特集 /人間の正邪問うコロナ  総選挙近し   

デジタル庁構想の狙いは何か

超監視社会の到来許すな! 廃案めざし強制させない取り組みを!

共通番号いらないネット 宮崎 俊郎

1. なぜいまデジタル改革なのか

4月6日衆議院本会議にてデジタル改革関連5法案が採決された。重要法案だとされながら、たった27時間の内閣委員会における審議ののちに。内容が多岐にわたる6法案を一括審議するという無理な構造のため、提出法案に45か所もの誤りが発覚するという前代未聞の醜態まで晒した。

しかし、この法案に対する反対の声は、これまでの安倍政権時代に成立してきた監視法である秘密保護法、盗聴法の拡大、共謀罪などに比べて圧倒的に小さい。なぜなのか。

そこには大きく二つの要因が作用していると私は考える。

一つはデジタル化で私たちの生活は便利に、豊かになるという幻想である。デジタル化で行政に対する申請は自宅のパソコンからオンラインで可能となる。民間取引もデジタル化されればリモート決済の上、口座から代金が引き落とされることで短時間化される。こういったバラ色の近未来像がバラまかれ、私たちは「デジタル化=善」という幻想が埋め込まれてしまっている。

しかし、デジタル化されるということの権力にとっての最大のメリットは、オール記録社会になるということだ。これまで現金での商取引は商品と現金が交換されれば、そこで完結していたが、相手が特定されなくても何ら支障はなかった。ところが、デジタル取引となると双方が特定されないと商品と代金の引き渡しはできないことになる。つまり私たちの一挙手一投足が記録されることになる社会。これがデジタル化の真の狙いだ。これによって超監視社会の下地が出来上がることになる。

さらにデジタル化は共通化・標準化・統一化を伴う指向性を持っていることに注意しなければならない。つまり多様性や差異化を嫌い、効率性の名の下に様々な社会的排除が容認されやすい構造を作ることになる。デジタル化とは単に現在の社会システムをそのまま電子化することではなく、こうした社会構造そのものを改編していく壮大な行程なのだ。まさに国家と企業のための社会システム形成のための事業なのだ。

もう一つの重要な要因はコロナ状況にある。密な状態を極力避けることは、感染対策として有効である。私たちの運動体の会議でも密を嫌って、リモート会議の割合が増えてきている。こうしたコロナ禍をうまく利用して一挙にデジタル化を推進しようというのが今回の菅政権の企みだ。運動の側に「私たちのデジタル化はよいが、菅のデジタル化は悪い」という安直な裁断が侵入してきていた。そこをうまく突いてきたのが今回のデジタル監視法案だったのだ。

デジタル庁の進めるデジタル化はすべての行政への申請を100%デジタル化すると政府は説明している。ところが国会議員が関係する政治団体が政治資金収支報告書をオンラインシステムを使って提出していたのは2019年分でなんと1.13%。あの平井卓也デジタル改革大臣は「膨大な領収証のコピーをPDF化しなければならず、オンラインの方が作業量が多くなってしまう。」という理由からオンライン申請していない。このシステムには36億円の国費が投入されている。「何でもデジタル」の可笑しさを自ら立証している笑えない話だ。

しかし、私たち市民にデジタル・オンライン申請を半ば強制しようとしておきながら、デジタル改革関連法案を立法しようとしている国会議員はデジタル・オンライン申請を勝手な都合に合わせて行わないなんて屁理屈がまかり通ってはいけない。少なくともデジタル化に対する主体的な選択権を行使できる権利が保障されなければならない。

2. デジタル庁構想は超監視社会を招来する

デジタル庁とは、他省庁からデジタル化について人もカネも権限も取り上げて強権的にすすめようというトップダウン方式の官庁である。 

行政手続においてオンライン化やデジタル化の掛け声の割に実際は進行が遅いので、各官庁ごとの権益を取っ払ってシステムの標準化・統一化を強硬に進めようというものである。

こうした強引な手法の狙いは、私たち市民の利便性では決してない。検討している政府のワーキンググループの資料には「データの利活用」という言葉が溢れかえっている。私たちの個人情報も「自己情報コントロール権」などは抵抗要素でしかなく、いかに本人同意なく共同利用していけるかを標準化・統一化においては徹底的に模索しようとしている。

システムの標準化・統一化が行われるのは国の官庁だけではない。地方自治体のシステムも土俵に上げられ、全国規模のクラウドである「Gov-Cloud」に参入させられていく。これまで自治体はその地域にあった福祉や教育を提供してきた。しかし、今回の措置は、全国共通の仕組みに変えて違いを認めないということを意味する地方自治の破壊であり、国の出先機関化である。

さらに個人情報保護の仕組みすら国に合わせて低レベル化しようとしている。情報の利活用にとって自治体条例は目障りなものとしか映っていないのだろう。多くの自治体は住民情報を他団体と「オンライン結合」することを個人情報保護条例で禁じている。こうした条項も廃止の対象としてあげられている。法律レベルにおいて現在ある「個人情報保護法」「行政機関個人情報保護法」「独立行政法人個人情報保護法」の3法を一本化するとともにすべての自治体の個人情報保護条例を国のルールに従ったものに変更させようという法改正が出てきた。

これまで行政はその組織の目的に応じてシステム化を個別に行ってきた。そのため「縦割り行政」としていまは指弾の対象となっている。確かに行政内部で情報流通しないため、部署ごとに同じ内容の申請を余儀なくされる。

しかし、個人情報が自由に内部流通できないからこそ保護されてきたのだ。壁を取っ払って自由に流通でき、個人情報保護の規制を緩和していくということは、情報が集中するか、もしくは容易に手繰り寄せることが可能となるということを意味する。

そして作り出されるは、民間も利用できる巨大なデータベースだ。監視機能と同時に民間企業にこのデータベースを利用させていくことがデジタル化のもう一つの狙いである。国や自治体の保有しているデータを「ベース・レジストリ」という巨大なデータベースとして整備し、民間企業にも利用できるようにするという。本来やらなければならないのは、国や自治体の保有している隠蔽された森友・加計学園などの情報の市民への情報開示であり提供であるはずだ。

3. デジタル庁番号=国民総背番号を許さない!

2月17日の衆議院予算委員会において、立憲民主党の長妻議員は3年前に起こったマイナンバーの違法再委託事件について入手したメールを材料に、政府を追及した。日本年金機構の違法再委託先である中国ではマイナンバーも含む500万人分の特定個人情報が誰でも見られるようになっていたと。

もしこれが事実であればマイナンバー制度の根幹を揺るがす大事件である。そもそも番号法では、マイナンバーの処理を委託・再委託できることになっている。しかし再委託する際は、委託元の許諾が必要である。この許諾なしに勝手に委託先が再委託すれば、再委託先のコントロールは効かなくなる。

私たちばかりでなく、個人情報保護委員会ですら、違法再委託は「漏洩事案」だと認定している。そのうえ物理的に特定個人情報が漏洩した疑いが濃厚だとすれば、デジタル改革関連法案の審議どころではないのではないか。まずは真相徹底究明が必要だと私は考えるが、国会においてこれ以上の追及は行われていない。

衆議院内閣委員会においてはちょうどLINEにおける個人情報漏洩事件にかなり多くの時間が割かれていたが、併せて同じような構造のマイナンバーの違法再委託漏洩事件を追及しないのか疑問の残るところである。この真相究明が行われれば、この法案そのものが吹っ飛ぶくらいのインパクトはあったはずだが。

マイナンバー制度をこれまでの「税・社会保障・災害対策」の3領域から解き放ち、すべての領域のデータベースのキーコードとしてデジタル庁が管理しようというのが今回のマイナンバー制度改革である。まさにこれはスタート時点の制度とは似て非なるものだ。

マイナンバー制度はこれまで内閣官房、内閣府・総務省などが役割分担して所管してきた。それをデジタル庁一括管理とする。またマイナンバーカードを発行している地方公共団体の共同運営組織である地方公共団体情報システム機構(J-LIS)をも管轄下に入れようとしている。

デジタル庁の所管する共有化・標準化された情報=データを串刺しにするキーデバイスとしてマイナンバー制度を位置付け直し、あらゆるデータに紐付けられるよう再構築を図る、まさに国民総背番号と呼べる番号への変貌を図ろうということではないのか。

コロナ給付金の支給遅れを全く関係のない銀行口座とマイナンバーの紐付けがなかったことに原因を転嫁し、義務付けを画策していたが幸いなことに頓挫した。しかし最終的な狙いは金融資産の把握であろう。

現在最も狙われている領域が医療と教育だ。特に教育では生徒児童の成績のマイナンバーによる一元管理も浮上しつつある。人間にとって最もセンシティブな情報をマイナンバーを使って紐付けようという構想は要注意だ。

マイナンバーカードも昨年11月時点で交付枚数はいまだ3000万枚に届かず、2割程度しか保有していない。本来であれば敗退してもよいシステムだ。しかし、デジタル庁構想の下、菅政権はなりふり構わず交付率を上げようとしている。

今年3月からは保険証利用が開始され、昨年は急に2026年から運転免許証としての利用も警察と合意が成立したと報じられた。運転免許証としての利用は警察のマイナンバー制度の利用に大きく道を開くものであり、断じて認められない。

そして急浮上したのが、コロナワクチンへのマイナンバー利用である。基本的に自治体の事務である予防接種の管理に国のシステムを持ち込むことは無用の混乱をもたらすものであり、10万円の特定給付金の二の舞いとなる危険性は高い。

さらに、マイナンバーを利用する事務については、漏洩や不正利用などのリスクを事前に自己点検する「特定個人情報保護評価」を遅くともプログラミング開始前までに実施することが義務付けられている。しかし、コロナ接種利用では保護評価の必要性は認めたが、事後評価でよしとした。しかも雛形をIT総合戦略室で用意するという。コピペでもしなさいと言わんばかりに。

かようにこれまでのマイナンバー制度が不便で使われなかったのは、様々な規制の存在が原因で、それらを取り払うことで便利に使えるようになるという言説が横行している。私たちがしょうがなく付けさせてきた「規制」が取り払われれば、行き着く先は国民総背番号制である。

4. デジタル監視法案の成立を阻止しよう!

2月9日にデジタル改革関連6法案は閣議決定され、国会に提出され、4月6日の衆議院本会議で可決され参議院に送られた。簡単にその中身を見てみよう。

①デジタル社会形成基本法案

 IT基本法を廃止して新設。デジタルデータの利活用ばかりが条文でも多用され、個人情報の保護はたった1か所にとどまっていることからもその姿勢は利活用にある。

②デジタル庁設置法案

 予算も人も集中させる。強力な総合調整機能(勧告権等)を有する組織。国の情報システム、地方共通のデジタル基盤、マイナンバー、データ利活用等の業務を強力に推進。内閣直属の組織で、庁は首相。デジタル大臣の他、特別職のデジタル監を置く。

③公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案

④預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案

 この2つの法案は公的給付等を受けるために預貯金口座を国に登録する前者とその口座とマイナンバーを紐付けする後者。当初は義務付ける法律として構想されていたが、資産管理を忌避する自民党議員からも反対の声があがり、あくまで任意となった。任意とはなったが、金融機関には利用者に対してマイナンバー提供を求める義務を課しているため、これまでとは異なりしつこい提供要請がなされる危険性が伴う。

 衆議院内閣委員会において日本維新の会が口座開設者にマイナンバー提供を義務付ける修正を迫っていたことには大変驚いた。要注意である。

⑤地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案

 基幹的な17の業務について自治体ごとの情報システム運用を認めず、国の示すシステムを利用することを規定する。自治体の国の出先機関化。この法律案だけ総務委員会での審議。

⑥デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案

 今回のデジタル案件で既存法の改正となるものはこの法案に入れられた。60を超える法案であるが、いわゆる「ハンコ廃止」関連法案が49にのぼる。最も重要なものは個人情報保護法制の一本化とともに全国的な共通ルールを設定することで、個人情報保護条例を低レベル化する個人情報保護体制を変更する法律案が含まれている。その他にも国家資格のマイナンバー利用や電子証明書のスマホ搭載を認める公的個人認証法改「正」など多様な内容を含んでいる。

まずはどういうデジタル社会を形成すべきかを規定している基本法案を審議してその方向性を確定してから個別法の審議を個別に行うべきである。少なくとも個別審議においては個人情報保護法については単独で審議すべき案件である。束ね法案=一括法案として短時間の審議でとても審議し尽くすことのできる内容、分量ではない。

近年、こうした本来個別に審議すべき法律案について一括して扱う手法が多用されているが、これは国会軽視であり、民主主義の崩壊につながる由々しき事態ではないのか。

5. 今後の闘い

いまこの原稿を書いている時点では参議院内閣委員会で審議入りしていないが、衆議院の審議時間を鑑みると5月中下旬には成立してしまう危険性が高い。

この悪法がたとえ成立したとしても、デジタル監視は途に就いたばかりである。現在進められているデジタル化はほとんどうまくいっていない。厚労省の開発したコロナ感染者報告システムのHERSYSは入力項目が100を超えるため、うまく利用されていない。コロナ感染者追跡アプリのCOCOAも4か月間もうまく機能していなかったにもかかわらず不具合情報が最近まで公開されなかった。コロナ予防接種にマイナンバーを紐づけて利用するという計画も平井卓也デジタル担当大臣が急遽発表したものだが、本来自治体が管理すべき情報を強引にマイナンバーと紐付けてもとてもうまく機能するとは思えない。

かようにトップダウンのデジタル庁によってかえって現場の混乱は深まることも想定される。デジタル化とはあくまで現場の仕組みを反映したものでなければうまく機能することはないからである。

マイナンバー制度もマイナンバーカードの強引な普及策を見るにつけ、ある割合までは交付率も向上するだろうが、それ以上伸びていかないのではないか。ということは保険証や運転免許証利用というのは画餅でしかないことになる。

まだまだ今後の闘いによってマイナンバー制度の廃止も十分展望できるのだ。

そして肝心なことはデジタル化を強制させない取り組みが必要になってくると私は思う。「アナログ選択権」をあらたに提唱し、私たちの貴重な人権として位置付けるべきだ。アナログ方式を選択する方法を確立し、アナログを選択しても不利益を被ることのないようにするということを権利として確立することが重要だと思う。 

最後に今後の監視技術としては最も注目度の高い顔認証についてアメリカのいくつかの州の決断を希望として捉えておきたい。世界の反監視運動は日本を超えて進みつつあるのだ。

アメリカ・オレゴン州のポートランド市議会は、昨年9月に市内の民間企業と市当局による顔認証の使用を禁止する条例を満場一致で可決した。これまでもサンフランシスコ・ボストン・カリフォルニア州オークランドでは市当局のみの使用を禁止してきた。このポートランド市の決断は民間企業をも包含している点で画期的だ。本稿をポートランド市長の次の言葉で締めくくりたい。

「すべてのポートランド市民に、個人のプライバシーを危険にさらす人種差別や性差別が確認された技術を使用しない自治体を得る権利がある。」

みやざき・としお

共通番号いらないネット事務局・共謀罪NO!実行委員会のメンバー。デジタル監視法案に対する共闘組織として「NO!デジタル庁」を立ち上げた。2002年の住基ネット時より一貫して番号問題に取り組んできた。

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