特集●米中覇権戦争の行方
グレタさん効果と緑の党の大躍進
ドイツで緑の党主軸の政権が誕生するか
ベルリン在住 福澤 啓臣
I グレタさん効果
グレタの一人ぼっちのストライキFridays for Future
ドイツに飛び火したFridays for Future運動
地球はもう燃えている
若者たちの意識とライフスタイルの変化
Fridays for Future運動のさらなる広がり
II 緑の党の大躍進
EU議会選挙における緑の党の大躍進
18歳未満の間では緑の党が圧倒的に強い
緑の党はどんな政党だ?
Fridays for Future運動が2021年まで持続すると、緑の党の政権獲得は可能だ
「地球はあなたの両親からあなたへと与えられたものではない。あなたの子供があなたに貸し出したものだ。人は祖先から地球を継承するのではない。子供たちから借りているのだ」 (アメリカ・インディアンのことわざ)
もし今週の日曜日にドイツ連邦議会総選挙があったなら、緑の党は、現在の与党のキリスト教政党(CDU/CSUの姉妹党)を抜いて第1党になり、党首のロベルト・ハーベック氏はドイツの首相になっていただろう。このような結果がテレビや大手のアンケート調査社によって6月半ばに報道された。同じアンケートによる政治家人気投票で、同氏は現首相のメルケル氏と一位争いを続け、首相候補とも見なされている。
このような緑の党の大躍進は5月26日のEU議会選挙でまず明確に現れた。同選挙で20.5%を得票し、キリスト教政党の27%についで、第二党になったのだ。その後も同党の躍進は止まらず、アンケート上だが6月に入って、第一党の座およびハーベック氏の首相候補とまで進んだのである。
この躍進を支えるのは、スェーデンの少女グレタ・トゥーンベリ(16歳)が昨年8月に始めたFridays for Future(将来のための金曜日)運動の結果、つまりグレタ効果だとマスコミではいわれている。
I グレタさん効果
グレタの一人ぼっちのストライキFridays for Future
グレタ(当時15歳)は2018年8月20日の金曜日にスェーデンの帝国議会の前で、地球の気候を守るためのストライキ(Fridays for Future)を一人で始める。彼女はまだ義務教育を終えていないので、本来なら学校の授業を受けなければならない。だから、彼女が掲げたプラカードには気候を守るために学校の授業ストライキをしていると書かれている。
マスコミの目を引き、「なぜ金曜の授業の日なのか、土曜日でもいいじゃないか」との質問に、「授業に出ないで行動すること、つまりストライキをすることによって、このテーマの緊急性と自分の本気度を訴えている。週末に立っていてはストライキにならない」と答えた。さらに「自分の住んでいる家が燃え始めたら、勉強なんかしていられない。我々の地球にはもう火がついている。だから、直ちに何かしなければならない。我々はパニックに陥らねばならない」と付け加えた。
グレタは自閉症、具体的にはアスペルガー症候群を患っていたこともある。同患者には、往往にして特定な分野への強いこだわりおよび集中力が見られる。彼女は危機的な状況が生々しく感じられて、それを一人ででも防ごうという強い意識と意志の力を備えている。気候変動の阻止を求めるストライキもその表れだ。
グレタの一人ぼっちのストライキは多くの人の目に止まり、昨年12月にポーランドのカトヴィツェで開かれた国連気候会議でアッピールする機会を与えられた。さらに毎年1月末にスイスのダボスで開かれる世界中の経済人、各国首脳が参加する世界経済フォーラムに今年招かれ、いかに地球が危機に瀕しているかを訴えることができた。4月にはEU議会と英国議会で同じように訴えた。
ドイツに飛び火したFridays for Future運動
彼女の勇敢な行動と主張は今年に入りドイツの若者にアピールし、Fridays for Future (以下FFF)の「学校サボってデモに行こう」運動は瞬く間に広がった。半年も経たない間に参加者が数百人から数千人になり、さらに数万人と増え続けた。授業をサボって、デモをすることに関して、是非が議論され、マスコミにも取り上げられた。FFFの高校生や大学生がテレビの主なトーク番組に招かれ、いわゆる大人の政治家や評論家と議論を交わした。気候問題専門家たちがFFFの主張は正しいと積極的に後押しをした。
FFFの参加者はギムナジウム(5年生から12年生までの中高一貫教育校)の生徒たちと大学生だ。このまま温暖化が進めば、その被害をもろに受けるのは自分たちの世代、あるいはその子供たちの世代だという危機感が伝わったのだ。若者たちに触発されて、学者たち(すでに2万8千人が支援署名)、教師たち、親たちなどのグループが生まれている。運動の広がりの背景には、加えて環境保護に関して世界をリードしてきたドイツがここ2年ほど失速しつつある経緯がある。2015年に結ばれたパリ気候協定では、先頭に立って協定成立に奮闘したドイツだったが、昨年には自ら設定した2020年の目標(1990年のCO2排出量の40%削減)が達成できないと認めざるを得なかった。
FFFは司令する中心がなく、それぞれの都市や町で参加者が自主的に集まり、集会やデモなどを行なう草の根組織になっている。FFF のウェブサイトを見ると、300ぐらいの都市や町にFFFのグループが存在している。まだ組織されていない場合には、言い出しっぺが手を挙げて、やるぞと言って、始められるようになっている。あるいは組織作りなどについて他のグループに問い合わせることができるし、支援を仰ぐことができる。金曜日の授業に出ない時には、手回し良く欠席届けの用紙までダウンロードできる。
義務教育を受けている生徒の場合には親の署名が必要だが、多くの親は理解を示しているようだ。学校側に理解がある場合には、欠席日数が増えても落第などしないように、金曜には課外授業とかに振り分けたりしている。ベルリンの金曜デモには先生たちが引率して、五年生、六年生が課外授業として参加している姿も見受けられる。グレタやFFFの若者たちが主張している「地球はすでに危機に瀕している。大人たちに任せておけない」という認識が、ドイツではこの半年で深く浸透したからである。
地球はもう燃えている
地球の危機的な状況を踏まえて2015年にパリ気候協定が発効した。同協定は、1997年に採択された京都議定書以来18年ぶりに結ばれた気候変動抑制に関する多国間(197国)協定で、その出発点になったのは、国連関連機関のIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change気候変動に関する政府間パネル)などによる、 平均気温が2100年には3度以上上昇するだろうとの予想だ。すると、水不足人口は11億~32億人に増え、飢餓人口が1億2000万人になる。洪水により1500万人(アジアでは700万人)が生命の危険にさらされ、営養失調や感染症や熱波などによる死者が増加すると警告している。
そのため、産業革命前からの地球の平均気温上昇を今世紀末までに2度未満に抑え、できれば1.5度未満を目指すという約束である。 この協定の特徴は、協定批准国がそれぞれ削減目標を作成・提出し、その目標を達成するための国内政策を実施する義務を負っていることである。
現在の世界のCO2排出の最大国は中国で27%と多い。ドイツは2%を排出している。確かに少ないが、誰かが始めないと、何も始まらないと若者たちは言っている。それに、これまでドイツは工業国として200年もの間CO2を排出してきたのである。その上、現在は20世紀後半に生まれた団塊の世代が歴史的に最も平和で、経済的に最も恵まれた時代を楽しんでいる。その反面、自分たちの繁栄のために世界中の資源をかき集め、消費している。
そして残していくのは、取り尽くされた資源およびゴミの山である。あるいは、プラスチックに満たされた海である。何もしなければ、2050年にはプラスチックの重さが海のすべての魚の重さを超えると予想されている。原子力エネルギー利用と核のゴミの最終処分についても同じことが言える。これまでの世代が原子力の恩恵を受けた後、残されたツケを払わされるのは次の世代とその子供たちである。このような世代間の不公平さが認識されるにつれて、若者たちが抗議の声を上げ始めたのだ。
若者たちの意識とライフスタイルの変化
気候問題の解決のために自分たちができることは、まず自らのライフスタイルを変えることだと彼らは言う。これまでの消費中心の豊かな社会への反省として、具体的には車優先の否定、肉食の限定、プラスチック使用反対、商品購入の際のカーボン・フットプリント(CO2の排出量)の重視、休暇の時の飛行機の使用限定などが考えられる。そのために多くの家庭で議論され、親たちも渋々、あるいは積極的に賛成するようになっている。
ドイツでは若者たちのライフスタイルが明確に変わりつつある。 例えば、金曜日はCO2ニュートラル(CO2の排出量と吸収量を同じにする)の日にする。だから車にはできるだけ乗らないとか、あるいは肉食は避ける。ドイツでは菜食主義(ベジタリアン=肉食をしない食事様式)、さらに完全菜食主義(ヴィーガニズム=卵や乳製品も含めた動物性の食品を口にしない)が若者たちの間で広がっている。
肉食が大きなターゲットになっているのは、動物愛護の面もあるが、世界の水の消費量から見ると、工業が2割、生活水が1割、残りの7割は農業だからである。そして牛や豚の畜産に多量の水が使われている。製品が消費者の手に届くまでに投入された水の消費量を示す仮想水という概念がある。1kgの牛肉の製造には15500リッターの水が必要だ。豚肉には5500リッター、コメには2500リッター、ジャガイモには130リッターが使われる。ちなみに日本は世界最大の農産物輸入国である。そのため食料輸入という形で仮想水を大量に消費している。牛丼一杯に2000リッターほどの水が必要との計算もある。
ドイツではこの30年間に昆虫が75%以上減ったと報告されている。その主な原因は農薬の散布や単一栽培などによる農業である。 果樹の受粉などに必要なミツバチが減少し、問題になっている。温暖化によっても多くの生物種の絶滅が起きていて、生物多様性の脅威も問題視されている。例えば、北極の氷が溶けて、北極熊の生息地がますます狭められているように。
ドイツは自動車大国なので、速度無制限のアウトバーンに象徴されるように、これまでの交通政策は自動車優先だったが、最近はいかに車交通を制限するかが議論されている。1kmの移動に排出されるCO2の量(g/人km)を比べてみると、歩行と自転車は0 g、鉄道は19g、航空機は96g、自家用自動車は137gだ。
市内への車の乗り入れを制限するために、ロンドンのように市内料金制の導入が検討されている。さらに税金が非常に安い航空燃料によって可能になっている格安飛行機にできるだけ乗らないようにといわれている。抜本的な対策として、CO2を大気に撒き散らしながらの生産性向上と利潤追求の経済原則を根本的に改めるべきだという声が高まり、一早いCO2税の導入が要求されている。
Fridays for Future運動のさらなる広がり
3月15日には世界的にFFFのデモが行われ、150万人が参加したと報道された。
4月8日にFFFはベルリン工科大学とフラウエンホーファー研究機構(ヨーロッパ最大の応用研究機構)の学者たちと作成した要求カタログを発表した。
・温暖化ガス排出を2035年までにゼロにする。(政府は2050年)
・脱石炭を2030年までに達成する。(政府は2038年)
・2035年までに100%再生可能エネルギーで賄う。(政府は2050年)
2019年中に次の目標を達成する。
・化石燃料への補助金を全廃する。
・石炭火力発電所の四分の一を稼動停止する。
・CO2税を導入する。一トン当たり180ユーロが妥当である。
6月21日(金)にはアーヘンでFFFのデモと大集会があり、4万人以上が参加した。夏休みが始まる前の週で、多くの学校が繰り上げ休みをしたので、若者たちはドイツ全国から駆けつけた。国際FFFと銘打っての動員だったので、17カ国から若者たちが参加した。高齢者も一緒にデモをしていた。彼らは、「我々は、自分たちの繁栄と楽しみのために地球という唯一の住処を汚して、使い尽くして、次の世代に残していこうとしている。全く利己主義で凝り固まっている」と反省し、恥ずかしいと言っていた。
FFF運動は、これまでドイツ、スイス、英国、オーストラリア、オランダ、ベルギー、カナダ、フランス、オーストリア、アイルランド、スコットランドで見られる。しかし、日本、韓国、 中国、東南アジアの国々、ロシアでは全くか、あるいはほとんどない。FFF関係の報道も少ないようだ。
II 緑の党の大躍進
政治および政党・政治家を動かすには、正当な主張やデモだけでは充分ではない。最も有効なのは、選挙における投票である。ドイツでは1980年前半に核弾頭付き中距離ミサイル配備に反対して100万人デモをしたが、同兵器は結局配備された。あるいは2010年にメルケル首相が社民党と緑の党の連立政権による脱原発(2000年)を覆した時に50万人が反対デモをしたが、彼女は脱脱原発を実行した。メルケル氏が再度の脱原発に踏み切ったのは、2011年3月の福島の大事故の直後の州選挙において、戦後一貫してキリスト教政党の牙城であったバーデン=ヴュルテンベルク州で緑の党に政権を奪われてからだった。
ドイツは戦後これまで二大政党制に近く、キリスト教政党(CDU/CSU)と社民党がそれぞれ国民政党として40%前後の得票率を誇り、小政党の自民党と代わる代わる連立政権を組んできた。21世紀に入ってから、このパターンが崩れ、2005年以来合わせて10年間も両国民政党による大連立政権が続いている。国民の間では全く人気がない。
昨年以来ドイツでは、パリ協定の2020年の目標を果たせないことが同政権の失政であると批判される中、今年の初めから市民運動の台風の目になったFFFにより政治の潮目が変わったのだ。その変化を顕著に表したのが5月26日のEU議会選挙(751議席)であった。
EU議会選挙における緑の党の大躍進
英国、フランス、イタリアでは反EU勢力が大きく伸ばす中、ドイツでは緑の党が躍進した。これまでの第一党勢力であるキリスト教政党は大幅に票を失ったが、28%(14年のEU選挙では35.3%)で第一党の地位を守った。緑の党は五年前の得票率の倍近い20.5%(10.7%)を集め、社民党の15.6%(27.3%)を追い越し、第二の勢力になったのだ。懸念された右翼政党AfD(ドイツのための選択肢)は10%(7.1%)にとどまり、市民社会勢力は胸をなで下ろした。
緑の党の躍進ぶりを年齢別に見てみると、下の表のように18歳から60歳までの投票者の間では緑の党が第1党になっている。若ければ若いほど同党への支持が増えているのが分かる。反対に年齢が高くなればなるほど、保守党への支持が増えている。45歳になって初めて保守党への支持が若い世代の票を上回っている。如実なグレタ効果といっていい。この世代間の違いはキリスト教政党にとって頭の痛い問題だといってもいいだろう。高齢化社会といわれても、高齢者の人口が先細りしていくのに対し、投票権を持った若者人口は増えていくのだから。
表:EU議会選挙における年齢別三政党得票率
政党⧹年齢 | 18-24 | 25-34 | 35-44 | 45-59 | 60-69 | 70- |
---|---|---|---|---|---|---|
キリスト教政党 | 12% | 18 | 23 | 26 | 33 | 47 |
社民党 | 8% | 10 | 11 | 14 | 20 | 24 |
緑の党 | 34% | 25 | 24 | 24 | 18 | 9 |
18歳未満の間では緑の党が圧倒的に強い
ここにより若い世代の投票傾向を示した試みがある。ベルリンのあるギムナジウムの生徒たち(11歳から18歳まで)にEU議会選挙に参加可能と仮定して、投票してもらったのだ。ちなみにギムナジウムは日本でいえば、大学進学校に当たる。つまり、エリート層および中間層を形成する階層の子弟が通う中等教育校である。
緑の党が58.4%と過半数を制している。与党のCDUと社民党は0.9%および6.7%と全く人気がない。一つの学校の生徒たちの投票に過ぎないし、この傾向がそのまま次の国政選挙に反映されることはないだろうが、キリスト教政党にとっては悪夢のような結果だ。そのため、今度の選挙の後、政府与党も若者たちの票を取り戻すには、気候問題を積極的に取り上げなければいけないという考えになってきている。
早速メルケル首相を中心に環境、運輸、内務、経済の担当大臣が鳩首して、法案を練り、この秋までに気候変動問題を包括的に取り上げる気候変動防止法を上程する運びになっている。その内容次第では票をある程度取り戻せるかもしれないが、これまで国民政党として、あらゆる年齢層、階層および地域から満遍なく票を集めていたので、ある特別法案のためだけに政策を急激に変えることは困難である。特に経済界の支持を失うような思い切った政策は打ち出せないだろう。
FFF運動が始まった頃には、子供たちはしばらくしたら、熱が冷めるだろうと冷ややかな目で眺めている大人が多かった。ところが、熱が冷めるどころか、ますますヒートアップし、EU議会選挙を皮切りに、緑の党の躍進がその後の政治アンケートにも現れてくると、真剣な目で見るようになった。
FFFの若者たちは、投票権を16歳までに下げるべきだと主張している。80歳の高齢者は後数年しか生きないではないか。彼らに投票権があり、地球の環境条件を決めているのに、将来この地球上で60年以上も生きる次の世代に投票権がないのは大きな不公平だというのだ。確かに一理ある。
緑の党はどんな政党だ?
その若者たちの間で大変好感が持たれている緑の党は、環境保護を目標として1979年に設立された。ドイツ再統一後1993年に元東独政党の「同盟90」と統合し、「同盟90/緑の党」と名乗る。この40年近く政党としてドイツの反原発運動を率いてきた。1998年から2003年まで社民党と連立政権を組み、2000年に最初の脱原発を達成。平均して10%前後の票を得ている。福島事故の直後は支持が増えて、キリスト教政党の牙城であったバーデン=ヴュルテンベルク州でクレッチマー氏による最初の緑の党政権が誕生。5年後の州選挙でも同氏は政権を維持。
環境保護政党を脱皮しようと、様々な社会問題に対して積極的に政策を提案している。難民問題では多数の難民受け入れに賛成。一国優先主義を否定し、EU優先主義を掲げている。若者たちの支持が多い理由は、同党の温暖化阻止の政策がFFFの要求に最も近いことがある。それと筆者の考えでは、緑の党は現在の政党の間では、利権や談合政治にまみれていない印象を与えている、つまり清潔感があるからだろう。
緑の党の党員数は8万人で、党員の平均年齢は49歳、女性の割合は41%と政党の中では一番高い。連邦議会の議席数は67名(709名)で、州議会の議員数は234名(1873名)である。
2018年の1月以来ロベルト・ハーベック氏(50歳)とアナレナ・ベルボック氏(39歳)の二人が党首として活躍している。同党は男女二人の党首制を実施している。ハーベック氏は哲学者でもあり、小説家でもある。2002年以来党員 。州政府の副首相および環境・農業大臣を歴任した。ベルボック氏は政治学を専攻し、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで修士卒業。2005年以来党員。緑の党の安全保障問題専門報告員の経歴がある。
Fridays for Future運動が2021年まで持続すると、緑の党の政権獲得は可能だ
EU議会選挙以降も緑の党の人気は続いている。6月半ばに集計された二つの公共テレビ局とForsa調査社によるアンケート「今度の日曜日に連邦議会選挙があったら、どの政党に投票しますか」では、二つのアンケートで第一党になっている。
キリスト教政党 | 緑の党 | 社民党 | AfD | 自民党 | 左翼党 | その他 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
第一局 | 25% | 26 | 12 | 13 | 8 | 7 | 9 |
第二局 | 27% | 26 | 14 | 13 | 7 | 7 | 6 |
Forsa | 24% | 27 | 11 | 13 | 9 | 8 | 11 |
現在の時点でこれらの支持率を組み合わせてみよう。まず緑の党が主導して社民党と左翼党による中道左派政権が成立可能だ。キリスト教政党と自民党による中道右派政権はAfDを入れると可能だが、現在どの政党もAfDとは連立しないと明言しているので、成立には至らない。もう一つの可能性は、緑の党とキリスト教政党との大連立政権だ。大連立政権が長く続いているので、人気はないが、確率は非常に高い。その場合、第一党が緑の党なのか、キリスト教政党なのかで、首相も決まるし、政治の方向も大きく変わるだろう。党首ハーベック氏の首相の可能性だが、アンケート「次の選挙で誰が首相として適切だと思いますか」によれば、キリスト教政党の首相候補と目されているCDU党首アンネグレート・クランプ=カレンバウアー氏に対して 20%以上も水をあけている。
既成政党はこのFFFの運動を一過性の現象として捉えたがっている。しかし、地球温暖化問題は、彼らの運動を一過性に終わらせない持続性と緊迫性を孕んでいる。さらにこれから10年間ほどの間に人工知能とディジタル革命とそれに伴う経済システムの変革、そしてそれらがもたらす社会の大変化が待ち構えている。これらの大変化に最も適応した政策を緑の党が果たして打ち出せるかだ。ハーベック氏とベルボック氏はトーク番組などで聞く限り、他の政治家よりこれらの将来の問題に対してより深い思考を巡らしている印象を受ける。
最後になるが、グレタは6月10日に9年生として卒業できたそうだ。つまり、義務教育を修了したのである。この1年間は上の学校には行かないで、気候問題に専念するとのこと。9月にはニューヨークの国連で開かれる気候サミットで演説をする。さらに12月にはチリで行われる国連気候会議でも彼女の演説が予定されている。現政権が抜本的な温暖化政策を打ち出せず、グレタの活動とFFFの運動が2021年秋の連邦議会選挙まで持続すれば、緑の党主導による連立政権およびハーベック氏の首相就任は十分射程内に入ってくる。
ふくざわ・ひろおみ
1943年生まれ。1967年に渡独し、1974年にベルリン自由大学卒。1976年より同大学の日本学科で教職に就く。主に日本語を教える。教鞭をとる傍、ベルリン国際映画祭を手伝う。さらに国際連詩を日独両国で催す。2003年に同大学にて学位取得。2008年に定年退職。2011年の東日本大震災後、ベルリンでNPO「絆・ベルリン」(http://www.kizuna-in-berlin.de)を立ち上げ、東北で復興支援活動をする。ベルリンのSayonara Nukes Berlin のメンバー。日独両国で反原発と再生エネ普及に取り組んでいる。ベルリン在住。
特集・米中覇権戦争の行方
- 米中覇権戦争から世界の二大ブロック分割へ法政大学教授/水野 和夫
- 立憲民主党は参議院選挙を「敗北」という視点から総括できるか立憲民主党参議院議員/石橋 通宏
- 緊迫する米中貿易戦争の現局面を読む中国・浙江越秀外国語学院特任教授/平川 均
- 米中「AI・5G」覇権の狭間でグローバル総研所長/小林 良暢
- 21世紀の西欧デモクラシーの命運成蹊大学法学部教授/今井 貴子上智大学国際教養学部教授/サーラ・スヴェン
- トランプの「偉大な国」とは「白人の国」国際問題ジャーナリスト/金子 敦郎
- G20サミットと環境問題:姿勢問われる日本京都大学名誉教授/松下 和夫
- グレタさん効果と緑の党の大躍進ベルリン在住/福澤 啓臣
- グローバリゼーションと労働運動(下)東京大学名誉教授/田端 博邦
- 社会的弱者を排除しない公教育の形成へ京都教育大学大学院非常勤講師/亀口 公一
- 混迷を切り開く知性の再建に向けて神奈川大学名誉教授・本誌前編集委員長/橘川 俊忠
- 『国体の本義』を読みなおす筑波大学名誉教授・本誌代表編集委員/千本 秀樹
- 歴史に向き合わず、対立を煽る「目眩まし政治・メディア」の危うさ―市民社会の理性が必要だ青山学院大学法学部教授/申 惠丰