編集委員会から
編集後記(第27号・2021年夏号)
―――コロナ禍五輪、醜態晒す菅は現代の棄民策の蛮行―
メディアの劣化も深刻
▶本号の特集タイトルは、「第4の権力―メディアが問われる」とした。立法・司法・行政の三権に対してメディアは“第4の権力”だとよく語られた。大学でメディア・マスコミ論を学ぶ学生さんはそう教えられたはずだ。現在多くのメディアを冠した学部や学科があるが、果たして今はそう教えられているのだろうか。またメディアの役割は“ウオッチドッグ(権力監視の番犬)”だと語られた。今やもう死語かと思わせる昨今である。新聞というのは歴史を刻む貴重な活字文化だが、その衰退は深刻。部数減が止まらず経営危機―合理化―現場の疲弊の悪循環。新聞を読んだことが無い学生が増えているとか。一方、“花形産業”であったテレビ・ラジオの放送の世界も危機が進行しているようだ。
▶新聞もテレビもネットや電子媒体によってその存在を脅かされているが、メディアの役割は今も変わらず、社会を構成する重要な要素である。第4の権力・メディアには、今なお重要な社会的役割を担うことが求められている。その核心点はやはり“権力監視”であろう。また権力や一部勢力によって操作される危険性を孕むネットや電子媒体の実相を暴き監視することも新たな課題・役割であろう。本号で、あの“ご飯論法”の名付け親の上西充子さんは、メディアの役割として“常時の権力監視”を求め、私たちにも、国会ビューイング活動などを通して、「国会をみよう、そして考えよう」と社会のあり方を決める主権者としての自覚を持つことを訴える。本誌前号で、小黒純さんは、「権力に迫っているつもりなのか―匿名だらけの報道」とメディアの現状を批判していた。本号で斉加尚代、西村秀樹さんは、テレビメディアの現場から、貴重なレポート。放送界とそこで働く人々のその良心といわれる『テレビドキュメンタリーの真髄』が刊行された。その帯に「人生を賭け、命を削って番組を制作した者たちの証言」とある。
▶コロナ禍で新たな感染爆発の到来。中止・または延期せよの圧倒的な声を無視して、ただただ自己の政権の延命のために五輪開催をスガは強行した。五輪の喧騒の下で、コロナの感染爆発が進行する中で五輪は幕を閉じた。もう無茶苦茶な五輪であった。復興五輪の旗はどこへ行ったのか、語られもしなかった。いわば無観客を中止の世論との取引に使うがごときであった。感染への影響を危惧する声には“安心、安全な実施”を文字通り念仏として唱えるのみ。これには記者の皆さんも開いた口がふさがらなかったとか。スガの本音は、「国民なんて忘れっぽいものだ。オリンピックでメダルを増やし、ワクチンを進めれば選挙も勝てる」のみだと語られていた。自民党内にすら危惧する声は多かった。いざ五輪に突入し、国民の意識は変わったか? オリンピックの熱戦の評価は割り引いたとしてもスガ政治への評価は高まったとはとても思えない。(朝日新聞の8月7,8日の世論調査では菅政権の支持率は28%に低下)。
むしろ五輪開催中に感染が爆発し、スガら一部の人間(5人組)で「中等症患者は原則自宅療養」の恐るべき決定が突如なされる。これには野党のみならず選挙への悪影響を危惧する与党からも撤回要求が出る始末。しかしスガは居直っている。スガが依拠するのは「コロナなど所詮風邪、インフルエンザでも死者は多い、感染症では一定の死者はやむ無し。むしろ日本は少ない」の一部の学者連中や「経済回して金儲け」にまい進する諸悪の根元・竹中平蔵などに依拠していることは明らかだ。本誌の橘川さんは、「せこく、いじましく、こざかしい政治の不幸――愚かな政治家による愚民化政策がもたらす棄民の悲惨」と、黙っておれないと断罪。乞う一読。
▶それにしても東京五輪は不祥事が山のよう。それも看過できない事案が多数である。ネット情報で「トラブル年表」が報じられる始末である。読者の皆さんもいくつかは忘れられているのでは。それは東京競技場の建て替え問題に始まり、大会エンブレムの盗用疑惑、そして日本オリンピック委員会の代表辞任、今年2月の森喜朗の女性蔑視発言から始まる日本オリンピック委員会と今次開催をめぐる醜態は誠にお粗末である。それが開閉会式演出者のトラブル。この男のあまりに酷い障害者いじめ・差別を自ら自慢していた記事が暴露され辞任。それを財務次官あがりの武藤事務総長が擁護するお粗末。開会式前日には、デレクターを務めるコメディアンが過去に「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」を商売ネタにしていたことが発覚し解任。それをユダヤ人の人権協会に通報(まあタレこんだ)したのが現職の中山防衛副大臣。政府として対処する前にである。やはりこれもおかしい。キリがないのでやめるが、ここでどうしても触れておきたいのは以下。
▶そもそも、東京招致にあたり、アベが例の衣装で「アンダーコントロール」と嘘をついたこと。都知事であった猪瀬直樹は「アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候、と立候補ファイルに記述」(これがなければ、イスタンブールが当選したかも)。立候補書に嘘を記載した罪は重い。日本のこの暑さと湿度に多くの選手は参っている(8月8日の最終日のマラソンで出場106人中30人が途中棄権。札幌に変更し早朝スタートでも暑さと日本の湿度の高さにやられたのだ。金メダルで日本有利と公然と語る関係者もいたとか。
もう書けばキリがないが、どうしてももう一点触れておきたい。現行のオリンピックがIOCのバッハ会長が、ボッタくり男爵と揶揄されるように金まみれになっていることが白日の下に曝け出されたこと。放送利権、広告利権、etcである。問題は、東京招致にあたり、JOCが巨額の贈収賄の金をばら撒いて買収の結果、開催を勝ち取ったことである。その張本人がJOC会長であった竹田恆和(天皇の親戚らしい。息子の竹田恒泰は真正右派の論客として露出している)。フランスの司法当局が刑事訴追にむけ今も追いかけているようだ。竹田は問題が大きくなり19年6月にJOC会長を辞任(その後任が川渕三郎と言われたが、この男もトラブルで辞任?現在は山下泰裕)。竹田の弁護士費用としてJOCは2億円負担と報じられた。もうイヤになる。
呪われたTOKYO2020と言わざるを得ない。唯一の救いは、今次コロナ下で炙り出された“オリンピック”なるものが、もう金まみれ利権がらみの醜悪な世界であること。綺麗ごとの理念など完全に飛んでしまっている現実が曝け出され、我われのオリンピックに対する認識が改まったことであろう。選手の諸君には関係が無いことだ。それにしても何故このクソ熱い、蒸し暑い7月・8月の東京か。要するに巨額の放送利権を持つアメリカのNBCテレビ、また秋の時期には多くの著名なスポ―ツの大会・催事がありオリンピックでは視聴率が取れない・広告も取れない、の判断が優先。その程度のことで天下の・世界のオリンピックの開催時期が決められる、もうエエ加減にしとけである。そのNBCは東京五輪のアメリカでの視聴率が悪く、広告主と補償交渉も発生しているとか。どこまで行っても現下のオリンピックは商業五輪である。日本ではこの間の不祥事に絡んでいるのは、日本の広告屋の電通ではないか。JOCや政府、東京都などが電通に丸投げ、そこにただ儲かればいいとする広告屋の企業論理が反映、問題多発ではないのか。今次東京五輪はそこまで深く考えさせられることであった。問題は続く。
▶さらに付言しておくべきは、五輪の実況を担ったアナウンサーと解説者の酷さである。あのマイクも潰れるかのような日本選手応援の絶叫実況は何んや。勝敗を競う世界、勝者もあれば敗者もある。相手側選手へのリスペクトや思いやりのかけらもない実況をする野郎(アナウンサー)が多かった。もう恥を知れである。この世界でも劣化の進行は深刻だ(一部、心温まる国際連帯のシーンもあったが)。あれで日本の国威発揚の一翼を担っているつもりなのか、重大な歴史的役割を担っていると思ったのか、さもなくばあれほど”アホ”な実況はできまい。単純にレベルの低い、しかし深刻な悪しきナショナリズムの扇動だ。こんな連中が近い将来、”日本の自衛隊が、尖閣諸島に上陸しました。今、島の中心部に日章旗を揚げました”と平気で絶叫放送するのだろう(ちなみに、ジャーナリストの田岡俊二氏は、この地域は中国軍が制空権を握っている。上陸しても補給が続かず、餓死・全滅の危険性大と。アメリカはあんな岩のために・・である)。
▶大場ひろみさんから寄稿頂いた。「黙らない女たち、かく闘う(上)――メトロコマース裁判原告インタビューから見えてくるもの」である。メトロコマースとは全国の読者には分かりにくいでしょうが東京の地下鉄にある売店。まあキオスクです。そこで働く非正規の職員の皆さんのリアルな声です。その労働の実態や処遇など外からでは分からない。貴重な訴え証言です。本誌では常に日本における労働問題を取り上げているが、一番深刻なのは、間もなく勤労者の50%になるのではと思われる非正規の人たちの実態です。それらの労働者が日本の社会を構成しているのです。一日8時間働いて、何とか生活できる賃金・処遇をせよ、それが経営者・政府の責任だとの最低の叫びなのです。竹中平蔵などがなんと詭弁を弄しようとダメ。
▶江田五月さん(社民連結成、民主党最高顧問、法相、参院議長など務める)が6月28日に亡くなった。80歳。ご冥福祈ります。江田さんは東大時代、学生運動に邁進。裁判官に任官。77年にお父さんの江田三郎さんの急逝を受け、社会市民連合から参院旧全国区で初当選。翌年、田英夫氏や菅直人らと社会民主連合を結成。83年には岡山一区から衆院に当選。以降、当時の社会党のソ連マルクス主義の影響の強い路線とは異なる、日本における社会民主義の道を求める。また、社会党の若手議員らと「自民党に対抗する政策集団・シリウス」を結成。その後民主党から参院に出馬。07年に参院議長。11年に法相。江田さんが追い求めた日本における社会民主主義の道は今なお課題であり、立憲民主党でどう具体化されるか江田さんは見守っていよう。本号で宮本太郎さんが「社会民主主義の再生とベーシックアセット」と日本における社会民主主義の道を探る問題提起を頂いた。次号で濱口桂一郎さんとの対談で深めてもらいます。乞うご期待。
ジャーナリストの尾中香尚里さんが共同通信の配信で20年9月に実施した江田さんとの座談会、「ポストコロナ時代は人間を基盤に据えた政治を――江田五月さん、後輩たちに託した思い」(21年8月5日配信)があります。(矢代 俊三)
季刊『現代の理論』[vol.27]2021年夏号
(デジタル27号―通刊56号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)
2021年8月10日(火)発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会
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