編集委員会から

編集後記(第31号・2022年夏号)

アベ銃撃で晒された日本の闇、それでもカルト宗教と癒着
のアベの国葬か

▶ 日本もアメリカも欧州も混迷する時代へ突入しているのか。本号特集テーマは、「混迷する時代への視座」とした。混迷の時代―コロナやウクライナが一層拍車をかけているようだ。その特性の一つは社会の分断である。歴史的に形成されてきた知性や教養はもとより、ほぼ合意が形成されている“社会の常識”すらが揺らいでいる。

アメリカ社会の分断は深刻だ。トランプなど陰謀論の張本人で、カルト的様相を孕んでもアメリカ社会には強固な支持層がある。相も変わらず大統領選の不正を主張し“オレが勝った”と言い続けている。議会証言で、陣営幹部が相次ぎ否定し、トランプ批判を証言しても、この男は次期大統領選出馬を公言。議会襲撃で訴追されるかどうかの瀬戸際の現在。詳しくは本号で金子敦郎さんが。欧州情勢では、松尾秀哉さん、福澤啓臣さん、そしてドイツ合同サービス労組のディール・ヒルシェルさんにリアルな報告を寄せて頂いた。巻頭で住沢博紀さんが先の参議院選挙の総括を踏まえ、「立憲民主党再生戦略の考察と提言」を、前号に続き登場願った参院選で42万票を獲得、国政復活を果たした辻元清美さんは、「地域の自立した活動・繋がりをボトムアップの政治に活かす」と訴える。橘川俊忠さんは、「混迷の時代、諸策の原点は人命尊重にあり」と。

▶ さてトランプのお友達―わがアベ晋三さん。選挙応援中銃弾に斃れる。人の命は誰しも大切、気の毒ではある。しかし事件以降、儀礼の域を越しアベを美化し神格化する論調もみられるが断じて間違いである。アベの功罪は徹底して論じられるべきであり、歴代最長の総理なら、なおさらに歴史の審判にゆだねるべきである。しかし岸田総理は早々と「アベの国葬」を閣議決定。“それ何や”と思ったのは編集子だけではあるまい。アベの銃撃死が自公の「参院選勝利」に寄与したのは間違いないだろう(自公の勝利か野党の敗北か?総括対象)。銃撃の源となった山上徹也の“オウム憎し、それに寄与する安倍”から、山上の思い込み、短絡が語られたが、果たしてそうかが問われだしている。

▶ それは、事件の根っこにある統一教会(現・世界平和統一家庭連合。以前の国際勝共連合、原理研など関連団体・ダミー団体は数えきれない)とアベのあまりにも深い闇の関係が暴露されつつあることだ。これは急展開している。一部の雑誌やテレビメディアが先鞭をつけてやった、と評価できる(しかしNHKは酷い)。メディアの劣化を本誌は論じているが、この件では奮闘するメディアもみられる(首相が岸田ならやり易いのか)。アベ・高市早苗体制ならすでにメディアに介入しているであろう。下村博文もオウムの名称変更の当事者性が露呈している。カルト宗教―犯罪者集団・統一教会と自民党との関係ではアベ本人と安倍派が突出して多い。統一教会の票をアベが一存で差配していたという。自民党の機関紙よりまだ右寄りと揶揄される産経新聞の政治部長などを務めた北村経夫を参院選で擁立、統一教会票で当選させた。7月の参院選でもアベの元秘書官井上義行に統一教会票を強引に割り当て、前回票を流した現職の立候補断念に追い込んでいる。

▶ 先の石原慎太郎の死去の時にも見られたが、「死ねば過去を水に流す」日本的風土があるなかで、それを利用し岸田は法的根拠もないアベ国葬を突如表明した。アベの業績を美化し国葬も当然と容認する報道や沈黙する雰囲気もあった。しかし情況は急変している。7月30~31日実施の共同通信世論調査結果に永田町で衝撃が走ったという。賛成45.1:反対53.3と逆転したのだ。国葬発表直後のNHK(16~18日)は、賛成49:反対38。23~24日の産経は、賛成51.1:反対46.9と拮抗。29~30日の日経新聞は賛成43:反対47と僅差で逆転。通常の世論調査方式と異なるがいくつかのブロック紙や地方紙がSMSで調査を行っている。中日新聞は反対が76.4%、南日本新聞が反対72.2%、長崎新聞75.6%などとなっている。国葬を強行すれば、こうした声が逆風として岸田や自民党に返ってくるであろう。

▶ 安倍と統一教会の結びつきは昨日や今日の話ではない。アベが敬愛する爺さんで元総理の岸信介は統一教会始祖の文鮮明の日本進出で最大の協力者といわれる。統一教会日本本部の64~67年の所在地は東京都渋谷区南平台の岸邸の隣接地、番地は同じとの報道。その土地は岸が総理時代、総理公邸として使われたと毎日新聞が報じた。その庭で岸と遊ぶ晋三の幼少時の写真も残っている。三つ子の魂百までか。岸はその後、アメリカで巨額脱税事件の実刑判決で投獄されていた文鮮明のためにレーガン大統領に元総理として釈放の嘆願書まで出している。

▶ 国葬など戦前は山本五十六連合艦隊司令長官の国葬に見られるように、国威発揚―政治利用の最たるもの。戦後の総理で唯一の吉田茂の国葬では国会の内外で大論争が巻き起こった。そもそもアベの功とは何か?歴代最長政権というが、自民党総裁任期2期までを強引に3期に変えた張本人だ。今回の銃撃事件は仏教用語でいう“因果応報”がピッタリではないか。そう思えてならない。若いころ読んだ初期マルクスの「ヘーゲル法哲学批判・序説」の有名な一説を思い出す。“宗教は現代のアヘンである”。19世紀の市民社会の病根を抉り、経済学批判へ向かう起点になった。

▶ 前号(30号)掲載の早川行雄さんの、「芳野友子新体制で岐路に立つ連合―会長の器ではない、速やかな交代を・・」は大きな反響を読んだ。労働界の多くから、“よくぞ言ってくれた”の声が多いとか。それにしても連合をはじめナショナルセンターの社会的影響力の低下は深刻。若い読者はもうご存じないだろうが、“昔陸軍、今総評”と、政治や社会への影響力の大きさを語る言葉があった。今や連合の存在自体が問われているのではないか。連合芳野会長で物議を醸した自民党への接近を、「政治と連合」の関係で早川さんが再び今号で論じる。「迷走する連合は出直し的再生をめざせ――芳野会長は出処進退を明らかに!政権交代ではじめて実現する政策がある。これが連合の政治方針」である。

▶ 昨今のネット社会。ネット戦で国政に進出する政党まで出てきた。ネットの功罪についてもっと真剣に論じ、できる対処はすべきではないか。これは右も左もない。それにしても短絡思考の人間を生み出すネット社会の弊害は深刻。反ネットでは済まされないがどうするか。これには英知を結集すべき。そして左右を問わないが新聞よしっかりせよ、と言いたい。斜陽産業であっても、まさに明治以降150年の歴史を刻んできた第4の権力だ。権力監視・批判が命。朝日の“中道へ、中道へ”の権力・保守派へのすり寄りは見苦しい、“心ある朝日人!奮起せよ”と言いたい。本号で小黒純さんが、安倍銃撃事件のメディア報道を批判的に分析。(矢代 俊三)

季刊『現代の理論』[vol.31]2022年夏号
  (デジタル31号―通刊60号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2022年8月8日(月)発行

 

編集人/代表編集委員  住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

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