編集部から
編集後記
――アメリカの南北戦争はまだ終わっていない?
●トランプ米大統領が誕生して2週間、「異様な大統領」の言に世界は揺さぶられ、日本はアブついている。2017年は間違いなく後世の歴史に刻まれる。その誕生の振り子をトランプに傾けたのは既成の権威や政治への民衆の反乱であったことは間違いない。しかしその民衆を食い物にして巨万の富を築いたトランプへの一票は、やはり悲しき反乱と言わざるをえまい。事実誕生した政権の中心は大富豪と金融大手と軍の将軍=3Gとか。およそ民衆とは異質の連中。トランプの一貫した手法は、人間の本姓に潜む“劣情を煽り組織する”ことであり、“奴は敵だ、敵を殺せ”の論法だ。それに排外主義が結合すると極めて危険。これは歴史の教えるところだ。一方、総数では300万票近くヒラリーに負けたのも冷厳な事実であり、反トランプのうねりは全土―全世界に拡がる。本号特集テーマは、「混迷する世界への視座」とした。まさに予測不能な要素もあり、どのような視座を持つのかが大切。多くの筆者の皆さんが短時間の間に緊張感を持って論考を寄せていただいた。読者の皆さんに自らの視座とすり合わせながらじっくりと考えていただきたい。
●筆者とのやり取りのなかで金子敦朗さんから頂いた便りに、「トランプは決して突然変異ではなく、米国は行き着くべきところに行き着いた・・・南北戦争までさかのぼる・・・トランプの周辺に白人至上主義者がうごめき、KKKの影がちらつく。彼らが南北戦争で負けて北軍占領のもとに置かれたときに、黒人を白人と同じに扱うことにあくまでも抵抗した白人の中から生まれたことを見ると、南北戦争はまだ終わっていない、続いていると言ってもいいかと・・・」と。なるほどと妙に納得する。
●ヨーロッパでも英国のEU離脱、極右の伸長など変動を予感させる2017年。反トランプの動きは国境を越えているのもまた事実。韓国でも民衆の反乱が大統領を死に体に。眼を転じてわが日本は、世界から取り残されているのではと思うような異様な凪状態だ。あわよくばプーチン訪日―北方領土解散を目論んだアベは、ものの見事にプーチンにしてやられ、真珠湾解散もうまく行かず、その落ち込み方は深刻であったとか。しかしこれまた異様なアベの高支持率が続く。維新の会の自民へのすり寄りの援護を得てアベ一強は盤石とも言われる。批判力喪失のメディアの責任大。しかし一寸先は闇、盛者必衰は世の習い。下駄の雪と揶揄される公明党。都議会での自民との隙間風は国政に影響するのか、一応の注視は必要。いよいよ国会では稀代の悪法―共謀罪の論戦。しっかりせよ民進党だ。“アベ政治を許さない”を掲げ、着実な野党共闘に踏み出せ、それしか生きる途はない。すでに共産党はルビコン川を渡ったと言われる。もたついていると民進党消滅の危機もあるのでは。自民の一強を許すのは、社会的対抗勢力の弱さ、後退であると本号で橘川俊忠さんが指摘する。それは労働組合・労働運動の後退に端的に現れている。しかし社会的権力・ヘゲモニーの構築の可能性は多様な市民運動の重層的構築の中にあり、リベラル派はその領域では優位性を持っていることが、希望であると語る。
●沖縄の苦闘は続く。辺野古―高江の強行、宮古島市長選で自衛隊基地設置容認派市長誕生、石垣島でも自衛隊基地設置の動きが進む。また翁長知事側近副知事の辞任など政治も揺れる。先日やっと国会内で抗議集会が開かれたが、平和センターの山城議長の罪にもならないような微罪での長期拘留。アベ―菅の異常な弾圧ーそれだけ政権側の危機感の現れだが、体調の悪い山城さんの救出は一刻を争う。本号で、沖縄基地の本土引取りを主張し論陣を張ってこられた高橋哲哉さんに問題提起頂いた。本土の人間が真剣に考えるべきと胸に迫る。本誌としても今後も継続して取り組みたい。今沖縄の米軍基地をどうするか、と同時に沖縄の自衛隊基地増強問題が大きく浮上。ソ連崩壊で北海道の陸上自衛隊の持って行き場がなく沖縄と(森本元防衛大臣が発言との報あり)。東シナ海、南シナ海での軍事的緊張の高まり、中国の軍事的脅威を声高に叫び、離島防衛(陸自)配備とか。これなど言うのはタダの領域の予算獲得―自衛隊増強―軍拡路線だ。本当に局地的にせよ軍事衝突が起これば、最初にミサイルが飛んでくるのは軍事基地のあるところは常識。琉球列島―台湾は中国から見れば正面・頭の上の帽子の位置と距離。犠牲になるのはまた島民―沖縄県民だ。賛成している島民もよく考えるべき。尖閣防衛もしかり、トランプも“日米安保の対象”ぐらいのことは言うだろうが、領有権には介入せずだ。これトランプで変わるか? そもそも、“あんな岩のために米兵の血は流さない”が米の本音。防衛の一義的責任は日本にある、が日米合意だ。政府の言い得を許さず、またそれを垂れ流すメディアに抗し、我われも安保―防衛問題の見識を高める必要がある。(矢代 俊三)
●今号では、多くの論考がトランプの登場を論じていただいた。皆さんの危機感が強く伝わってくる誌面になっている。その中で下斗米論文は、一方の話題の人―プーチンの動向を綿密にとらえ、その一貫性に注意すべきだと論じている。直近の問題を考えつつ長い歴史的スパンでものを見ていくという、難しい思考態度が求められるということだろうか。トランプが話題になるが、我が安倍政権をどうするか、こちらも重い課題だ。世論調査の中には、本年初頭の内閣支持率が67%というものまで現れた。その安倍政権は、今「働き方改革」を標榜して、同一労働同一賃金とか長時間労働の規制を強めるとか言っている。本来労働者・労働組合が闘い取るべきものが、官邸からもたらされるという事態。労働組合運動に携わるものとしては、何とも情けない。安倍の言うことはまやかしだ、とは言うものの、対抗する勢力としての労働運動をどう建て直すか、重く突きつけられる。
●要宏輝論考も指摘するように、安倍の同一労働同一賃金は現行法の枠内にあることがらだけを述べているので、このままでは実効性がない。とりわけ、このガイドラインづくりを主導する水町教授が強調していたように、挙証責任の転換(現在は差別があることを労働者が証明しなくてはならないが、法改正によって、逆に使用者が差別の合理性を証明しなくてはならなくなること)こそが重要だ。立法問題としてはそこにこだわり、一方で運動や裁判で事実として同一労働同一賃金を実現しなくてはなるまい。また長時間労働の規制と言うが、それを言うならまず国会上程中の労基法改悪案(ホワイトカラーエグゼンプションと裁量労働制の拡大)を引っ込めるべきだし、過労死基準を超える「月100時間」の残業を法認することなど、絶対に許してはならない。労働政策審議会の審議過程から労働者代表を外していこうという動きが始まっており、経済産業省が「雇用によらない働き方」を検討する会議を始めているなど、ともかく「労働」が世の中から消されようとしているところだが、本誌はそうした流れに抗する論陣を張らねばならないと思う。(大野 隆)
●初めて編集後記に参加しますが、『現代の理論』周りの”仕事”で気になることを一つ。何かというと、毎号発信にあたり読者の皆様にお送りしている「発信のお知らせ」です。ありがたいことに、紙版での発行が30号で終刊し、2014年にデジタルで再刊・発信以来、多くの方にメールアドレスやお名前を登録頂き、今も毎日のように購読・配信依頼が到着しています。その登録読者全員宛に「発刊のお知らせ」をメール送信してますが、「あてどころに訪ねあたりません」とばかりに不達の返信が返ってくるものがあります。本誌ではこの不達の原因を突き止めるべく、「一度に多数のメールを送っているからではないのか」「プロバイダが不適当なのではないのか」といろいろな仮説を立てて、それに対応して「発信のお知らせ」を1通ずつ送ってみたり、別のプロバイダから送信してみたりと対応策を取っています。そのたびに何通かの不達メールの原因らしきものが判明しました。なかでも大きな理由の一つは、各プロバイダが採用している迷惑メール対策のフィルターです。また、職場を変わられるなどのさまざまな環境の変化により、メールアドレスが有効でなくなっているケースもあり、中には登録の際に、つい「指が滑った」と思われる方もおられます。
●本誌では今後とも不達メールの改革に取り組みます。読者の皆さんもお知り合いから不達が話題になりましたら、是非、現代の理論に一報頂くことをお奨めください。別途対処させていただきます。また受信は無料ですので是非友人に『現代の理論』をご紹介ください。別件ですがもう一つ。毎号発信の直後に「旧い号が表示されて更新されない」「目次から論文に行こうとクリックするが、何も変化しない」とのお問い合わせをいただく。このような場合には、更新キーに当たる、キーボードの上の方にあるF5(機種によってはF6)を数度叩いてから目的の場所をクリックしていただくとうまくいくことがあります。ぜひ、お試し下さい。(北川 徹)
季刊『現代の理論』2017新春号[vol.11]
2017年2月5日発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会
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