なのか

はじめに

私たちは、7月初め、日本政府が表明した、韓国に対する輸出規制に反対し、即時撤回を求めるものです。半導体製造が韓国経済にとってもつ重要な意義を思えば、この措置が韓国経済に致命的な打撃をあたえかねない、敵対的な行為であることは明らかです。

日本政府の措置が出された当初は、昨年の「徴用工」判決とその後の韓国政府の対応に対する報復であると受けとめられましたが、自由貿易の原則に反するとの批判が高まると、日本政府は安全保障上の信頼性が失われたためにとられた措置であると説明しはじめました。これに対して文在寅大統領は7月15日に、「南北関係の発展と朝鮮半島の平和のために力を尽くす韓国政府に対する重大な挑戦だ」とはげしく反論するにいたりました。

1、韓国は「敵」なのか

国と国のあいだには衝突もおこるし、不利益措置がとられることがあります。しかし、相手国のとった措置が気にいらないからといって、対抗措置をとれば、相手を刺激して、逆効果になる場合があります。

特別な歴史的過去をもつ日本と韓国の場合は、対立するにしても、特別慎重な配慮が必要になります。それは、かつて日本がこの国を侵略し、植民地支配をした歴史があるからです。日本の圧力に「屈した」と見られれば、いかなる政権も、国民から見放されます。日本の報復が韓国の報復を招けば、その連鎖反応の結果は、泥沼です。両国のナショナリズムは、しばらくの間、収拾がつかなくなる可能性があります。このような事態に陥ることは、絶対に避けなければなりません。

すでに多くの指摘があるように、このたびの措置自身、日本が多大な恩恵を受けてきた自由貿易の原則に反するものですし、日本経済にも大きなマイナスになるものです。しかも来年は「東京オリンピック・パラリンピック」の年です。普通なら、周辺でごたごたが起きてほしくないと考えるのが主催国でしょう。それが、主催国自身が周辺と摩擦を引き起こしてどうするのでしょうか。

今回の措置で、両国関係はこじれるだけで、日本にとって得るものはまったくないという結果に終わるでしょう。問題の解決には、感情的でなく、冷静で合理的な対話以外にありえないのです。

思い出されるのは、安倍晋三総理が、本年初めの国会での施政方針演説で、中国、ロシアとの関係改善について述べ、北朝鮮についてさえ「相互不信の殻を破り」、「私自身が金正恩委員長と直接向き合い」、「あらゆるチャンスを逃すことなく」、交渉をしたいと述べた一方で、日韓関係については一言もふれなかったことです。まるで韓国を「相手にせず」という姿勢を誇示したようにみえました。そして、六月末の大阪でのG20の会議のさいには、出席した各国首脳と個別にも会談したのに、韓国の文在寅大統領だけは完全に無視し、立ち話さえもしなかったのです。その上でのこのたびの措置なのです。

これでは、まるで韓国を「敵」のように扱う措置になっていますが、とんでもない誤りです。韓国は、自由と民主主義を基調とし、東アジアの平和と繁栄をともに築いていく大切な隣人です。

2、日韓は未来志向のパートナー

1998年10月、金大中韓国大統領が来日しました。金大中大統領は、日本の国会で演説し、戦後の日本は議会制民主主義のもと、経済成長を遂げ、アジアへの援助国となると同時に、平和主義を守ってきた、と評価しました。そして日本国民には過去を直視し、歴史をおそれる勇気を、また韓国国民には、戦後大きく変わった日本の姿を評価し、ともに未来に向けて歩もうと呼びかけたのです。日本の国会議員たちも、大きく拍手してこの呼びかけに答えました。軍事政権に何度も殺されそうになった金大中氏を、戦後民主主義の中で育った日本の政治家や市民たちが支援し、救ったということもありました。また日本の多くの人々も、金大中氏が軍事政権の弾圧の中で信念を守り、民主主義のために戦ったことを知っていました。この相互の敬意が、小渕恵三首相と金大中大統領の「日韓パートナーシップ宣言」の基礎となったのです。

金大中大統領は、なお韓国の国民には日本に対する疑念と不信が強いけれど、日本が戦前の歴史を直視し、また戦後の憲法と民主主義を守って進むならば、ともに未来に向かうことは出来るだろうと大いなる希望を述べたのでした。そして、それまで韓国で禁じられていた日本の大衆文化の開放に踏み切ったのです。

3、日韓条約、請求権協定で問題は解決していない

元徴用工問題について、安倍政権は国際法、国際約束に違反していると繰り返し、述べています。それは1965年に締結された「日韓基本条約」とそれに基づいた「日韓請求権協定」のことを指しています。

日韓基本条約の第2条は、1910年の韓国併合条約の無効を宣言していますが、韓国と日本ではこの第2条の解釈が対立したままです。というのは、韓国側の解釈では、併合条約は本来無効であり、日本の植民地支配は韓国の同意に基づくものでなく、韓国民に強制されたものであったとなりますが、日本側の解釈では、併合条約は1948年の大韓民国の建国時までは有効であり、両国の合意により日本は韓国を併合したので、植民地支配に対する反省も、謝罪もおこなうつもりがない、ということになっているのです。

しかし、それから半世紀以上が経ち、日本政府も国民も、変わっていきました。植民地支配が韓国人に損害と苦痛をあたえたことを認め、それは謝罪し、反省すべきことだというのが、大方の日本国民の共通認識になりました。1995年の村山富市首相談話の歴史認識は、1998年の「日韓パートナーシップ宣言」、そして2002年の「日朝平壌宣言」の基礎になっています。この認識を基礎にして、2010年、韓国併合100年の菅直人首相談話をもとりいれて、日本政府が韓国と向き合うならば、現れてくる問題を協力して解決していくことができるはずです。

問題になっている元徴用工たちの訴訟は民事訴訟であり、被告は日本企業です。まずは被告企業が判決に対して、どう対応するかが問われるはずなのに、はじめから日本政府が飛び出してきたことで、事態を混乱させ、国対国の争いになってしまいました。元徴用工問題と同様な中国人強制連行・強制労働問題では1972年の日中共同声明による中国政府の戦争賠償の放棄後も、2000年花岡(鹿島建設和解)、2009年西松建設和解、2016年三菱マテリアル和解がなされていますが、その際、日本政府は、民間同士のことだからとして、一切口を挟みませんでした。

日韓基本条約・日韓請求権協定は両国関係の基礎として、存在していますから、尊重されるべきです。しかし、安倍政権が常套句のように繰り返す「解決済み」では決してないのです。日本政府自身、一貫して個人による補償請求の権利を否定していません。この半世紀の間、サハリンの残留韓国人の帰国支援、被爆した韓国人への支援など、植民地支配に起因する個人の被害に対して、日本政府は、工夫しながら補償に代わる措置も行ってきましたし、安倍政権が朴槿恵政権と2015年末に合意した「日韓慰安婦合意」(この評価は様々であり、また、すでに財団は解散していますが)も、韓国側の財団を通じて、日本政府が被害者個人に国費10億円を差し出した事例に他なりません。一方、韓国も、盧武鉉政権時代、植民地被害者に対し法律を制定して個人への補償を行っています。こうした事例を踏まえるならば、議論し、双方が納得する妥協点を見出すことは可能だと思います。

現在、仲裁委員会の設置をめぐって「対立」していますが、日韓請求権協定第3条にいう仲裁委員会による解決に最初に着目したのは、2011年8月の「慰安婦問題」に関する韓国憲法裁判所の決定でした。その時は、日本側は仲裁委員会の設置に応じていません。こうした経緯を踏まえて、解決のための誠実な対応が求められています。

おわりに

私たちは、日本政府が韓国に対する輸出規制をただちに撤回し、韓国政府との間で、冷静な対話・議論を開始することを求めるものです。

いまや1998年の「日韓パートナーシップ宣言」がひらいた日韓の文化交流、市民交流は途方もない規模で展開しています。BTS(防弾少年団)など、K-POPの人気は圧倒的です。テレビの取材にこたえて、「(日本の)女子高生は韓国で生きている」と公然と語っています。300万人が日本から韓国へ旅行して、700万人が韓国から日本を訪問しています。ネトウヨやヘイトスピーチ派がどんなに叫ぼうと、日本と韓国は大切な隣国同士であり、韓国と日本を切り離すことはできないのです。

安倍首相は、日本国民と韓国国民の仲を裂き、両国民を対立反目させるようなことはやめてください。意見が違えば、手を握ったまま、討論をつづければいいではないですか。

2019年7月25日

呼びかけ人

<呼びかけ>(*は世話人) 2019年7月29日 現在78名 

青木有加(弁護士)秋林こずえ(同志社大学教授)
浅井基文(元外務省職員)阿部浩己(明治学院大学教授)
庵逧由香(立命館大学教授)石川亮太(立命館大学教員)
石坂浩一(立教大学教員)*岩崎稔(東京外国語大学教授)
殷勇基(弁護士)内海愛子(恵泉女学園大学名誉教授)*
内田雅敏(弁護士)*内橋克人(評論家)
梅林宏道(ピースデポ特別顧問)大沢真理(元東京大学教授)
太田修(同志社大学教授)大森典子(弁護士)
岡田充(共同通信客員論説委員)*岡本厚(元「世界」編集長)*
岡野八代(同志社大学教員)荻野富士夫(小樽商科大学名誉教授)
小田川興(元朝日新聞ソウル支局長)大貫康雄(元NHKヨーロッパ総局長)
勝守真(元秋田大学教員)勝村誠 (立命館大学教授)
桂島宣弘(立命館大学名誉教授)金子勝(慶応大学名誉教授)
我部政明(琉球大学教授)鎌田慧(作家)
香山リカ(精神科医)川上詩朗(弁護士)
川崎哲(ピースボート共同代表)小林久公(強制動員真相究明ネットワーク事務局次長)
小林知子(福岡教育大学教員)小森陽一(東京大学名誉教授)
在間秀和(弁護士)佐川亜紀(詩人)
佐藤学(学習院大学特任教授)佐藤学(沖縄国際大学教授)
佐藤久(翻訳家)佐野通夫(こども教育宝仙大学教員)
島袋純(琉球大学教授)宋 基燦(立命館大学准教授)
高田健(戦争させない・9条壊すな!
総がかり行動実行委員会共同代表)
髙村竜平(秋田大学教育文化学部)高橋哲哉(東京大学教授)
田島泰彦(早稲田大学非常勤講師、
元上智大学教授)
田中宏(一橋大学名誉教授)*
高嶺朝一(琉球新報元社長)谷口誠(元国連大使)
外村大(東京大学教授)中島岳志(東京工業大学教授)
永田浩三(武蔵大学教授)中野晃一(上智大学教授)
成田龍一(日本女子大学教授)西谷修(哲学者)
波佐場清(立命館大学コリア研究
センター上席研究員)
花房恵美子(関釜裁判支援の会)
花房敏雄(関釜裁判支援の会
元事務局長)
羽場久美子(青山学院大学教授)
平野伸人(平和活動支援センター
所長)
広渡清吾(東京大学名誉教授)
飛田雄一(神戸学生青年センター
館長)
藤石貴代(新潟大学)
古川美佳(朝鮮美術文化研究者)星川淳(作家・翻訳家)
星野英一(琉球大学名誉教授)布袋敏博(早稲田大学教授・朝鮮文学研究)
前田哲男(評論家)三浦まり(上智大学教授)
三島憲一(大阪大学名誉教授)美根慶樹(元日朝国交正常化交渉日本政府代表)
宮内勝典(作家)矢野秀喜(朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動事務局長)
山口二郎(法政大学教授)山田貴夫(フェリス女学院大学・法政大学非常勤講師、ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク事務局)
山本晴太(弁護士)和田春樹(東京大学名誉教授)*

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第10回日韓NCC協議会 共同声明

『正義と和解と共生平和を広げる宣教の道:日韓教会の使命』

韓国キリスト教教会協議会(NCCK)と日本キリスト教協議会(NCCJ)は、主イエス・キリストの恵みと導きによって2015年以降、4年ぶりに第10回日韓NCC協議会を東京にて開催した。この協議会を通して確認した私たちの立場をここに表明する。

戦後、日本帝国主義による植民地支配から解放された朝鮮半島は、民衆の決して望まない南北分断と独裁体制に直面することとなった。NCCKは、1970年代以降、韓国民主化闘争の隊列に共に立ち、NCCJは戦争と植民地支配に対する責任を懺悔し、韓国キリスト教の民主化闘争を支援連帯してきた。日韓NCCは和解と平和の主に導かれ連帯する中で、1984年「東山荘会議」を通して世界の教会と共に朝鮮半島の和解と平和統一を願う、注目すべき働きを担うことをも経験した。

韓国では、2016年~2017年、ローソク革命によって文在寅政権が誕生し、社会的民主化が進展し、2018年には3回にわたる南北首脳会談と2回にわたる朝米首脳会談が成功するなど、朝鮮半島の平和プロセスが急速に進展することとなった。一方、日本では、2012年第2次安倍政権が誕生し、急激な右傾化が進んできている。特に、2013年「特定秘密保護法」をはじめ、様々な安保関連法が制定され、さらに憲法9条の改正をもくろむことで戦争ができる国づくりを目指している。歴史修正主義に立脚したこのような流れによって立憲民主主義の根幹が揺さぶられており、戦争と植民地支配に対する責任はこれまでと同様放棄されたままである。朝鮮半島の平和体制の確立は、すなわち北東アジアの平和の定着を意味し、この課題の実現に向けて地域国家間の緊密な協力が要請されているにもかかわらず、韓国と日本両国間の協力関係は成立せず、葛藤の不協和が継続している。日本軍「慰安婦」(性奴隷)問題と強制徴用労働者(徴用工)問題が解決されずにあることもその葛藤の一因となっている。

これらの問題の根底には戦後日本の天皇制の問題がある。天皇制を問うこと自体が今日にるまでも 根強くタブーとされる政治文化は克服されていない。これまで、明仁天皇によって、追悼と慰問の旅が繰り返されたが、結局、戦争と植民地支配の歴史責任が不問にされたまま、「平成」の30年が過ぎ、生前退位による天皇の代替わりがなされ、本年秋には、皇室の宗教行事に過ぎない「大嘗祭」(天皇の神格化)が国家行事として執り行われようとしている。これは憲法の政教分離原則を破り、信教の自由を脅かす恐れを抱いている。戦後74年間、日本は、戦争と植民地支配そしてその結果として、朝鮮半島の南北の分断と戦争に対するどのような責任ある態度も取らずにいる。これにより、北東アジアにおける和解と平和の実現は、まだ課題として残っている。

北東アジアの安全と平和の実現を妨げる問題として原子力発電所と核兵器のことも指摘せざるを得ない。日本においては 2011年東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所による放射能流出事故が起きたにもかかわらず、今日まで日本政府は事件の真相を究明せず、地域住民たち、とくに子どもたちが受けた深刻な健康被害を隠蔽している。また、廃炉作業の安全性が疑問視されている状況にもかかわらず外国人労働者を動員している。一方、韓国政府は、脱核宣言にもかかわらず、新規原子力発電所を建設する実質的な原子力発電所拡大政策を進めている。これはすべて非常に憂慮すべき事態である。

私たちは、この深刻な現実を直視しつつ、発展的な日韓関係の形成と北東アジアの平和の定着のための教会間の協力の重要性を改めて認識し、さらに前向きな発想の転換によって両国政府が相互に協力することを期待している。特に、ハノイ朝米首脳会談以降、大きな困難に陥っている朝鮮半島の平和プロセスの進展のための多角的な努力が結実することを願ってやまない。

今日、日韓両国は先進産業社会が普遍的に直面する少子化高齢化と外国人移住労働者の持続的な増加の時代を迎えている。これは、国境に縛られず、絶えず利潤追求するグローバル資本主義が必然的に招いた現象である。その過程から生じた国内の貧富の差の拡大、社会的セイフティネットの劣化、さらにヘイトスピーチに象徴される外国人排斥も深刻な社会問題となっている。そればかりでなく、性的少数者をはじめとする様々な社会的少数者に対する差別と憎悪もまた看過できない問題となっている。

日本では戦後74年間温存されてきた在日コリアンに対する民族差別が朝鮮半島の情勢と日韓関係の 悪化によってさらに深刻化している。特に2010年から始まった高校無償化から、日朝関係という外交問題と国民感情への配慮という、根拠なき理由によって朝鮮学校を差別的に排除する政策を政府が継続してきたことは、「官製ヘイト」と言うほかない。

日韓両国の社会には未だ根深い家父長的男性優位の体質が温存され、女性と子ども、そして高齢者の軽視が生じ、特に女性の身体の植民化と商品化が社会の病弊となっている。このことに、日韓両国の教会はわたしたちの身体と性が神から与えられたものであることを悟り、それらが営利と搾取の手段とならないように努めていかなければならない。

韓国では労働者の基本権が完全には保障されていないばかりでなく、相変わらず高い比率を占めている非正規労働者たちが非人間的な状況に置かれている。雇用許可制に縛られた移住労働者たちの待遇はさらに劣悪な状態にある。日本においても、これまでの技能実習制度の根本問題が何ら解決されないまま、入管法の改定による「特定技能」という在留資格の設置によって、移住労働者の人権侵害がさらに 深刻化しようとしている。両国の教会は排除と嫌悪を乗り超えて、社会的少数者を受け容れる社会を実現するために献身することが求められている。

私たち日韓両国の教会は、疲弊した産業社会の矛盾を直視しながら、教会の存在理由として宣教とは何であるかを改めて確認しようとする。「キリストの体」としての教会についての再認識とは、止めどなき人口減少に伴う教勢衰退に対して教勢回復を期待することではない。それよりも、急激に変貌していくこの世界の辺境(margins)において傷つけられ呻吟するいのちに、キリストと共に寄り添い、苦痛に共感しつつ、共に歩むことこそ、キリストがわたしたちに託された宣教の本質であるという信仰に従うものである。教会がその宣教の根本精神を忘却し、自己安逸と満足に浸り、さらには教会の中にさえ差別と排除を容認し、セクシュアルハラスメントをはじめとする暴力を黙認する場合、教会は地域社会の中で信頼を失うばかりでなく、孤立するほかないことをわすれてはならない。

「キリストの体」として教会は、聖霊に満たされ、いのちの喜びと感謝があふれる共同体を目指す。従って、この世に遣わされた「寄留者」として正義と平和、そしていのちが喪失されていくこの世において、さまよう魂に寄り添われるキリスト(ヘブライ書3:12)に従う宣教の課題を託されている。

教会は、正義と平和、いのちの価値を実現する宣教の使命を担わなければならない。この度の協議会を通して、日韓教会は、北東アジアにおいてその高貴な使命を担うことを確認し、次の具体的課題をここに提する。

提案

◆ 北東アジアの市民社会の連帯を通して朝鮮半島における平和体制を確立し、平和憲法9条を守り、さらに恒久的な平和のための「北東アジア共同の家」を建てることができるよう、日韓両国の教会が協力する。

◆ 北東アジアは世界において核兵器の被害と原発事故の被害を共に経験した唯一の地域でありながら、核兵器と原子力発電所を放棄できずにいることを省み、将来日韓教会は全教会的な脱核運動を通して、いのちと平和を実現していくことに寄与する。

◆ 偏狭なナショナリズムを克服し、正しい歴史認識を共有するための、若い世代に対する歴史教育強化に日韓両国の教会は協力する。

◆ 社会と教会で蔓延している性の不平等とセクシュアルハラスメントを乗り越えて性の正義を実現するために、日韓教会は協力する。

◆ 両国教会間の協力と連帯のための青年リーダーシップと子どもたちに平和の世界に向けた感受性の育成のために、日韓教会が共同の努力を図る。

◆ グローバル経済の中で「南」の世界に貧困をもたらす責任を痛感しながら、難民・移住労働者など「寄留者」に寄り添い、その人権を守るために、両国教会は協力する。

◆ 韓日両国教会の間では、これらのすべての課題を円滑に遂行するために両教会の間のワーキンググループを組織して頻繁に協議する。

2019年5月31日  第10回日韓NCC協議会参加者一同

論壇

  

第20号 記事一覧

  

ページの
トップへ